『クロノス日本版』が創刊20周年を迎えた2025年、これまで『クロノス日本版』が紹介してきたグランドセイコーの代表モデルを振り返りつつ、評論家にして編集者、そして第一級の時計ジャーナリストでもある山田五郎氏と本誌編集長の広田雅将が、この20年のグランドセイコーの変遷と進化、そして、なぜ今、グランドセイコーが世界で評価されているのかを、それぞれの視点から語り合った。

Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年3月号掲載記事]
山田五郎と広田雅将が語る、グランドセイコー20年の変遷と進化

1958年、東京都生まれ。編集者、評論家。講談社発行の『Hot-Dog PRESS』編集長を経て独立。「西洋美術史」「機械式時計」「街づくり」などの分野で執筆・講演活動を行う。YouTubeチャンネル『山田五郎 オトナの教養講座』でも活躍中。
広田雅将:グランドセイコーのこの20年を振り返って、変わった部分、変わらない部分があると思いますが、どう思われますか?
山田五郎:グランドセイコーのこの20年を振り返ると、機械式に関して本気を出してきたっていうのがひとつ変わった点かなという気はしていますね。それから、グランドセイコーがブランドとして独立したこと。

1974年、大阪府生まれ。サラリーマンを経て、2004年より時計ジャーナリストとして活動を開始。国内外の時計専門誌やライフスタイル誌などに寄稿する一方、時計ブランドやラグジュアリーブランド、販売店でのセミナーやイベントの講師、ラジオ番組「BESTISHIDA Presents クロノス日本版 Tick Tock Talk♪」(毎週日曜20:00-20:30 @TOKYO FM)のパーソナリティーも務める。ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリのアカデミーと、ルイ・ヴィトン ウォッチ・プライズ 2025-26のメンバーでもある。2016年より現職。
広田:そうですね、2017年に。
山田:でも、グランドセイコーってなかなか難しいブランドじゃないかって思っているんですよ。
広田:というのは?
山田:まず、グランドセイコーはかつて「実用時計の最高峰」という立ち位置だった、ということがありますよね。
広田:そうですね。
山田:でももうひとつ、グランドセイコーはかつてセイコーブランド全体の中のトップブランドだったという位置付けもある。
広田:はい。
山田:ふたつの立ち位置があるわけですよ。そうすると、実用時計っていうことでは、例えばロレックスを超えていかなきゃいけない。
広田:はい。
山田:そして、セイコーのトップっていうことでは、パテック フィリップなんかと勝負していかなきゃいけない。
広田:そうですね。
山田:グランドセイコーには常に、このふたつの方向があるんですよ。その進み方が面白いなと思って。
広田:確かにそうですよね。昔はグランドセイコーっていうと、割と“おっさん時計”のイメージがあって、そのあと、僕らみたいなオタクが注目したけど、全然一般にはまだ広がらないみたいな時があったじゃないですか? 今こんな風にメジャーになるとは正直思ってもみなかったっていうのは僕の中でありました。
山田:確かにね。
広田:昔は本当に、企業人のちゃんとした人が買うみたいなイメージがあったけど、今は全然若い人も着けるように変わったなと思うんですよ。
山田:うーん。それは広がったっていうことで、俺はいいことだなと思う。あとさ、そんな中でも、機械式を作り始めた諏訪(現セイコーエプソン)と亀戸(現セイコーウオッチ)。それが今は、塩尻(編集部注:クォーツムーブメントとスプリングドライブムーブメントを製造)と雫石(編集部注:機械式ムーブメントを製造)で作っている。このふたつの製造地は、要するにスプリングドライブと機械式をそれぞれ作っている。その切磋琢磨がいまだに続いているのも特徴だよね。
広田:そうですね。
山田:これがまだ続いているっていうのが、グランドセイコーらしいなと。
広田:そうですね。
山田:こんなブランドほかにないだろうっていう。
広田:そうですよね。3つのエンジン(編集部注:クォーツ、スプリングドライブ、機械式ムーブメント)を持っている。そもそも、グランドセイコーがブレイクしたきっかけのひとつは、2005年に発表された、このスプリングドライブを搭載した雪白ダイアルのモデル。スプリングドライブを手掛ける信州の雪景色の中でも、風に吹かれた繊細な風紋を描き出す雪面を、独自のパターンで文字盤に表現したこのモデルが、日本でも世界でも売れて、グランドセイコーいけるじゃんみたいな感じになったのがきっかけ。

スプリングドライブモデルの製造地セイコーエプソン「信州時の匠工房」を囲む穂高連峰。冬の間にその山肌に見られる繊細な風紋を表現した「雪白」パターンダイアルを初採用したモデルだ。滑るように動くブルースティールの秒針が、冬の静けさを強調する。自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R65)。30石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径41mm、厚さ12.5mm)。10気圧防水。参考商品。
山田:これだったんだ。
広田:これですね。今でも作ってるんですよ、これ。
山田:これはどこが評価されたのだろうか?
広田:やはりこの雪白文字盤だからでしょうか?
山田:うん、いいね。
広田:この“雪白”と呼ばれるパターンを文字盤に型打ちして表現した。今もうグランドセイコーはこれがめちゃくちゃ得意になってる。

山田:これが元祖か。
広田:そうなんです。これがブレイクした元祖です。
山田:なるほど。だから今でも文字盤を型打ちしてくるんだな。
広田:そうです。実は型打ち文字盤自体は昔から存在していたのですが、国内外で雪白パターンが評価されて、製造地の自然をモチーフにした文字盤のバリエーションが増えてきた。だから、それまでグランドセイコーって実用時計っていうイメージがあったけど、ここら辺で変わってきたっていうか、今思えば、明らかに大きな進化でした。
山田:なるほどね。
広田:そのあとに、雪白ダイアルモデルが搭載したスプリングドライブがすごいんだったら、機械式もってことで。
山田:ハイビートをやってやろうと。
広田:はい、毎秒10振動のハイビートメカニカルムーブメントをやってやろうってことで、2009年に発表されたのがキャリバー9S85を搭載したSBGH001。これが、毎時3万6000振動のメカニカルハイビートモデルです。ここにあるのは、アップデートされて文字盤が変わったSBGH299です。

MEMS技術を用いたガンギ車とアンクル、新素材の主ゼンマイとヒゲゼンマイを採用することで毎秒10振動のハイビートと約55時間のパワーリザーブを両立させたCal.9S8系ムーブメント初搭載モデル。グランドセイコースタイルを踏襲した流麗なデザインを採用。自動巻き(Cal.9S85)。37石。3万6000振動/ 時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径40.2mm、厚さ13mm)。10気圧防水。参考商品。
山田:これも文字盤に工夫をしているんだよね。
広田:そうです。文字盤に放射目の型打ちをしています。
山田:あと、ここら辺から機械式のメカに本気になってる感じも出てきた。
広田:はい、本気になったんですね。
山田:なるほど。


広田:山田さんも、このハイビートモデルをお持ちですよね。2014年のGPHG(ジュネーブ・ウォッチ・グランプリ)で「小さな針」賞を取ったモデルと同じ型の黒ダイアルモデル。
山田:これだね。このモデルはGMT機能が追加されたモデルだけど、結構普段使いで役立ってます。
広田:実際、このモデルより前に山田さんって、セイコーブランドの時計とかグランドセイコーとか使ったことありました?
山田:あるよ、古いけど。
広田:何を持っているんですか?
山田:今、残ってるのはキングセイコーだね。
広田:キングセイコー、いいですね。
山田:あとスプリングドライブの初期のモデルも買ったし。結構、セイコーの時計は持ってるよ。
広田:スプリングドライブの初期モデルを持ってるのは、すごいですね。
山田:確かに、珍しいね。当時、スプリングドライブを買ってみようと思って。でも、あれはグランドセイコーじゃないよ。
広田:そうでしたね。あの後、グランドセイコーがスプリングドライブを載せるようになって、雪白ダイアルモデルでブレークしました。山田さんっていうと、僕の中ではやっぱり機械式時計の人のイメージがあるけれども、スプリングドライブもお持ちで、最近はクォーツにも注目されていますよね。

山田:そう、クォーツ。最近、クォーツ時計のことも話さなきゃいけないかなと思って。クォーツってなんかみんな一緒みたいに思われてるじゃん。
広田:そうですよね。
山田:だけどクォーツにも良し悪しがあるっていうことをやっぱり言ってかなきゃいけないんじゃないかなと思って。
広田:それで最近この9Fクォーツモデルを着けているんですか?
山田:これはね、うちのマネージャーが使ってるの。
広田:マネージャーさんのモデルなんですか? 良いモデルをお持ちですね。クォーツと言っても確かに、グランドセイコーの9Fクォーツはいいですもんね。
山田:もう全然、水晶振動子自体が違うから。
広田:そうですよね。
山田:2025年にすごい精度のモデルが出たじゃん。U.F.A.だっけ?
広田:はい、高精度ムーブメント「スプリングドライブ U.F.A.」を搭載したモデルですね。めっちゃすごいですよ、これ。

山田:スプリングドライブなんだけど、中に入ってる水晶振動子がものすごい。選ばれた水晶振動子が入ってる。
広田:年差±20秒なんで、これいいと思いますよ。直径37mmでブライトチタン製ケース。
山田:うん、俺も欲しいもん。
広田:僕もこれ欲しいです。でも、山田さんがお持ちのこのグランドセイコーのGMTモデルを使ってみてどう思われました?
山田:これ? 難しい質問だね。いい意味で、可もなく不可もないんだよ。
広田:それは、具体的にどういうことです?
山田:まず、なんて言うのかな、用は足りるよね?
広田:はい、全然いいですよね。確かにそう。
山田:用は足りるでしょ。そこそこパワーリザーブがあるから、置いといても平気ってとこもあるし、あとは普段使いで多少乱暴とまでは言わないけれども、そういう扱いしても平気だったりとかね。正直、GMT機能はほとんど使わないよ。もうヨーロッパの時間とかも気にしてないからさ。だけれども、普通に使う時計として頼りになるし。
広田:そうですね。過不足ないですよね。
山田:いい意味で、ほんと可もなく不可もなくいい時計だなと思ってるよ。
広田:でも、山田さんは海外の時計もいっぱい見てこられたし、実際に海外の時計も使用されてきたじゃないですか? そういう山田さんから見て、グランドセイコーって、要は日本が作っている高級時計ですけれども、海外の高級時計と何が違うと思います?
山田:ものすごく違うよね。まず、すべてがセイコーという1社の垂直統合で作られている点。スイスもグループでそういう風にしようとはしているけれども、やっぱりちょっとまだ水平分業だね。完全な垂直統合じゃない。ここがまず全然違うよね。
広田:確かに。
山田:だから高品質な製品を安定して製造できるんだよね、グランドセイコーは。
広田:そうですよね。
山田:あとは、これは若干ネガティブな話になってしまうかもしれないけれど、以前はものすごい尖ったものが出来にくかったんだろうね。極端な製品はあんまりなかった。だけど、俺が買ったこの9SA4を搭載したSLGW003で、グランドセイコーはひとつ、何かを抜け出したんじゃないかと思ったよ。

広田:デュアルインパルス脱進機を搭載した手巻きのモデルですね。
山田:そう、新しい脱進機を載せて、しかもムーブメントの設計に美意識が感じられる。巻き上げ時に動くコハゼがセキレイみたいな形になっていて、セキレイがついばむように動くとか、そんなギミックを入れてきたり、今までのグランドセイコーにはなかったことなんだよね。それだけグランドセイコーの機械式ムーブメントが熟してきたんだっていうことだと思う。
広田:そうですね。
山田:すごくそう感じて、これは買っとかんといかんなと思って、買ったわけですよ。
広田:だから、ラジオでご一緒させていただいた時も、このデュアルインパルス脱進機を載せた、自動巻きの9SA5を搭載した白樺ダイアルモデルをおすすめしたら、もうそれは買わなきゃいけないなとおっしゃって。

「白樺」の愛称で知られる白樺の群生林をイメージした型打ちダイアルとエボリューション9スタイル、高効率なデュアルインパルス脱進機搭載のCal.9SA5を組み合わせる。2021年のジュネーブ・ウォッチ・グランプリでは、メンズウォッチ部門賞受賞という快挙を成し遂げた。自動巻き(Cal.9SA5)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。127万6000円(税込み)。
山田:そうそう、それでこの手巻きの9SA4を搭載したSLGW003を買ったんだよ。
広田:でも、よくこんなのやったなって思いますよね。他に量産型の新型脱進機っていうと、オメガのコーアクシャル脱進機があるぐらいだったから。
山田:確かに、低摩擦の量産型の脱進機って、かつてはコーアクシャル脱進機だけだったから。それ以来のヒットって言うか、それ以来の成果ですよね。でも、これほど画期的な試みなのに、グランドセイコーはなぜか今ひとつそこを推してこないんだよ。一番に言わなきゃいけないことなんじゃないのって思うんだけど、セキレイがついばむとか、そっちばかり強調されて。いや、それもとってもいいんだけど、その前にちょっと待ってくださいよ、と。そもそもエンジンが違いますよ、とね。
広田:だから今までのグランドセイコーも、いいものを作っていたけれど、今回は既存のエンジンを大改造して、全く別物になっている。
山田:そうだね。よくぞやったっていう感じなんだよね。
広田:これも2017年にグランドセイコーを独立ブランド化した成果かなって思うんです。それまではセイコーブランドの枠の中でやってたけど、その枠を超えたというか、ブランドが別になって、ラグジュアリーですよ、小回りも利くし、いろいろ新しいこともやる中では、山田さんがお持ちのこのSLGW003は、ひとつの到達点かなと。
山田:グランドセイコーが独立することで、多少自由になったのかね。
広田:という感じですよね。実用時計の最高峰でなければならないっていう自分たちの縛りが、ブランドとして独立したことによって、実用性も目指すし、感性への訴求もしていこうっていうことに踏み切れたんだと思います。そういう意味で2022年に、世界初となるコンスタントフォース・トゥールビヨンも作ったんですよ。
山田:作ったね。こういうのをやり始めて、もうこれは大きな一歩だと思うな。
広田:そうですね。しかもトゥールビヨンに同軸のコンスタントフォースっていう、ちょっと面白いことを。
山田:うん、面白いことやって。
広田:まさかこんな風に進化するとは正直思いませんでした。
山田:それは俺も思わなかったし、俺にとってはうれしい変化だったね。ああいうことをやってこそ、グランドセイコーが最高峰って言えるんじゃないかな。そこでコンスタントフォース・トゥールビヨンをやってきてくれるっていう。
広田:だからその後、山田さんが着けてる手巻きの白樺ダイアルモデルだったり、このエボリューション9 コレクションのスプリングドライブ U.F.A. だったりが出てくるようになって、これも全くアーキテクチャーが違っていて、今までのグランドセイコーってムーブメントの部品を積み増ししていくから厚みが増したけど、ここら辺のモデルになってくると設計思想が違っていて、地板を大きく広げて部品を散らすような設計思想になったので、デュアルインパルスみたいに大きな脱進機を載せられた。そういう設計思想に変わってきたなって思います。

年差±20秒の高精度を誇る新開発ムーブメント「スプリングドライブ U.F.A.」を搭載した小径モデル。淡いブルーのダイアルには、スプリングドライブモデルの製造地に見られる樹氷をモチーフとした型打ちが施されている。自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RB2)。34石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径37mm、厚さ11.4mm)。10気圧防水。151万8000円(税込み)。
山田:うん、すごくそう思う。
広田:ですよね。ここまで変わるとは正直思ってなかった。見た目も含めて。
山田:それはもう本当に楽しみだよ、次にどんなモデルが出てくるかっていうのが。
広田:山田さんは、グランドセイコーをいろいろご覧になってきたから、グランドセイコーの推しのモデルはありますか?
山田:いやいや、だからもうこれだよ、これ。自分が買ったこれ。
広田:この9SA4を搭載したSLGW003ですね。ケース素材もブリリアントハードチタン。
山田:そう。ちょっと違うチタンなんだよ。
広田:ですよね。着けてみてどうですか、このブリリアントハードチタンのグランドセイコー?
山田:これはね、ケースも厚くないし、非常に着けやすくて、ちょうどいいよ。
広田:今までのグランドセイコーと比較しても、確かにこのモデルは薄くていいですね。
山田:薄いから、シャツの中にも収まるしね。だからスーツスタイルなんかにはぴったりの時計ですね。
広田:ひと昔前には一部のお堅い人とかマニアしか買わなかったグランドセイコーがこんなに広がって、しかも今、海外でも売れまくってます。
山田:そうらしいね。海外で売れまくってんのはどうして? どこら辺が受けてるの?
広田:逆にお聞きしたいんですけど、なぜなんだと思います?
山田:いや、セイコーっていう名前はさ、我々が思ってた以上に世界で有名だったんだよ。
広田:確かにそうですね。
山田:それは俺が留学した時にすごく感じたんだよ。もう今から40何年も前だけど。お前の時計はセイコーかって、よく聞かれたんだよ。その時、俺はシチズンをしてたから、シチズンの説明をしなきゃいけなくて結構大変だった。それからもう何十年も経ってるけど、やっぱりセイコー神話っていうのは海外ではいまだに根強いんじゃないかな。
広田:だから、割と新しくグランドセイコーを買う海外の人たちは、お父さんとかお母さんがセイコーを使ってて、なんかそれを見たとかもらったみたいな感じで、イメージがいいのは明らかにありますね。
山田:そうそう、そういうのがあったと思うんだよね。やっぱり過去に培ってきたイメージが、このグランドセイコーブームの背景かなという気がするんだけどね。
広田:例えばアメリカだと、ロレックスとかが嫌みたいな感じのシリコンバレーの人たちがグランドセイコーを買ったりしているんです。海外におけるグランドセイコーの受け入れ方って、うまく言えないけど、間違っていたら言って欲しいんですけど、ちょっと新版画みたいな感じですね。
山田:おお、どういう点で?
広田:川瀬巴水とか、ああいう感じの。
山田:大正時代の、新しい浮世絵を作ろうという運動。
広田:そうそう、ああいう感じっぽくて、だから見たら日本的なものではあるけれども、色使いとかそういうものも含めてインターナショナルに通じる要素だという。
山田:ああ、なるほどなるほど。確かに新版画ってそうだったからな。だから新版画もアメリカ人に売れたんだよ。
広田:そうですよね。スティーブ・ジョブズが好きだったりとか、そんな感じですよね。そこになんか近い感じがしていて。だから、僕らが思っていた絵、日本的なものってなんかドメスティックでダメじゃないみたいなものが、意外とちょっとお色直ししたら海外でいけたっていう。そう僕は思ったんですよ。
山田:なるほどね。じゃ、この型打ちの文字盤なんかも結構受けたのかな?
広田:そうみたいですね。スイスで、いろんなブランドのデザイナーと話すと、やっぱりヨーロッパ人ってシンメトリーでやりたがるじゃないですか。ギヨシェ文字盤がいいみたいな感じで。だから、機械ものはシンメトリーじゃなきゃいけない。アシンメトリーはダメみたいな感じがあるけれども、グランドセイコーの型打ちの文字盤って結構アシンメトリーじゃないですか? ヨーロッパ人ではあんまり思いつかないけれど、それをひとつのスタイルとしてしまったっていうのはちょっと面白いなって思って。
山田:なるほどね、確かにね。
広田:ヨーロッパ人だったら、例えばブレゲの本物のギヨシェ彫りがいいみたいな。そうじゃなくって、わざと白樺の樹林のいびつな感じとかを表現していくっていうのは、いかにも日本的というか、「白樺」っていう名前がっていうよりも、あえてアシンメトリーっていうところが多分日本的なのかなっていう気がして。

山田:確かに、それはおっしゃる通りだと思うね。ただ個人的には、型押しばっかりじゃなくてギヨシェ彫りもやってほしいけどね。日本古来の模様をギヨシェで。
広田:はいはいはい。
山田:ミツウロコとかさ。
広田:はいはいはい。
山田:なんか青海波とかさ。
広田:そうですよね。やって欲しいですよね。確かに手はかかります。でも、だから、ものとしてしっかりしているところに、グランドセイコーとしてのオリジナルの価値観が出来たなっていう。
山田:古い言葉で言うと「遊び心」っていうか、余裕が出てきたんだね、時計作りに。
広田:確かにそうですよね。おっしゃる通りです。
山田:世の中には、グランドセイコーにしかできないことっていうのはたくさんあると思うんだよ。セイコーが持ってる特許の数って半端ないから、バンバン実用化してほしい。例えばデュアルインパルスなんかもさ、まあグランドセイコーじゃなきゃできないことじゃん。そのレベルのことをガンガン見せていってほしいんだよね。
広田:だから、そういう観点で言うと、山田さんもさっき欲しいとおっしゃった、このU.F.A.はスプリングドライブで精度を極めるという感じで。
山田:なんか、これ、あれでしょ、機械式の頃のさ、あの「V.F.A.」。
広田:そうです。それをスプリングドライブでやったって感じですね。
山田:「V」じゃなくて「U」。「ベリー」から「ウルトラ」になった。
広田:そうですね。
山田:それで「A」は「アジャステッド」じゃなくって「アキュラシー」か。
広田:そうですね、「ウルトラ・ファイン・アキュラシー」。
山田:年差±20秒だもんね。もう恐ろしいよ。もう電波時計みたいな。
広田:しかも、電波時計と違ってスタンドアローンで動く。だから時計として、ゼンマイ駆動としては多分もう別世界です。
山田:世界一だろうな。
広田:世界一ですね。スプリングドライブがゼンマイのほどける力で針を動かして、ローター、トライシンクロレギュレーターで電気を起こして、それでICに電力を送ったり、水晶を振るわせたりして、さらに、温度補正も入っています。
山田:すごいんでしょ、この温度補正が。年がら年中、温度補正してるんだよね。
広田:1日に540回やっています。それで温度が狂ってますよって調整するから、これだけの高精度が出せるんです。年差±20秒って驚異的ですよね。これは本当よくやったな。ゼンマイ駆動でこの精度っていうのは。
山田:本当にすごいことだよ。

広田:山田さんも、初期のスプリングドライブをお持ちですけれども、こんな風に進化すると思いましたか、正直?
山田:思わなかった。スプリングドライブに関しては。でも何年か前にさ、クレドールでスプリングドライブのミニッツリピーター作ったでしょ。
広田:はい、ありましたね。
山田:その過程を紹介する動画を見て、その時に驚いたんだよ。複雑機構をスプリングドライブに載せるんだっていう。その驚きがあったから、その後は何をやられてもそんなに驚かないんだけど。この辺もまた、ふたつの製造地が切磋琢磨するところだよね。
広田:そうですね。だから、スプリングドライブ U.F.A.がリリースされた時、機械式でデュアルインパルス脱進機をやったら、今度はスプリングドライブですごいものを作るぞみたいな気概を感じました。
山田:そうそう、そうだよな。それがまた面白いし、ほかのブランドにはないところだね。
広田:その結果としての2025年のスプリングドライブ U.F.A.とか、量産機としては途方もなくよく出来た。
山田:頂点だよね。量産時計の頂点だとは思う。
広田:しかも着け心地もよくなってますし。最後に山田さん、この20年、グランドセイコーが変わるのをご覧になってきましたけれど、今後、グランドセイコーに何を期待していきたいですか?
山田:グランドセイコーにしかできないっていうことをどんどんやっていってほしいですね。それから日本的なパターンみたいなことで言えば、日本の伝統的な柄とかそういったものを取り入れてってほしい。もう、期待することだらけだよ。
『クロノス日本版』編集部おすすめ!
グランドセイコー現行モデル6選
この20年間において、外装の質はもちろん、搭載するムーブメントにあっても、さらに進化を遂げ、日本国内はもちろん、海外でも評価を高め、厚い支持を確立してきたグランドセイコー。ここでは、その発展を見届けてきた『クロノス日本版』編集部が、グランドセイコーのお薦め現行6モデルをご紹介する。
数あるグランドセイコーの型打ちダイアルの中でも、特に高い人気を誇るのが、冬の穂高連峰の情景をあしらった「雪白」パターンだ。繊細な風紋の浮かび上がった雪面は、ホワイトの塗装ではなく、特殊な銀メッキ加工を施すことで表現されている。自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R65)。30石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタン(直径41mm、厚さ12.5mm)。10気圧防水。90万2000円。
独自のデザイン文法であるグランドセイコースタイルを確立した、「44GS」の現代デザインモデル。平面を主体とすることで陰影を生み出し、日本人の持つ美意識を表現している。ケースとブレスレットには、耐食性に優れたエバーブリリアントスチールを採用。自動巻き(Cal.9S85)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SS(直径40mm、厚さ13.3mm)。10気圧防水。96万8000円。
夜明け前の諏訪湖の静寂さを閉じ込めた、水面パターンダイアルのスプリングドライブモデル。見る角度や光の当たり具合によって、濃紺のダイアルがさまざまに表情を変える姿を楽しむことができる。ロングパワーリザーブと高精度を誇る薄型のCal.9RA2を搭載。自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RA2)。38石。パワーリザーブ約120時間。SS(直径40mm、厚さ11.8mm)。10気圧防水。127万6000円。
毎秒10振動のハイビートが精密な計時を可能とする、グランドセイコー初の機械式クロノグラフ。エボリューション9スタイルをベースとしたスポーティーなデザインが特徴だ。メカニカルモデルの製造地から望む、岩手山モチーフの型打ちダイアルを採用。自動巻き(Cal.9SC5)。60石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタン(直径43.2mm、厚さ15.3mm)。10気圧防水。198万円。
グランドセイコー初の自動巻きモデルとして知られる「62GS」の現代デザインモデル。ケースとブレスレットには、軽量さと輝きをたたえたブライトチタンを採用する。淡いピンクのダイアルは、桜の花びらが川の水面を覆う、花筏の情景を表現したもの。自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R65)。30石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタン(直径40mm、厚さ12.8mm)。10気圧防水。94万6000円。
ブランドのシンボルである獅子をモチーフとした、ダイナミックな造形の機械式クロノグラフ。軽量なチタン素材が、快適な装着感を実現。指掛かりの良いプッシュボタンや色分けされたインダイアル等、使い勝手にも優れる。自動巻き(Cal.9SC5)。60石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約72時間。ブリリアントハードチタン(直径43mm、厚さ15.6mm)。20気圧防水。231万円。



