ラ・ショー・ド・フォンにアトリエを構えるグルーベル・フォルセイ。そのラボ内に、「EWT」(Experimental Watch Technology:実験的時計技術)と呼ばれる特殊リサーチ部門が存在する。その前衛的な呼称の通り、ナノテクノロジーなどの最先端技術が磨かれる部門だ。そこに、従来時計師の技量に委ねられてきた「伝統的な手仕事」を規定し、定量化することを目的とした、専属チームが配された。グルーベル・フォルセイは、創業時から受け継がれてきた「手仕事の価値」を改めて自認し、明確なスタンダードを再構築した。

EWTによって規定された「カリテ ミュゼ」に基づいて、初めて製作されたスタンダードウォッチ。古典的な造形の中に「伝統的な手仕事」でしか生み出せない審美性が凝縮されている。手巻き(Cal.GF09cm)。34石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWGケース(直径39.6mm、厚さ12.25mm)。3気圧防水。世界限定33本。要価格問い合わせ。
[クロノス日本版 2026年11月号掲載記事]
明文化された手仕事の価値
2004年の創業以来、ブランドが掲げる基本理念のひとつとして、手作りや手仕上げの価値を大切にしてきたグルーベル・フォルセイ。手作りという概念が極めて曖昧なスイス時計産業の中にあって、2019年と2025年に「ハンドメイド」がリリースされた際に、手作りとは何かを明確に掲げた。そんなグルーベル・フォルセイにとって、ハンドメイドの価値を次なるステージへと昇華させるようなモデルが、2026年に発表された「バランシエールQM」だ。

トゥールビヨンなどの複雑機構を搭載せず、基本的な調速脱進機だけで高精度を保証するバランシエールの中でも、片持ちの大径テンワをひとつだけ備えたQMは、最もシンプルなモデルのひとつ。オフセットされた時分針と、ダイアル側に覗かせた香箱が織りなすクラシカルな造形美は、ハンドメイドの文脈をなぞった明確な後継機に位置付けられる。しかし従来と決定的に異なるのは、創業時から手掛けてきた手仕上げの価値を改めて規定した点である。それを象徴するのが「QM=カリテ ミュゼ」という規格の導入だ。ミュージアムピース級のクォリティとでも訳すべきこの規格は、同社ラボ内に設けられた「EWT」と呼ばれる特化リサーチ部門によって研究開発され、それまで時計師ひとりひとりの技量に頼ってきた手仕上げの手法を規格化、定量化することを目的とする。QMに添えられたスペックシートには、それが詳細に記されている。

例えば、洋銀製の地板や受けにはフロステッド加工を施し、表面にニッケルパラジウムのトリートメントを施す。通常よりも幅広な0.4mmと定められた面取りや内角はハンドポリッシュで行う。片持ちのバランスブリッジにはバレル研磨とあるが、これは通常の機械的な下処理研磨とは意味がまったく異なり、カマボコ断面に施す手磨きを指すようだ。穴石は凸断面。それを収める部分には平滑なブラックポリッシュを施すとある。ブラックポリッシュというのは錫などの定盤を用いて行う鏡面仕上げのことだ。丸穴車や、ウルフティースの角穴車にはコンケーブ状の手磨きが加えられ、コハゼにも丹念な面取りと磨きを施す……。全298点の全部品に施されるこうした仕上げは従来も行われてきたことで、決して特別なことではない。特別なのは、それが改めて「スタンダード」だと明文化されたことなのだ。
グルーベル・フォルセイ ブティック銀座
日本での独占販売権を持つYOSHIDAとのパートナーシップにより、2024年4月にオープンしたブランド初のブティック。贅沢な空間の中で、稀少なタイムピースを手に取ることができる。




