現代美術家のアニッシュ・カプーアが「余白とは不在ではなく、可能性に満ちた場所だ」と評したように、パルミジャーニ・フルリエの「トンダ PF スケルトン」は、ムーブメントの一部を“抜く”ことで、現代的な構築美を表現する。その手法は2022年の初出時からさらに進化を遂げ、ミラノブルーやグラファイトといった中間色で彩られるキャンバスとなった。

2022年のファーストモデルと同じ18KRGケースに、トンダ PFコレクションでは定番色となったミラノブルーの組み合わせ。ダイアルに用いられるニュアンストーンよりも、やや硬質感がある発色が特徴。おそらくガルバニックとPVDによる発色の違いだろう。自動巻き(Cal.PF777)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRGケース(直径40.0mm、厚さ8.5mm)。100m防水。世界限定30本。予価1580万7000円(税込み)。
Photographs by Eiichi Okuyama
鈴木裕之:文
Text by Hiroyuki Suzuki
Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2026年11月号掲載記事]
光と造形、ミラノブルーの色彩が織り成す手首の上のアーキテクチャー
大部分のスケルトンが、既存のムーブメントに後加工を施したものであるのに対し、パルミジャーニ・フルリエが2022年に発表した「Cal.PF777」は、最初からスケルトン専用機として企画されている。同じ2022年にオーデマ ピゲから登場した「Cal.5900」が、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエの基礎設計に由来する実質的な兄弟機であるから、大本の姿を想像することはできるのだが、当のパルミジャーニ・フルリエではノーマルバージョンを一切採用していないという、やや珍しい存在である。直径約30mmの地板にツインバレルを搭載し、パワーリザーブは約60時間。巻き上げ機構はフルローターのユニディレクションだ。

PF777は、当初から「トンダ PF」への搭載を前提に「モノトーンのムーブメント」として開発が進められてきた。初出時の装いは、ル・サンティエのSTS社が手掛けている「NACノワール」のコーティング。その後のバリエーション展開で、スレートグリーン(世界限定50本)、ミラノブルー(同30本)、グラファイトなどが追加されている。おそらくこれらはPVDコーティングだろう。地板や受けの下地を、サンドブラストによる梨地、サテンのヘアライン、そして面取り部分のポリッシュに分けることで、コーティングの発色に意識的な変化を加えることが特徴だ。また香箱やテンワ、歯車などにロジウムコーティングを施し、不要な部分から“色”を極力排除している。カラーマネジメントへの配慮は徹底されており、通常ならばピンク系となる受け石/穴石にはブラックルビーを採用する。

スケルトナイズのパターンは、まずパルミジャーニ・フルリエ側でデザインを起こし、生産を担うヴォーシェでは、技術的に不可能な部分を調整するに留めたという。2022年のファーストロットではCNC切削による肉抜きが施されたが、現在流通しているセカンドロット以降では製造工程が見直され、レーザーカットが導入されている。当初はワイヤ放電加工が試みられたが、これだと加工断面が熱で硬化してしまい、仕上げ工程が難しくなってしまう。対してレーザーカットは、ワイヤ放電加工ほどの“細切り”は難しいのだが、素材への影響は少なくなる。ヴォーシェではレーザーカットを用いながら、加工で失われる削りしろを約0.03mmにまで抑え込んでいる。

本来のスケルトナイズは、ムーブメントを構成するパーツに“抜け”を作ることが目的なのだが、PF777では意識的に、シースルーとなる部分が少なくなるように設計されている。スケルトナイズによってムーブメントの奥行き感は強調するが、実際に着用した際には、ほとんど肌が透けない。実機を光にかざしてみると、意外なほどシースルーの箇所は少ないのだ。こうした意図は、スケルトナイズにはやや不利なフルローター機をベースに選んだことからも窺い知れよう。ただし立体感への追求は徹底されている。外周部に向かって幅を増してゆくアームの部分は、トゥールビヨンを支えるブリッジを模したヴェルセ形状。LIGAで成形されたPFロゴは、サファイアクリスタル製のプレートにインサートされている。18KRG製のケースでは、インデックスとPFロゴ、そして22Kゴールド製のローターが金色で統一される。
抑制を効かせたスケルトナイズと、卓抜したカラーマネジメント。決してオールドライクな意匠ではないが、それらが織りなす統一感が秀逸だ。

SSケースにPtベゼルを組み合わせたノンリミテッドピース。地板部分をグラファイトカラーで仕上げ、時分針とインデックスに18KRGを組み合わせる。ローターも22Kゴールド製。同ケースのスレートグリーンでは、これらを銀色で統一したが、このモデルではあえて“挿し色”として金色を配している。自動巻き(Cal.PF777)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS×Ptケース(直径40.0mm、厚さ8.5mm)。100m防水。予価1043万9000円(税込み)。



