一見するとシンプルな3針時計。しかし、7時30分位置のプッシュボタンを押すことで、各種針の機能が切り替わり、クロノグラフと現在時刻を同時に計測できる腕時計へと変身を遂げるパルミジャーニ・フルリエ「トンダ PF クロノグラフ ミステリューズ」。その革新的なアイデアがどこから生まれたものなのか、CEOのグイド・テレーニに語ってもらった。
Photograph by Keita Takahashi
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年7月号掲載記事]
私たちにとって重要なのはエレガントでありながらも後ろに機能が控えていること
使わないときはクロノグラフの針を隠すという奇想天外なアイデアを、プロダクトに落とし込んだのがパルミジャーニ・フルリエの新作「トンダ PF クロノグラフ ミステリューズ」である。「(副時針を隠せる)GMTと同じ日、2021年9月に本作のアイデアを思いつきました」とCEOのグイド・テレーニは振り返る。
「必要な時にだけ現れるGMT機能を実現した後、次に何を作るかと考えました。アイデアの素となったのは時間を記録できるダイバーズウォッチの回転ベゼルですね。誰もやろうと思わなかったのですが、ムーブメントで回転ベゼルと同じ機能を果たすことができるでしょう?」
クロノグラフを使わない時は、時分秒の使みが表示される3針モデル。しかしクロノグラフを起動させた瞬間、ホワイトゴールドの長針が60分積算計、短針が12時間積算計、そして秒針がクロノグラフ秒針として動き出し、ローズゴールドの針が現在時刻を示すようになる。そしてまたボタンを押すと、ホワイトゴールドのクロノグラフ時分針が、現在時刻を示すローズゴールドの時分針の上に重なり、3針モデルに姿を変える。「普段は時刻表示の針とクロノグラフ針は連動していませんが、メカニカルメモリのおかげで、針がそれぞれの位置を記憶している。そのためリセットすると、針は時分針に隠れます」。

センター同軸に5針を配したモノプッシャークロノグラフ。垂直クラッチ×1、水平クラッチ×2を組み合わせ、時分針と積算針の同期(メモリーリセット)を可能とした。自動巻き(Cal.PF053)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース×Pt(直径40mm、厚さ13mm)。100m防水。601万7000円。
もっとも、開発に4年を要しただけあって、その構成は極めて複雑だ。秒・分・時の3つの歯車を動かす必要があるため、クロノグラフ秒針を動かすための垂直クラッチをひとつ、60分と12時間積算計を動かすために水平クラッチをふたつ備えている。
サイズ感も絶妙だ。中心に5つの針が重なる構成を持ちながらもケースは直径40mm、厚さ13mm。そしてムーブメント厚は6.9mmしかない。「当初は12mmで指定していたが、開発の途中であと1mm増やしていいですか、と言われた。それでも普通のクロノグラフ並みの厚みですよ」。加えて、テレーニは細かいチューニングを針に施した。
「すべての針が文字盤の中央にあるので、5つの針が重なります。そのため、針の寸法は完全に同じではないのです。上から見たとき、隠れている針はわずかに小さくした。同寸だと見えてしまいますからね」
これだけの仕掛けを持ちながらも、今回の新作も、見た目は驚くほど控えめで、既存のGMTとほぼ変わらない。かつてない機構のクロノグラフであれば、デザインや色をガラッと変えた方が良かったのではと述べたところ、「それこそがパルミジャーニ・フルリエのアイデンティティーなのです」とテレーニは強調した。
「控えめさを持つというのは、私たちが提唱するプライベートラグジュアリーの根幹です。それは教養に裏打ちされたラグジュアリーであり、社会的承認のためではなく、自分自身の教養や趣味、洗練を表すためのものなのです。ですからこのモデルも、エレガントでありながらも、後ろに機能が控えている」。クロノグラフであることを徹底的に隠したトンダ PF クロノグラフ ミステリューズ。洗練の極みこそが、同社の「一貫性」なのだろう。

1969年生まれ。ルイジ・ボッコーニ大学で経営学士を取得後、ブルガリに入社する。メンズウォッチのプロダクトマネージャー、ウォッチプロダクト全般の総括責任者を務めた後、マーケティングディレクターを経て、時計部門の責任者に就任。2021年1月からは現職。プライベートラグジュアリーを標榜する彼は、そのコンセプトを端正な「トンダ PF」に結実。同作のヒットでパルミジャーニ・フルリエのパブリックイメージを大きく変えつつある。



