スポーツカーを乗りこなし、時にはライダースジャケットとグローブの間からミリタリーウォッチを、時にはフェミニンなニットの袖口からドレスウォッチをのぞかせる女性の時計愛好家、tiffanyさん。SNSを中心に、えりすぐりの時計コレクションで注目を集めている。彼女の時計愛好家としてのスタイルは、「未知の世界を開拓したい」という気質がもたらした。その果てしない探究心は、未来の時計愛好家生活へとつながっていく。

宮崎県出身。医学部卒業後、初期研修を経て、消化器内科の専門医となる。祖父も医者であり、困っている人々を助ける職業を素晴らしいと感じたことが、現職に就くきっかけとなった。苦痛の少ない検査や治療を提供することはもちろん、患者に、安心感を与えられるような医師を目指しているという。X & Instagram:tiffany_yo
Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
鶴岡智恵子:取材・文
Text by Chieko Tsuruoka (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
「『未知の世界を開拓したい』という自分の気質によって、今があります」

SNSの投稿からは、品の良い紳士を想像していた。ロータス「エリーゼ」を乗りこなし、ライダースジャケットの袖口からは渋いオールドウォッチをのぞかせるスタイルが印象的であったためだ。しかし実際のtiffanyさんは、楚々とした女性の時計愛好家である。
もっとも、コレクションの錚々たる顔触れを見れば、人物像とのギャップ以上に驚かされる。彼女のコレクションは、パテック フィリップやブレゲといった高級時計ブランドからレマニアやギャレットのオールドミリタリーウォッチ、それら“大人の腕時計”とは一線を画す、遊び心あるキャラクターウォッチなど、多種多様。今回の取材にも約30本持参してくれたが、現在所有している腕時計は50本以上にも及ぶとのこと。彼女が時計趣味の一環として発信しているSNSでその一端は垣間見ていたものの、改めて圧倒された。
「初めて機械式腕時計を購入してから、3〜4年ほどでこの数になりました。自分の興味を探究した結果がこれです」


社会人になって初めて機械式腕時計を購入した後、徐々に手持ちの腕時計を増やしてはいたものの、所有本数を激増させた“ブースト”は2023年7月頃から掛かったという。彼女は、時計にハマっていくきっかけから順に語ってくれた。
「“時計沼”には、車から入ったんです。アバルト『124スパイダー』を5〜6年前に購入しました。知人のスポーツカーに乗せてもらって以来、ギミックを感じさせるメカニックさなどから、マニュアル車にハマって。だからメカニックなところ、ゼンマイと歯車で時を刻むというロマンチックなところに引かれ、時計好きになりました」。その後、彼女はロータス「エリーゼ」の最終型を購入。現在はこの2台を楽しんでいるという。
「車は2台より多く所有すると持て余すことが多いので、現状で満足しています。でも、時計はいくつ持っていても良いので、爆発しちゃいました」。こうして始まった“ブースト”。これも「未知の世界を開拓したい」という、彼女の気質が影響している。

「私は勉強でもゲームでも『得意な分野だけを伸ばすのではなく、苦手なところを切り開いていって、未知のものをなくしていく』というスタイルを取っています。時計についても調べるうちに、時計にはさまざまなジャンルや機構、ブランドがあることを知り、さらに時計の個性は同じブランドの中でも異なることに気付いた時、この『未知を開拓する』というスタイルが時計に関しても発動しました」。以前、彼女と食事した際、とてもマニアックな情報を持っていることに驚かされた経験がある。「(気になる時計があれば)調べまくります。知れば知るほど知識が広がっていって、そこからさらにハマっていって……爆発ですよね」。
彼女の探究心の強さは、どんな時計を購入するかにも表れている。
「購入する際のポリシーは『1ブランド1本主義』でした。最近は破られつつありますけど。いろいろなブランドを知りたいという欲求から始まって、ブランドの象徴となるアイコニックなモデルを選び抜きたいとの思いからこの制約は生まれたんです。ただ、ここで言う『象徴』とは、自分にとってです。例えば、オーデマ ピゲであれば『CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ』がブランドにとってのアイコンと言えるかもしれません。でも自分にとってはムーンフェイズを搭載した『5611』がアイコン。加えて自分が所有する時計の中で、まだない個性を持っているものも基準になります。5611を購入した時はカレンダーウォッチやムーンフェイズウォッチを所有していませんでした。そんな中で稀少なトノーケースを備えていて、一方でCODE 11.59にも受け継がれた針の形状など、オーデマピゲの象徴とも言える要素が入っていることが、購入の決め手となりました」


彼女の未知への開拓は、現行品にもヴィンテージウォッチにも及ぶ。ヴィンテージウォッチを購入する際に最重視するポイントは「オリジナルかどうか」だ。「針が替えられていないかなど、発売当時の状態が保たれていることを重視します。ただ見極めが難しいので、目利きやお店の人と話して、状態を加味したうえで購入しています」。
この話を聞いた当初は、コレクターズアイテムとしての価値を尊重してのことかと思った。しかし理由はそれだけではない。

「せっかく日本に状態良く保たれた個体があるのに、海外に流出してしまってはもったいないと思って。質の良いものを後世に引き継ぐことは時計愛好家としての責任だと思っています。そのためには、自分自身も購入後はしっかりと管理します。防湿庫も所有していますし、購入したら、必ずオーバーホールに出しています」。この考え方はヴィンテージウォッチを探し始めてから、状態の良いものがあまり残っていないという状況を知り、かつ時計趣味を楽しむ中で交流がスタートした仲間からの影響を受けて持つに至ったという。そんな彼女の未知への開拓に、ゴールはあるのだろうか。
「時計沼は深いです。ブランド、機構、ジャンルによってそれぞれの良さがあり、知識が満ち足りることはありえません。まだ“上がり時計”にはたどりついていませんが、所有している子たちを、品質を保ちながら楽しんでいこうと思います。この子たちと一緒に人生を歩んでいきたいですね」




