ミネルバ CEOのローラン・レカンにインタビュー「ミネルバは一対一で説明するブランドです」

2026.10.29

2026年、モンブランは時計事業の大きな転換を打ち出した。約20年にわたりハイエンドラインを担ってきたミネルバを独立した事業体として再始動させ、その名を文字盤に復活させたのである。

奥田高文:写真
Photograph by Takafumi Okuda
髙井智世:取材・文
Text by Tomoyo Takai
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年9月号掲載記事]


ミネルバは、過去を使ってイノベーションを起こします

ローラン・レカン

ローラン・レカン
2001年にLVMHグループでワイン&スピリッツ部門のブランドマネージャーとしてキャリアをスタートし、その後、時計業界へ転身。2008年に独立系ブランド「サイラス」を共同設立。2014年にカール F. ブヘラへ入社し、日本法人CEOなどを歴任。2021年にモンブランのウォッチ部門ディレクターに就任し、アイスシーや1858、ミネルバを再構築する。2026年、独立した事業体として再始動したミネルバのCEOに就任。

 同時に販売体制も大きく変わる。従来の幅広い販売網から、厳選した販売拠点で展開する体制へと移行。販売本数を追うのではなく、限られた顧客へブランドの価値を伝えることを重視する方針だ。さらに今年はウォッチズ&ワンダーズへの出展を見送り、ヨーロッパ、アメリカ、アジアを巡る少人数との対話を重視した少人数制のロードショーへと舵を切った。これら一連の改革は、ミネルバ再始動と軌を一にする。

 長年、モンブランのウォッチ部門を率い、このたびミネルバのCEOに就任したローラン・レカンは、その理由をこう説明する。「ミネルバは、一対一で説明するブランドです。そして、触っていただくことが大切なのです」。レカンが繰り返したのは、「フィーリング(感触)」という言葉だった。「時計を触ったときの感触、巻き上げる感触、時刻を合わせる感触。それらは多くのコレクターにとって、非常に重要な要素です」。

 その思想を体現する存在として送り出されたのが、新生ミネルバ最初のモデル「ミネルバ アンヴェールド クラウンレス」である。通常のリュウズを持たず、ケースサイドのレバーでベゼルの機能を切り替え、ベゼル操作によって時刻合わせと手巻きを行う。1927年にミネルバが開発した機構を現代技術で再構築したモデルだ。レカンは、本作は復刻ではないと説明する。「これはミネルバが過去に行ってきたことを基にしながら、非常に革新的な形にしたものです」。

ミネルバ「ミネルバ アンヴェールド クラウンレス」

ミネルバ「ミネルバ アンヴェールド クラウンレス」
1927年にミネルバが開発した、ベゼル操作で内部の時間測定リングを制御するミリタリーウォッチの機構を現代に継承。手袋でも操作できる歴史的な仕組みを発展させ、ブランド初のリュウズレス仕様を採用。ケースサイドのレバーで機能を切り替え、フルーテッドベゼルで時刻合わせと手巻きを行う。手巻き(Cal.M15.08)。19石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(41.50mm、厚さ11.99mm)。3気圧防水。651万6950円(税込み)。

 その思想は、ブランド戦略にも貫かれている。「ミネルバの平均販売価格は約5万ユーロです。対してモンブランは約4000から1万ユーロ。両者はまったく異なるポジションにあります」。ミネルバは最高峰の少量生産ブランドとしてクラフツマンシップを追求し、モンブランはより幅広い市場を担う。それぞれ異なる顧客層を見据え、両ブランドの位置付けを明確にする今回の独立は、長期的なブランド戦略を象徴するものでもあった。

 ブランドづくりの本質について、レカンはこんな言葉で締めくくった。

「私には顧客はいません。私にいるのはファンだけです。顧客は他のブランドに任せます。しかし、ファンは私が守ります」

 ミネルバの独立とは、新しいブランドを立ち上げたという話ではない。ブランドの歴史と価値を深く理解する人々へ向け、その体験まで含めた在り方を、根本から再設計した決断なのである。



Contact info:モンブランお客様サポート Tel.0800-333-0102


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