INSIDE CHANEL ─〝完璧〟を紡ぐ人々─ DAY.1

2018.04.13

Manufacture Romain Gauthier
[マニュファクチュール ローマン・ゴティエ]

シャネルの自社製ムーブメントである「キャリバー 1.」「キャリバー 2.」、そして「キャリバー 3.」。その歯車をはじめとする大半の部品を製作するのが、自身の時計ブランドを持つローマン・ゴティエだ。スイスきっての名工房で部品作りを学んだ彼は、時計師以上にパーツ作りのエキスパートである。自社製ムーブメントの製造にあたって、シャネルはこのゴティエに白羽の矢を立てた。

ムッシュー ドゥ シャネルを構成する部品たち。ケースやバックルはシャネルが所有するG&Fシャトラン製。歯車を含むムーブメント部品の大部分は、ローマン・ゴティエが製造する。目を引くのが、ジャンピングアワーのディスク。歯の内側に鏡面仕上げが施されている。美観だけでなく、耐久性を高めるための手法である。

 時計産業の聖地と言われるジュウ渓谷。その中心であるル・サンティエに、ローマン・ゴティエの工房がある。かのフィリップ・デュフォーの弟子として知られる彼は、その技能をシャネル関係者に認められ、やがてシャネルの自社製ムーブメントの部品を作るようになった。経験ある技術者ならば、ムーブメントの部品を作るのは難しくない。スイスならばなおさらだ。しかし、卓越した部品を作りたければ、スイスでも、これはという人は限られる。

ムッシュー ドゥ シャネル
2016年に発表された、初の自社製ムーブメント搭載機。ジャンピングアワーにレトログラード式の分針を採用するほか、独自のセーフティー機能を備える。本作は、稀少なブラックエナメル文字盤を採用したモデル。手巻き(キャリバー 1.)。30石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約3日間。Pt(直径40mm)。世界限定100本。765万円。

 常に一流を作りたいと考え、香水にせよ、ハンドバッグにせよ、ハイジュエリーにせよ、ガブリエル シャネルは初めから完全なプロダクトを作ろうと志した。時計も同じであった。

 かつてスイスのル・ブラッシュには、フランソワ・ゴレイという第一級の部品メーカーがあった。ゴティエはフランソワ・ゴレイで機械工として腕を磨いた後、自分の時計を作るため、MBAを取得し、自身の時計ブランドを立ち上げた。自社でムーブメントを作るにあたって、シャネルはゴレイの最も忠実な後継者と見なされていたゴティエを見いだし、その工房への投資を決めた。関係者は語る。「高級時計作りには本当のノウハウがいる。そして、それを持っているのはローマン・ゴティエだけだった」。

 ゴティエが応じた。「シャネルの人たちとは、高級時計のDNAとは何かを話し合った。結論は、かつてジュネーブ・シールが目指した以上のことをやりたい、ということだった。特別であること、そしてオート・オルロジュリーであること。なぜならオート・オルロジュリーとはオートクチュールと同義語だから」。

 既製服とオートクチュールが違うように、時計の部品も同じように見えて全く異なる。コストを決めるのは、数と品質。多くのメーカーは大量生産を目指すが、シャネルもゴティエもその道を選ばなかった。「一流を作りたい」ためである。

 「私たちはムッシュー ドゥ シャネルをはじめとする、シャネルの自社製ムーブメントのための部品を作っている。歯車やカナ、リュウズの巻き真など。時計の形は同じ。しかし、載せている部品は極端なレベルにある。つまりオートクチュールだ」