本田雅一、ウェアラブルデバイスを語る/『独自のブランディングで勝負するフォッシル』前編

FEATUREウェアラブルデバイスを語る
2018.08.08

(左)マイケル・コース「SOFIE ローズゴールド スマートウォッチ」
(右)スカーゲン「Smartwatch Falster Steel Mesh」

プラットフォームは共通ながら、外装やアプリのデザインをそれぞれのブランドイメージに合わせて開発することで、各銘柄の特徴を製品に持たせるのがフォッシルのスマートウォッチ戦略だ。マイケル・コース「SOFIE ローズゴールド スマートウォッチ」では、ローズゴールドカラーのSSケースとベゼルに配したパヴェで華やかさを演出。対照的なのがスカーゲンの「Smartwatch Falster Steel Mesh」で、ブランドの掲げるミニマルデザインを反映したシンプルな装いが特徴的である。(左)マイケル・コース「SOFIE ローズゴールド スマートウォッチ」。SS(直径42mm、厚さ11mm)。3気圧防水。5万1000円(税別)。(右)スカーゲン「Smartwatch Falster Steel Mesh」。SS(直径42mm)。1気圧防水。4万円(税別)。共に㉄フォッシルジャパン℡03-5992-4611

ファッションとしてのスマートウォッチ

 アップルがApple Watch Series 3を発表した時、フォッシル幹部に意見を求めると「Android Wearに依存してスマートウォッチを作っていたのでは、まともに戦えない。我々は時計メーカーであってコンピューターメーカーではない」と話し、しばらくの間を開けて「我々は“ファッション”を切り口に製品を展開し、他のスマートウォッチとは別の勝負をしていく」という話をしてくれた。

 しかし、前述したようにファッションには多様性が求められる。フォッシルが持つブランドで言えば、シンプルなミニマルデザインのスカーゲン、ゴージャスなマイケル・コース、ガーリーなケイト・スペード ニューヨークに、キュートなマーク ジェイコブス。これらは共通の設計を持ちつつも、それぞれに異なるデザインを与え、異なるマーケティングを行い、かつデジタルガジェットの製品更新ペースについていかねばならない。

 従来の腕時計とは大きく異なる使い方の製品だけに、流通向けの教育プログラム(ファッション業界に最新テクノロジー製品を持ち込むのだから必須である)や、そもそも取引先に製品の特性に関して理解を求める必要もある。また、フォッシルほどの大きな規模の腕時計メーカーともなれば、社内にスマートウォッチへと取り組む意義やコンセプトを浸透させるにも時間とコストが必要なはずだ。

 しかし、成功させた時の報酬も小さくはない。

 Apple Watchを購入している消費者の中には、道具としての腕時計にも、ファッションとしての腕時計にも興味がない人たちも多く含まれている。スマートウォッチへと事業領域を広げるということは、これまで腕時計を買っていなかった層に製品を売るということである。

 一方でフォッシルは、ファッションに合わせて多様な腕時計をリーズナブルに提供し、複数の腕時計を着け替えて楽しむ層をしっかりと捕まえている。“腕時計を必要としない”消費者が増え、その事業基盤を危うくしている面はあるが、他方で、真逆の価値観で市場が構成されているスマートウォッチで足場を築くことができれば、伝統的なデザインウォッチの世界と同じような立ち位置を確保できる。

 なにしろ、彼らはすでに多くの世界的ブランドとの契約、各ブランドオーナーとの信頼関係を築いているのだから、ファッションとしてのスマートウォッチを本当に定着させることができるなら、スタート地点で優位に立てるだろう。(続く)

本田雅一(ほんだ・まさかず)
テクノロジージャーナリスト、オーディオ・ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。1990年代初頭よりパソコン、IT、ネットワークサービスなどへの評論やコラムなどを執筆。現在はメーカーなどのアドバイザーを務めるほか、オーディオ・ビジュアル評論家としても活躍する。主な執筆先には、東洋経済オンラインなど。