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レディースウォッチに自動巻きは必要か?(1/5)

かつて、レディースウォッチに自動巻きは不要、という意見は少なくなかった。ロレックスを例外として、ほとんどの女性用自動巻きは巻き上げ効率が悪く、精度も芳しくないうえ、簡単に磁気帯びを起こしたためだ。しかし、技術の進歩は、女性用の自動巻きでさえも、巻けて、正確で、磁気帯びしないというメリットをもたらそうとしている。


マキヒロチ:イラストレーション
Illustration by Hirochi Maki
奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
菅原 茂、広田雅将(本誌):取材・文 Text by Shigeru Sugawara, Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

本誌編集長、広田雅将の考える使えるレディースウォッチとは?

『クロノス日本版』本誌では、よほどのことがない限り女性用の腕時計は取り上げてこなかった。

本当に腕時計が好きな女性ならば、気にせず男性用の時計を腕に巻くし、腕時計に興味のない女性ならば、機械式腕時計よりもクォーツのほうが普段使いに向くためだ。しかし、最新鋭の自動巻きは、多くの女性にも機械式腕時計の魅力を知らしめるきっかけを与えてくれるかもしれない。

 時計を生業にして十数年、いまだに答えの出ない疑問がいくつかある。そのひとつが、女性は果たして機械式腕時計に興味を持つのか、だ。ずっと考えているが、まだ答えはないし、今後も見つからないかもしれない。

 理屈で考えると、女性が機械式腕時計に興味を持てない理由は明らかだ。多くのレディースウォッチはケースが小さいため、載せるムーブメントは小さくなり、結果的にパワーリザーブは短くなる。つまりゼンマイを巻き忘れると、時計はすぐに止まってしまう。その度にリュウズを引き出して針合わせを行い、ゼンマイを巻く作業は、普通の人には苦痛だろう。

 とりわけ、爪をきれいに整えた女性は、頻繁にリュウズを引き出さねばならない腕時計を買わないだろうし、男性もまた、そんな時計を贈りたいとは思わないはずだ。かくいう筆者も機械式腕時計を好むが、女性に機械式腕時計を贈ったことはほとんどないし、きっと本誌の読者もそうに違いない。

 もっとも、機械式腕時計にはクォーツにないアドバンテージがある。ひとつは分解修理ができること。もちろんばらせるクォーツムーブメントも存在するが、すべてとは限らない。対して機械式のムーブメントは、ほとんどすべてが修理できるため、長持ちするだろう。一生モノ、という言葉は好きではないが、機械式腕時計ならば可能性は高い。

 そしてもうひとつのメリットが、老眼に優しい点だ。クォーツに比べてトルクの強い機械式ムーブメントは、時間の見やすい、太くて長い針を載せることができる。しばしば機械式腕時計が一生モノと言われる理由は、前述した修理可能である点に加えて、老眼になっても時間が読み取りやすいためだ。

 そして最後のメリットがステータスだ。今やハリー・ウィンストンはクォーツだけでなく、女性向けに機械式腕時計をリリースするようになった。理由はCEOのナイラ・ハイエック曰く、「アメリカと中国の女性たちは、機械式であることを重視するようになった」ため。まだこういった潮流は大きくないが、機械式腕時計=高級品という認識は、レディースウォッチの世界でも広がっていくだろう。

 仮に女性用の機械式腕時計を選ぶなら、冒頭で述べた理由から間違いなく、パワーリザーブの長いものが望ましい。しかし、そういう腕時計の多くは男性向けの大きなムーブメントとケースを持っており、日本人の女性に似合うとは考えにくい。日本人女性の平均的な手首囲は20~24歳で14.9㎝、35~39歳で15.0㎝(経済産業省調べ)。となるとケース直径は35㎜以下が妥当だが、この大きさでロングパワーリザーブを持つ女性用の機械式腕時計はまれだ。仮にそういう腕時計があったとしても、パワーリザーブの長いムーブメントはゼンマイの力が強い。平均して男性の6割程度の握力しか持たない(スポーツ庁調べ)女性にとって、リュウズの巻き上げは困難だろう。女性が手巻きを買わないはずだ。

 さて、ここからが本題である。

 もしパワーリザーブが短くとも、自動巻きがあれば、ゼンマイ切れで時計が止まる可能性は減る。リュウズを引き出し、ゼンマイを巻く手間が減ると、指とネイルを傷めにくくなるだろう。しかし、かつての女性用自動巻き腕時計は、お世辞にも使えるとは言えなかった。

 女性用のかばんの留め金には、広く磁石が使われている。最近は男性用にも増えたが、女性用の方がはるかに多い。そのため、自動巻きに限らず女性が機械式腕時計を使うと、帯磁しやすいのだ。また、男性用の腕時計に比べてケースが薄いことも帯磁のしやすさに拍車を掛ける。

 運動量の少なさも問題だった。セイコーインスツルでムーブメントの設計に携わる所毅氏は「女性の運動量は男性の半分以下」と語る。腕が振れなければ、どれだけ優れた自動巻きを与えても、ゼンマイが巻き上がることはない。多くのメーカーが、やむなく、手巻きムーブメントを載せたレディースウォッチを作る理由だ。そして、パワーリザーブの短さに問題がつながっていくのである。

 しかし、技術の進歩は、女性用の自動巻きを刷新しつつある。シリコンやスプロンといった新素材は、腕時計の耐磁性を改善し、改良されたリバーサーや片方向巻き上げ機構は、より少ない動きでもゼンマイを十分に巻くようになった。加えて、最新型のムーブメントには、パワーリザーブが50時間を超えるものさえある。技術の進歩は機械式時計のパフォーマンスを大きく高めたが、ひょっとして、その恩恵を最も受けたのが女性用の自動巻きなのかもしれない。

「女性は機械式時計に興味を持つか?」

 良いものならば、という但し書き付きだが、以降挙げる最新の女性用自動巻きモデルであれば、手厳しい女性たちも、ひょっとして、機械式時計に目を向けてくれるかもしれない。 (広田雅将:本誌)

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