時計作りの歴史に敬意を示す「モンブラン 1858 オートマティック クロノグラフ」

FEATUREWatchTime
2019.09.04

モンブランが時計ビジネスに参入し、かつてのミネルバを獲得したことは理解しやすいことといえよう。時計作りは収益性の高い取引になる事業であり、113年の歴史を誇る筆記具とレザーグッズの老舗ブランドが参入することに問題点はない。スイス時計業界が保守的である限り、全体的に見てプレステージ性の高いブランドが時計作りに参入することにより、業界の考え方や競争の精神が良い方向性に高まるという期待感が持てる。一方で、確固たる地位を築いたラルフ・ローレンやエルメス、シャネルといったラグジュアリーブランドが高級腕時計作りに大きな投資を行ってきたにも関わらず、時計コレクターたちから正当な評価を受けてこなかったという事実がある。時を少し巻き戻してモンブランの時計作りの歩みを振り返りつつ、筆者が試着テストを行った「モンブラン 1858 オートマティック クロノグラフ」のレビューをお届けする。

Originally published on watchtime.com
Text by Logan R.Baker

モンブラン 「モンブラン 1858 オートマティック クロノグラフ」

モンブラン 1858 クロノグラフ

モンブラン「モンブラン 1858 オートマティック クロノグラフ」。自動巻き(Cal.MB 25.11)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(直径42mm、厚さ14.55mm)。100m防水。NATOストラップ。48万円(税別)。


モンブランの時計業界参入

 モンブランが時計業界に参入したのは、22年前のことだ。1997年にアイコニックな筆記具、マイスターシュテュックにインスパイアされた最初の腕時計をリリースし、当時のCEOノルベルト・プラットがプレスカンファレンスを行った際には、「どこからインクを入れるんだ?」などと時計を見ながら囁き合うジャーナリストやプレス関係者たちの姿も合ったという。こういった皮肉に対抗するため、モンブランはゆっくりと時計作りの能力を上げていき、そして前述したように、2006年に危機的な状況にあったミネルバを買収したのである。

モンブラン 1858 クロノグラフ

モンブラン「モンブラン 1858 オートマティック クロノグラフ」は他にブロンズモデル(56万5000円)も展開する。

 過去22年間、筆者はモンブランの時計業界での成長と、彼らが生み出す新しいムーブメントの数々を見てきた。その中で、モンブランはミネルバの遺産とも言うべきものを、一辺倒ではなく、多角的に取り入れてきた。スイスのヴィルレにあるミネルバの工房では、コラムホイール搭載クロノグラフというようなハイエンドモデルを製造している。また、モンブランはミネルバデザインを前面に打ち出した新作発表を多く行っている。2018年は特にそれが色濃く出ていたように感じられた。シンプルな3針モデルから、GMT、クラシックなモノプッシャークロノグラフ、いくつかの懐中時計などの拡充により表されている。
 そしてそのうちのひとつに、このたび筆者が数週間にわたって装着テストを行ったエントリーレベルの「モンブラン 1858 オートマティック クロノグラフ」などからなる1858プロダクトラインがあった。

1858プロダクトライン

モンブラン 1858 クロノグラフ

フランスの工房で織られたハンドクラフトのNATOストラップ。

 2015年のSIHHで発表されて以来、1858プロダクトラインはミネルバらしいデザインのプラットフォームとなり続けてきた。「モンブラン 1858 オートマティック クロノグラフ」はセリタのキャリバーSW500をベースムーブメントとしてコストダウンを図り、新しい顧客層に訴求するよう5000ドル以下のクロノグラフとして発表されたモデルである。
 単刀直入に、このモデルは非常に成功したモデルと言えるだろう。何か革新性を持つようなモデルではないが、ふたつのサブダイアルや伝統的なポンプ型プッシャーを備えた外観が、モンブランのヘリテージに根ざしたデザインのラインナップとしては申し分がない。

モンブラン 1858 クロノグラフ

アラビア数字インデックスにはスーパールミノバが塗布される。

 ここで紹介しているステンレススティールモデルは、ブラック文字盤にストライプ入りのNATOストラップまたはブラウンのレザーストラップが組み合わされる。この他にもブロンズケースモデルが展開されており、こちらはシャンパンカラーの文字盤に同じカラーのレザーストラップというしようだ。レザーストラップはフィレンツェにあるプレテリアという自社工房で手縫いで作られている。これは複数の商品を展開する会社が自社内から相乗効果を生み出せる好例であろう。今回のテストでは、浜辺で着用する夏の季節を考慮してNATOストラップモデルを選んだ。ミリタリー感を演出するNATOストラップは150年の歴史を持つフランスの工房で織られたハンドクラフトであり、しっかりと、しかし心地よい着用感を手首に与えてくれる。ブラックとグレーのストライプもまた控えめな印象で、カジュアルなオフィス環境にも溶け込める。ヴィンテージ調のクロノグラフとブレザーという組み合わせを楽しんでも良いかもしれない。

モンブラン 1858 クロノグラフ

直径42mmのケースは、さまざまな表示を備えたクロノグラフに程よいサイズといえるだろう。

ケース、文字盤、ムーブメント

 直径42mmのケースサイズは、視認性の上でも現代的なクロノグラフの良い着地点と言えるかもしれない。ブラックの文字盤を背景にコントラストを成すホワイトのミニッツトラック、9時位置と3時位置のサブダイアルは流儀にのっとったスモールセコンドと30分積算計である。時分針は伝統的なカセドラルスタイルで、クロノグラフ秒針は細長く、根元の方に少しアクセントが添えてある。ケースバックには、美しいモンブランの山並みがレリーフで施され、ヴィンテージ調のコンパスとつるはしをあしらったロゴが配されている。ポンプ型プッシャーに囲まれた、パイロットウォッチのような厚みのあるリュウズは操作性に優れている。

モンブラン 1858 クロノグラフ

ケースバックには、美しいモンブランの山並みがレリーフで施され、ヴィンテージ調のコンパスとつるはしをあしらったロゴが配されている。

 なおモンブランによると、1858プロダクトラインの全体的なインスピレーションは1930年代のミネルバのクロノグラフから来ているということである。第二次世界大戦中にも使われたそのクロノグラフは、シンプルなケースとダイアル構成を備えるモノプッシャータイプであった。モノプッシャーという仕様は魅力的だが、市場では非常にニッチな部分であるため、モノプッシャーデザインのモデルは100本のみのリミテッドエディションとして発売された。プッシャーの仕様以外に、バーインデックスではなく、経年変化の雰囲気を醸し出し、スーパールミノバをあしらった太いアラビア数字のインデックスなどに当時との差が見て取れる。

モンブラン 1858 クロノグラフ

伝統的なルミニッセント加工のカセドラル針。

 このように明確な違いがあるにも関わらず、当時の他のヴィンテージデザインの要素がうまく取り込まれてなじんでいる。文字盤外周部分を取り巻くように配されたレイルウェイミニッツトラックや、大ぶりで特徴的な大ぶりなサブダイアルなど、個性を活かしたことはこの時計のデザインの成功要素であろう。ブロンズモデルと比べるとステンレススティールモデルはよりヴィンテージ感があり、1930年代のミネルバのオリジナルモデルと外観的により親和性が高い。

 難点を上げるとすれば、キャリバーSW500に由来する厚みであろうか。SW500はほぼETAヴァルジュー7750と変わりがなく、同じ回転ローターを備える。他のモンブランの時計同様、ムーブメントは500時間をかけて精度を証明する「モンブラン ラボラトリーテスト500」を通過してモンブランに採用されたものだ。そしてキャリバーMB25.11という名称が与えられて「モンブラン 1858 オートマティック クロノグラフ」に搭載されるに至る。

モンブラン 1858 クロノグラフ

トップにモンブランのロゴをあしらったリュウズ。

「モンブラン 1858 オートマティック クロノグラフ」の魅力

「モンブラン 1858 オートマティック クロノグラフ」は、その価値が分かる人にとっては、素晴らしいエントリーレベルの掘り出しものである。デイト表示を持たず、またミネルバに影響を受けたデザイン要素など、このモデルは一般的な顧客より、時計愛好家向けに作られたことを物語る。ここでモンブランが世界的なラグジュアリーアイテムを製造する会社であり、時計愛好家に訴求するモデルを発表する必要はないという点を思い出してほしい。すでにその名は知れ渡っているので、高価格帯の時計ばかりを多く作っても不思議はない。しかしモンブランの時計は、時計の歴史に敬意を払い、エントリーモデルから段階的な価格帯を設定し、あらゆるレベルの時計愛好家に訴求するものとなったのだ。モンブランの時計に手を出すことに慎重になっている人にとって、1858プロダクトラインはブランドの方向性を知る導入部分として素晴らしいものになるだろう。そして「モンブラン 1858 オートマティック クロノグラフ」は技術力の高さを味わわせてくれるだろう。

モンブラン 1858 クロノグラフ

モンブランのエントリーモデルとして勧められる「モンブラン 1858 オートマティック クロノグラフ」。


Contact info: モンブラン コンタクトセンター Tel.0120-39-4810