新作ミネルバムーブメントから「アイスシー」まで。モンブランの2025年新作時計を振り返り

2025.12.27

時計専門誌『クロノス日本版』編集部が取材した、時計業界の新作見本市ウォッチズ&ワンダーズ2025。「ジュネーブで輝いた新作時計 キーワードは“カラー”と“小径”」として特集した本誌でのこの取材記事を、webChronosに転載する。今回は、新しいミネルバムーブメントを搭載した「モンブラン 1858 アニュアルカレンダー ジオスフェール リミテッド エディション」から、スタンダードラインとなる「モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン 38mm」まで、多彩なモデルを発表したモンブランを振り返る。

モンブラン 1858 アニュアルカレンダー ジオスフェール リミテッド エディション

モンブラン「モンブラン 1858 アニュアルカレンダー ジオスフェール リミテッド エディション」
年次カレンダーとワールドタイムを組み合わせたミネルバの新ムーブメントを搭載。外装は1950年代を想起させるクラシカルな趣きに。手巻き(Cal.MB M14.58)。64石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約65時間。18Kライムゴールドケース(直径42mm、厚さ13.3mm)。30m防水。世界限定30本。
堀内僚太郎:写真
Photographs by Ryotaro Horiuchi
鈴木裕之、広田雅将(本誌):取材・文
Text by Hiroyuki Suzuki, Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]


ミネルバムーブメントの新ポートフォリオとケース表現の多様化

ミネルバの黄金期だった1950年代をイメージしたエクステリアとともに、古典的な印象を加速させるムーブメントの意匠。いわゆる“出車”を用いたインダイレクトセンターセコンドなど、いかにもな造形美が魅力。ミネルバらしく、地板と受けはジャーマンシルバー製。

 山小屋をイメージしたドールハウスでブースを飾り、ほっこりと落ち着いたイメージで来場者を迎え入れたモンブラン。しかし発表された新作はハードな内容だ。まずハイライトとなるのはミネルバムーブメントの新しいポートフォリオ。「モンブラン 1858 アニュアルカレンダー ジオスフェール リミテッド エディション」では、年次カレンダーとワールドタイムが初めて組み合わされた。ビッグデイトと外周ポインターによる月表示で表される年次カレンダー機構は、7月の表示を「MINERVA」としている。6時位置に設けられたワールドタイムは、半球状のサファイアクリスタルに北半球儀を描き、グリニッジ子午線をオレンジラインで表現する。

モンブラン 1858 オートマティック デイト ゼロ オキシジェン

モンブラン「モンブラン 1858 オートマティック デイト ゼロ オキシジェン」
ブロンズ調の発色を持つ銅アルミニウムをケース素材に採用。内部のゼロ オキシジェンに加え、素材自体の耐蝕性も高いが、長期的な使用ではパティナも楽しめる。自動巻き(Cal.MB 24.17)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。銅アルミニウムケース(直径41mm、厚さ11.3mm)。100m防水。
モンブラン 1858 ジオスフェール ゼロ オキシジェン マウントヴィンソン リミテッドエディション

モンブラン「「モンブラン 1858 ジオスフェール ゼロ オキシジェン マウントヴィンソン リミテッドエディション」
ケースはライトブルーレジンを主体に、クォーツやバサルト、炭酸カルシウムなどを加えたハイブリッド素材。ランダムな繊維感が美しい。自動巻き(Cal.MB 29.25)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。ライトブルーレジンケース(直径43.5mm、厚さ13mm)。100m防水。世界限定986本。

 スタンダードラインとなる「1858」と「アイスシー」では、新作のすべてにゼロ オキシジェン テクノロジーを投入。既存のアイスシーも、アフターサービスでゼロ オキシジェン化が可能になると発表された(日本への導入時期は未定)。両コレクション共にケース素材のハイブリッド化がさらに進み、レジンファイバー系の新素材や、SS素材のダメージエフェクトなども登場した。

モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン

モンブラン「モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン」
SSケースにダメージエフェクトを加えた新作。モンブランの山塊から採れる珪岩を用いたブラスト処理で表面を荒らした後に、PVDのブラックコーティングで経年変化を表現。自動巻き(Cal.MB 24.17/SW200)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径41mm、厚さ12.9mm)。300m防水。
モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン 38mm

モンブラン「モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン 38mm」
アイスシーに加わった小振りな38mmケース。従来の41mmと同様、ISO6425のダイバーズウォッチ規格に準拠する。ベゼルプレートはホワイトセラミックス製。自動巻き(Cal.MB24.17/SW200)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径38mm、厚さ12.3mm)。300m防水。


モンブランのウォッチ部門ディレクターをインタビュー

 コレクションを整理し、近年はスポーツモデルに力を入れるモンブラン。堅実な路線は、ウォッチ部門のディレクターであるローラン・レカンによるものだ。

ローラン・レカン

ローラン・レカン[モンブラン/ウォッチ部門ディレクター]
フランス生まれ。ネオマ・ビジネススクールを卒業後、LVMHのワイン&スピリッツ部門を経て時計業界へ転身。2008年に自身の時計ブランド「サイラス」を共同設立。14年、カール F. ブヘラに入社し、セールス担当副社長、日本法人CEOを務める。21年よりモンブランのウォッチ部門ディレクターに就任。ミネルバの遺産を活かしつつ、新たな時計戦略を推進する。

今年も際立つ質実剛健、手堅く独自の路線を歩むモンブラン

「今年は特に日本向けに興味深いモデルがあるんですよ。新しいモンブラン アイスシーは従来の41mm径に加え、今年は新たに38mm径モデルを展開したのです。また、ゼロオキシジェン コンセプトを初めてアイスシーコレクションに採用しました」。時計内部の酸素を完全に取り除いたゼロオキシジェン コンセプトは、内部に酸素がないため、長期間の使用でも問題がない。しかも今年は、ホワイトとブルーの文字盤を加えた。「ダイアルには氷を模した30層のレイヤーが施され、ひとつ作るのに1カ月かかります」というのは非常に真面目だ。

 結構な手間であるはずだが、モンブランはこのゼロオキシジェンをひとつの売りとしたいらしい。ラインホルト・メスナーとのコラボレーションも、やはりゼロオキシジェンが採用された。「著名な登山家ラインホルト・メスナー氏に敬意を表し、彼が登頂した最高峰にちなむモデルですね。さらにジオスフェールモデルには、特別な素材を使用しています。これはCO2を変換した素材で、氷河のような質感を再現しています。スーパールミノバの塗布も全て手作業ですよ」。説明するレカン同様、プロダクトも良い意味で実直だ。

 実直さでいうと、ミネルバを搭載した新ムーブメントもユニークだ。まさかクロノグラフを作ってきたミネルバが、手巻きのアニュアルを出すとは誰が想像しただろうか?「これはビッグデイト表示、ワールドタイム機能を備えたアニュアルカレンダーですね。また、アニュアルカレンダーの月表示は4日ごとにジャンプし、時計の針を逆回転させても機構が破損しないよう設計されています。もちろんすべて自社製ですね」。彼は大きく喧伝しないが、実用的な時計を作らせると、今のモンブランはかなりうまい。そんな真面目さは、既存の顧客に対してもゼロオキシジェンを提供するサービスにも表れている。

「もしラグジュアリーなものを買ったとしても、数カ月経つと、ものよりもサービスが重要になるのです。その際、何か抜けているとお客様はフラストレーションがたまるでしょう。ですから私たちは既存のアイスシーを買った方々にも、ゼロオキシジェンのサービスを提供します。コストは170ユーロ。お客様が既存のモデルを持って店舗を訪れれば、このアップグレードが可能です。正直、お客様から不満があったわけではないのです。しかし私たちは、長期的な顧客関係の構築を目指したい」

 ローラン・レカンの下、驚くほど生真面目な骨格が浮き彫りになってきたモンブラン。10年前の派手さはないが、むしろこういう質実剛健さこそが、モンブランの味なのではないか。「お客様には、いつも値段が低すぎると言われるのですよ。でもそれはお客様にとってはいい投資でしょう?」



Contact info: モンブランお客様サポート Tel.0800-333-0102


【85点】モンブラン/モンブラン アイスシー オートマティック デイト ゼロ オキシジェン

2025年 モンブランの新作時計を一挙紹介!

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モンブラン「アイスシー ゼロ オキシジェン ディープ 4810」海底4810mへの“無酸素登頂”

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