〝晴れ舞台〟の新世代グランドセイコー エレガンスコレクション

FEATURE本誌記事
2019.10.07

 コレクションを3つに分け、さらに進化するグランドセイコー。2019年は、エレガンスコレクションにドレスウォッチらしさをより強調した手巻きのメカニカルとスプリングドライブ搭載機を追加した。ドレスウォッチとしてのコードを守りつつも、グランドセイコーらしさと非凡な実用性を両立した両モデル。搭載するムーブメントも、まったく新しいものとなった。

SBGK006

グランドセイコー エレガンスコレクション SBGK006
高精度な9Sメカニカル搭載機らしく、スモールセコンドに変更されながらも秒単位の目盛りを持つ。柔らかな造形に合わせるべく、ロゴやインデックス、パワーリザーブ表示はブラウンに統一された。ドレスウォッチを標榜しつつも実用性をも併せ持つ。手巻き(Cal.9S63)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KYG(直径39mm、厚さ11.6mm)。日常生活用防水。グランドセイコーブティック、グランドセイコーサロン、グランドセイコーマスターショップ専用モデル。210万円。
奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

Grand Seiko Must Go On

 実質な実用時計という枠を超えて支持されるグランドセイコー。そこに新しく加わったのがドレスウォッチ風のデザインを持つ手巻きのエレガンスコレクションだ。本作の意図を、セイコーウオッチ デザイン統括部の久保進一郎氏はこう説明する。「緊張感のある晴れの場、例えば結婚式や表彰式などで着けることを想定したデザインにまとめました」

 時計を薄くするため、ムーブメントはローターを省いた手巻きとなり、防水性能もあえて3気圧に抑えられた。また、ケースサイドを絞り、文字盤を立体的なボンベ状に仕上げることで、時計は1960年代のドレスウォッチを思わせる抑揚を得た。 加えて、セイコーのデザイナーたちは、この薄いドレスウォッチにグランドセイコーらしさを盛り込んでみせた。ケースサイズに比してわずかにストラップ幅が細いのは、グランドセイコーの個性である太いラグを強調するため。また、指がかりの良い大きなリュウズも、グランドセイコーならではの要素だ。

[NEW] Cal.9S63の輪列

Cal.9S63
Cal.9S64の輪列

Cal.9S64
新しいドレスデザインをまとったエレガンスコレクションSBGK006が搭載するのは新規設計の手巻き機械式ムーブメントCal.9S63である。ベースは既存の手巻きムーブメントCal.9S64だが、使用シーンを想定してパワーリザーブ表示を付けた。その分厚みが増すことを避けるため、秒表示がスモールセコンドに変更された。しかもモジュールを用いて変えるのではなく、輪列自体の配置を見直している。デザイン上のバランスを取るため、3時位置にパワーリザーブ表示を備える。

 ディテールの熟成ぶりも、今のグランドセイコーらしい。時計の装着感を改善すべく、新しいエレガンスコレクションは時計の全長が短い。久保氏はその理由を「着けていることを意識しないぐらい腕になじませたいため」と語る。普通、ラグを短く切ると、取り回しが改善される半面、ドレッシーさは損なわれる。対してラグの仕上げに、2次元ではなく3次元の曲面を持つ新しいザラツ仕上げを採用することで、グランドセイコーは優れた着け心地と、ドレスウォッチらしさを両立してみせた。針も同様である。一般的なグランドセイコーは、5面のダイヤモンドカットを与えられた時分針を持つが、本作ではあえて3面に留めている。理由は文字盤外周に向かう場所のみを光らせることで、造形上のメリハリを強調するため。針と文字盤のクリアランスもドレスウォッチらしく詰められたが、実用性に配慮して、多少余裕を持たせてある。

グランドセイコー エレガンスコレクション SBGY002

グランドセイコー エレガンスコレクション SBGY002
こちらはスプリングドライブを搭載した新エレガンスコレクション。文字盤に採用するのは雪白仕上げ。しかし、人生経験を経た持ち主を象徴すべく、新雪ではなく風雪で表情を変えた雪面を表現している。機械式モデル同様、全長を短く切った結果、取り回しは大変に良い。手巻きスプリングドライブ(Cal.9R31)。パワーリザーブ約72時間。18KYG(直径38.5mm、厚さ10.2mm)。日常生活用防水。グランドセイコーブティック、グランドセイコーサロン、グランドセイコーマスターショップ専用モデル。280万円。

 こういった匙加減はムーブメントにも及ぶ。SBGK006が搭載するキャリバー9S63は、傑作キャリバー9S64をベースにしたスモールセコンド付きの機械式ムーブメントだ。秒針の位置を変える場合、普通は文字盤側のモジュールで済ませてしまう。しかしグランドセイコーは輪列そのものを刷新したのである。また、スモールセコンドにもかかわらず、1秒単位の目盛りを持つのは、いかにも正確さを重視するグランドセイコーらしい。スプリングドライブのムーブメントも、やはり既存のキャリバー7R系をベースにしたもの。しかし、厚みを過剰に増さない程度にダブルバレル化され、約3日間のパワーリザーブを持つに至った。共通するのは、薄さと長いパワーリザーブの両立である。

 ドレスウォッチの文脈を守りつつも、グランドセイコーらしさと実用性をうまく両立させた手巻きのエレガンスコレクション。時計業界には、優れたドレスウォッチを作れるのは一流のメーカーだけという常識がある。とするならば、ここで挙げた3本が示すのは、今や世界的なブランドに成長したグランドセイコーの成熟そのものだ。

SBGY003

SBGY003
「文字盤に放射感を持たせることで強い印象を与えたかった」(久保氏)。ケース厚は10.2mm。ケースサイドを絞ることで装着感は極薄ドレスウォッチ並みに軽快だ。ツヤ消しのクロコダイルストラップは普段使いにも向く。基本スペックは上のモデルに同じ。SS。世界限定700本。グランドセイコーブティック、グランドセイコーサロン、グランドセイコーマスターショップ専用モデル。85万円。


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