機械式時計の中でも高い人気を誇る機構が「クロノグラフ」だ。とはいえ、購入前に実際に使ったことがある、というユーザーばかりではないだろう。そこで本記事では、ビジネスユースとしても嗜好品としても愛好家の多いクロノグラフについて、使い方や種類別の応用について解説する。
クロノグラフとは
クロノグラフ(chronograph)、またはクロノとも呼ばれるこの機構は、ギリシャ語で時間を意味する言葉「クロノス(chronos)」と、記すという意味を持つ言葉「グラフォス(graphos)」を融合させたもの。
デザイン的に優れたモデルも多いが、その特徴はやはり機能面にある。ではクロノグラフが本来備えている機能とは、どのようなものだろうか。
経過時間を計測するための機構

よく知られる言葉で置き換えれば、クロノグラフとは「ストップウォッチ機能」もしくは「ストップウォッチ機能を搭載した時計」のことだ。
1812年、パリの時計師であるニコラス・マシュー・リューセックは、文字盤の上に油性インクでマーキングした弧の長さで、経過した時間を計る機構を開発。クロノグラフと名付け、翌年特許を取得した。
現在のクロノグラフの原型を作ったのは1844年、アドルフ・ニコルによる。操作部品にハート式のカムを備え、スタート/ストップ/リセットが可能となった。
現在のクロノグラフでは、概ね経過時間はインダイアルという文字盤内に装備される、小さな文字盤で表示される構造となっている。
一般的に“秒針”とされる長い針は、計測に使われる“クロノグラフ針”と呼ばれる。
秒の表示は写真のモデルの場合、9時位置のインダイアルで行われ、“スモールセコンド”とも呼ばれている。3時位置は計測時間を30分まで表示でき、“30分積算計”と呼ばれている。こうしたクロノグラフ針により計測される時間を表示する機構は、“クロノグラフカウンター”や“積算計”と表記される。
クロノグラフを搭載した腕時計が人気の理由
クロノグラフという単語は、その機構を十分に理解していない人にも広く知られている。その理由は“人気があるから”だ。
その最大の魅力が数少ない「操作系」だからだろう。クロノグラフ機構は、ユーザーが操作しなければその役割を果たさない。持ち主が主体的に操作する機能を備えた時計は、実は意外と少ない。
この“操作できる”ことは大いに男心をくすぐってくれる。またインダイアルを多数装備したメカニカルな表情もまた、機械好きの男性たちに訴求する要素だ。クロノグラフの発展には飛行機や自動車の進化と密接な関係があり、こうしたストーリーも含めてクロノグラフを魅力的にみせる。
毎年、新しい機構が開発され、斬新なデザインのモデルが登場。伝統的なデザインからスポーティーなデザイン、また他の機能と組み合わせたモデルなど、豊富なバリエーションがそろうことも人気の背景にある。

自動巻きクロノグラフながらケース厚8.75mmを実現したモデル。3時位置のインダイアルにより、第2時間帯が表示される。自動巻き(Cal.BVL318)。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径43mm、厚さ8.75mm)。100m防水。267万3000円。(問)ブルガリ ジャパン Tel.03-6362-0100

1950年代にブレゲがフランス空軍へ供給していた「タイプ 20」をオリジナルに持つコレクション。本作は、その民生用のモデルを復刻した「タイプ XX」だ。フライバック機能が付いたクロノグラフを搭載しており、クロノグラフ秒針のリセットと再スタートを同時に行うことができる、パイロットウォッチとして極めて有用な1本だ。自動巻き(Cal.728)。39石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42mm、厚さ14.1mm)。10気圧防水。297万円(税込み)。(問)ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211

2024年にカルティエからリリースされた、モノプッシャークロノグラフモデル。リュウズと同軸に設置されたプッシュボタンで、クロノグラフの操作を行う。手巻き(Cal.1928MC)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約44時間。18KYGケース(縦43.7×横34.8mm、厚さ10.2mm)。日常生活防水。世界限定200本。(問)カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00
基本的な使い方
使い方はとてもシンプルだ。基本的にはスタート/ストップ/リセット、この操作により計測できる。
一般的なクロノグラフはリュウズの上にあるプッシュボタンでスタート/ストップ、下にあるプッシュボタンでリセットを行う。計測を開始する際は、上のプッシュボタンを押す。もう一度同じボタンを押すことで、一度止まる。これを繰り返せば、延べ時間を計ることができる。
そして、下のプッシュボタンを押すことでリセットされる。これが基本的な使い方だ。

1942年にベースムーブメントが登場し、その後ブラッシュアップを重ねて完成したオメガの手巻きクロノグラフムーブメントCal.321。1957年に発表された初代「スピードマスター」にも搭載され、アメリカ初の宇宙遊泳や人類初の月面着陸の際に着用されていたことで知られる。このCal.321を完全復刻したのが、「スピードマスター ムーンウォッチ 321」である。手巻き(Cal.321B)。17石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径39.7mm、厚さ13.7mm)。5気圧防水。245万3000円(問)オメガ Tel.0570-000087
クロノグラフの種類別の使い方
ひとことでクロノグラフといっても、計測できるデータは違う。積算機能とダイアルやベゼルに表記される目盛りとの組み合わせにより、目的に応じた計測・計算が可能になる。代表的なメーターを見ていこう。
距離を測るテレメーター
2021年、オメガの「スピードマスター」コレクションに加わったモデル。距離を測るテレメーター、速度を測るタキメーター、そして心拍数を測るパルスメーターの3種のスケールがダイアル上にプリントされている。手巻き(Cal.9908)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径43mm、厚さ12.8mm)。50m防水。145万2000円(税込み)。(問)オメガ Tel.0570-000087
戦時中に活躍した機能が「テレメーター(Telemeter)」だ。敵地との距離を測るために使用された。
大砲発砲の光で計測を開始し、発砲の音が聞こえたら止める。光の速さと音の伝わる速さとの時間差を利用して、敵陣や戦車、軍艦までの距離などを測ることができる。
速度を測るタキメーター

クロノグラフ機能を装備したパイロットウォッチの先駆者である、ブライトリングの代表的なモデルが1983年に誕生した「クロノマット」。2020年、現代的解釈を加えた新シリーズとして完全リニューアルを果たした。自動巻き(Cal.01)。47石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径44mm、厚さ14.4mm)。200m防水。132万5500円(税込み)。(問)ブライトリング・ジャパン Tel.0120-105-707
「タキメーター(Tachymeter)」を装備したモデルでは文字盤の外周、もしくはベゼルに数字と目盛りが刻まれている。その目盛りとクロノグラフ針を使って、平均速度を割り出すことができる。
例えば、自動車の平均速度を知りたい場合、走りはじめにストップウォッチを始動させ、1km走行した地点で停止させる。
その時点で、ストップウォッチ針が示すタキメーター上の目盛りが、平均時速となる。500m走行した地点で停止させれば目盛りの数値の2分の1が、250m走行した地点で停止させれば目盛りの数値の4分の1が、平均速度となる。
自動車、バイク、また自動車などの軽車両でも簡単に速度を測定できる。
脈拍を測るパルスメーター

1時位置に「FOR 30 PULSATIONS」と表記されるように、30脈拍用仕様のモデル。同社初となるクロノグラフとトリプルカレンダー表示、ムーンフェイズを組み合わせた新開発のCal.797を採用する。自動巻き(Cal.759)。37石。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径40mm、厚さ12.05mm)。5気圧防水。305万8000円(税込み)。(問)ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833
脈拍数を測定する目盛り「パルスメーター(Pulsemeter)」を備えたモデルもある。これにより十数秒で脈拍をカウントすることが可能だ。モデルには「15脈拍用」「30脈拍用」がある。15もしくは30を基準数として、この数を打った時点の時間で、心拍数を割り出す。
使用方法は通常の操作と同じで、開始・停止のみ。始動と同時に、脈を測り始めよう。
記された基準数を打ったところで停止させる。このときに、クロノグラフ針が指している数字が、1分間の脈拍数となる仕組みだ。
正しく使うために覚えておきたいポイント
スポーティなデザインのクロノグラフは、タフな印象を与える。頑丈なイメージを持たれるかもしれないが、計測機器であるがゆえ精密な機械であり、非常に繊細だ。正しい使用方法をぜひ知っておこう。
針ズレの調整方法
クロノグラフ秒針は、電池交換時やリュウズ操作時などにズレが生じることがある。その場合、スタートボタンを数秒長押しし、停止させた上でリセットボタンを押してみよう。
この方法でも問題が解消しないなら、ストップウォッチ針の帰零位置そのものがズレている可能性がある。0位置への修正方法はモデルによって異なるため、取扱説明書に記載された方法で正しく行って欲しい。またはメーカーに修理を依頼しよう。
使用時の注意点
大切な時計を長く使い続けるには、いくつかのポイントを押さえておきたい。まず、クロノグラフは、必要なときに最低頻度で使用するように心掛けよう。
クロノグラフはゼンマイによる動力を活用するため、関連部品の劣化を早めることにつながってしまう。電池の消耗にも大きく影響するだろう。
操作時は、正しい順序でボタンを押すことも大切だ。誤った操作により部品の破損をきたすことがある。
強い衝撃や磁力は、故障を誘発する最大の要因ともいえる。長く愛用するためにも、3年を目安に専門店での定期的な点検やメンテナンスをこまめに行っておこう。
クロノグラフを正しく使おう
ビジネスの現場においても、社交の場においても、そしてアクティブなレジャーシーンにおいても、クロノグラフはあらゆる場にマッチするオールマイティーな腕時計だ。
高い性能と優れたビジュアルで時計愛好家の心を掴むクロノグラフを正しく使って、スマートに身に着けて欲しい。