時の流れを可視化させた HYTの野心作

FEATURE本誌記事
2019.12.13

奇抜でありながらも、エンジニア的な生真面目さで時計作りに取り組むHYT。
2019年の新作は時の流れをデザインだけでなく、機構でも強調したH5である。

H5

吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

HYT 「H5」

 針やディスクではなく、チューブに満たされた液体で時表示をするHYTの時計。同社の試みが愛好家から支持を受けてきたのは、毎年新作や追加版をリリースすることからも見て取れよう。そんな同社の最新作が新しい開発パートナーを得て発表された。立体感と動きの面白さを強調したH5である。

 HYTのモデルは、キャピラリーに満たされた液体が透明なチューブへ押し出されて、時を表示する。ベローズ状のキャピラリーを圧縮するのはレバーであり、その動きを司るのは、12時間で1回転するカムだ。カムの回転に伴い、“山”に接触するレバーは一方向に振れ、反対側の先端がキャピラリーを圧縮し、液体をチューブに押し出していく。

 カムとレバーの動きは大変にユニークだが、クロノードやAPルノー エ パピが手掛けてきた既存のモデルはその“心臓部”が見えなかった。必要性がなかったと言うのが正しそうだが、流れるような動きとデザインを強調したH5では、一転してカムとレバーの動きを見せている。もっとも、見て面白いだけでなく、きちんと進化させたのはHYTらしい。

H5

HYT 「H5」
時の流れを視覚的にも強調した最新作。ムーブメントには波に浸食されたような立体加工が加えられたほか、心臓部であるカムとレバーを露出して、時の動きを一層可視化した。ケース外周のフランジおよびチューブの下にはスーパールミノバが充填されているため、暗所において発光する。手巻き(Cal.501)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SS(直径48.8mm、厚さ20.8mm)。50m防水。各世界限定25本。791万円。

 H5のスネイル状の部品はサイズを拡大しただけでなく、13のパーツに分けられた。理由はレバーとの噛み合いをより厳密にするため。サイズを拡大したことと合わせて、理論上は一層高い表示性能を持つはずだ。液体による表示に正確さを求める人はいないだろうが、あえて作り込む真面目さが、愛好家たちの支持を集めてきた所以なのだろう。

 立体的な造形と面白いメカニズムに加えて、戦略的な価格を持つH5。HYTの魅力を知りたければ、本作を手に取ることをお勧めしたい。なるほど、人気を集めるのは納得だ。

Contact info: HYT JAPAN / G&Rジャパン (オフィス麦野) Tel.03-5422-8087