IoT時代におけるシチズンの挑戦と熱意「エコ・ドライブ Riiiver」

テクノロジーの分野で知らぬ人はいないほどのジャーナリストが、本田雅一氏だ。その本田氏が、ウェアラブルデバイスについて執筆する本連載。今回はシチズンから発売されたスマートウォッチ、「エコ・ドライブ Riiiver」について語る。

本田雅一:文
Text by Masakazu Honda


シチズン 「エコ・ドライブ Riiiver」

 シチズンがクラウドファンディングで立ち上げた「エコ・ドライブ Riiiver」がいよいよ一般販売を開始した。この製品はアナログ指針のクォーツウォッチに、簡単なスマートフォン連動機能を持たせた「腕時計+α」のデバイスにしか見えないかもしれない。

 伝統的な腕時計のスタイルにスマート機能を組み込んだ例は、フォッシルがアクティビティトラッカーのMisfitを買収し、その機能をデザインウォッチに組み込んだ「ハイブリッド型」と彼らが呼ぶ商品ジャンルが有名だ。その佇まいだけを観ると、エコ・ドライブ Riiiverも近しいように思えるだろう。

2019年6月にクラウドファンディング「GREEN FUNDING」にエコ・ドライブ Riiiverを出品、先行販売を開始した。「蔦屋家電+」において世界観を体感できる展示も行い、なんと開始30分で目標金額の150万円を達成。8月31日にプロジェクトを終了するまで、1億円を超える支援金を集めた。

 しかし、実際に触れてみると、その背景……いや、開発者の想い……といった商品として流れる根底の部分が異なることが商品から伝わってくる。

 スマートフォンが世の中のインフラになっていることは誰もが認めるところだろうが、加えて現代はさらにIoTの時代へと入ってきた。つまり、あらゆる“モノ”がインターネットへと接続されていく。

 スマートウォッチと言うと、Apple Watchに代表される「パーソナルコンピューターをウェアラブルにするプロジェクト」が真っ先に思いつくが、エコ・ドライブ Riiiverのコンセプトはもっと緩やかにネットワークへと接続される世界観だ。

テック製品ではなく使い慣れた生活になじむアイテムを“コネクト”

 伝統的な腕時計を“含む”、「さまざまな身に着ける」、あるいは「生活を彩るモノ」をつないで連動させる。エコ・ドライブ Riiiverは腕時計に留まらず、多くのIoTをつなぎ、簡単に連動させるプログラミングツール、それと開発したアプリの共有といったことを通じて、新しいライフスタイルや使い方の提案をしていこうという、実にクリエイティブなプロジェクトだったのだ。

 スマホとつながる腕時計なのだと頭から決めてかかっていた僕の頭の中は、実機を触ってみて「なるほどこれは“プラットフォーム”なのだ」と腑に落ちた。

 もちろん、エコ・ドライブ Riiiver自身は、シチズンお得意のエコ・ドライブを用いた腕時計に他ならない。ポップな外観はサイズの大きさもあって男性的な印象を受けるが、ミラネーゼタイプのバンドはフィット感もよく、腕時計としての基本的な装着感は合格だろう。

シチズン 「エコ・ドライブ Riiiver」
腕時計の常識に縛られない「ライフハッカブル」なデバイスというコンセプトで開発されたスマートウォッチ。最大の特徴はユーザー自身が時計の機能をカスタマイズできる、という自由度の高さだ。その特徴を活かすために、通常の時計が備える表記や装飾を排除したミニマルなデザインに仕上がっている。プログラムのエディター画面に着想を得たカラーリングは、視認性の向上にも一役買っている。光発電エコ・ドライブ(Cal.W510)。SS(直径43.2mm、厚さ12.6mm)。10気圧防水。4万5000円(税別)。

 単純にこの製品を機能面で捕らえるならば、同社が販売してきたエコ・ドライブ Bluetoothが持つ機能に「Iiidea」という簡易プログラム環境を付加したものである。Iiideaについては後に詳述するが、夢のない書き方をするならば、つまりは少しばかりプログラマブルになったエコ・ドライブ Bluetoothとも言える。

 購入直後は歩数、距離、消費カロリーといった基本的な活動量計測と太陽電池の発電量、時計が浴びた光の道筋の表示、自動の時刻合わせといった機能がスマートフォン連動で使えるのみで、残りはすべてiiideaでプログラムする必要がある。

 そうした意味では、エコ・ドライブ Bluetoothの方が購入直後は機能的なのだ。しかし、エコ・ドライブ Riiiverの価値観は機能の数ではない。

 ひとりひとり異なる生活のリズム、生活を取り巻く環境の違い。それらに合わせてパーソナライズし、自分だけの腕時計に仕上げていく。使い慣れた生活になじむアイテムがIoT化し、つながっていくときに自然にIoT同士が接続され、ネットワークサービスと連動していく。そのプラットフォームをシチズンは創り上げたかったようだ。