オリス共同経営責任者ロルフ・スチューダーへインタビュー「大切なのは持続可能性」

FEATUREWatchTime
2020.04.15

ウォッチタイム編集部はこのたび、ヘルシュタインを拠点とするスイス時計ブランド、オリスの共同経営責任者ロルフ・スチューダーのインタビューをする機会を得た。彼がブランドや時計業界をどう見ているのか、愛好家たちはオリスに何を期待していると考えるのか、そしてオリスが目指す持続可能なビジネスについて尋ねることができた。

ロルフ・スチューダー

オリスの共同経営責任者、ロルフ・スチューダー。2006年にオリスへ入社し、16年から現職に就いている。写真は2018年、チューリヒにおけるブティックオープニングの際に撮影したもの。
Originally published on watchtime.com
Written by Roger Ruegger

ウォッチタイム(以下WT):近年スイス時計の平均価格は継続的に上昇しています。時計業界はエントリーレベルの時計を購入する消費者から遠ざかりつつあるのでしょうか?

ロルフ・スチューダー(以下RS):2019年だけでもスイス時計の平均価格は前年に対して18%上昇しており、過去2年で28%も上昇しました。これが一般の購入者や時計愛好家にとって良いものでないことは明らかです。この傾向はまず消費者との距離を遠ざける可能性があるでしょう。スイス時計が多くの顧客の手の届かないところへ行けば、いずれ関係性が断絶されるでしょう。これが時計業界で起こり得る最も危険なことです。ですから、オリスでは価格上昇を歓迎していません。オリスの使命は明確です。「私たちは収入を得るため仕事を一生懸命し、賢くお金を使う人のために時計を作り続ける。したがって、私たちは現在も価格を維持し続けているのです」。

WT:オリスはなぜマスコットにクマを選んだのですか?

RS:マスコットのクマ「オリスベア」は、もう何年にもわたってヘルシュタインから世界各地まで私たちと旅を続けてきました。その目的は、エンドユーザーとのコミュニケーションです。他のブランドではメッセージを伝えるのにアンバサダーを立てていますが、オリスベアもその役割を果たせると思っています。オリスベアはさまざまな感情を伝えるのに完璧なキャンバスであると同時に、見る人に微笑みを与えられる存在でもあります。私たちが伝えたいことを、オリスベアは投影してくれます。

オリスベア

他ブランドとは異なる存在感のアンバサダー、オリスベア。写真は2018年にロンドン・ブティック前にて撮影したもの。

WT:持続可能性と環境保護はオリスにとって重要なテーマとなっています。特に注目すべきプロジェクトは何でしょうか?

RS:「オリス スタグホーン レストレーション リミテッド エディション」を例に取りましょう。

 私たちは2017年に、米フロリダ州キーラーゴ沖に拠点を置く非営利組織「コーラル レストレーション ファウンデーション」と協力して、サンゴ礁の再生保護事業を行いました。さらに、グレートバリアリーフでも同じような効果が出るように、この時の技術はオーストラリアなどへも供与しました。同様に、フロリダで開発したものと同じ技術を使って世界の現地組織と作業を行っており、良い結果を残しています。

 時計ブランドとして具体的に何ができるかを示すのも非常に重要なことです。私たちは「オリス スタグホーン レストレーション リミテッド エディション」の時計ボックスに、従来の石油系プラスティックから海藻へ置き換えた材料を採用しました。そこで削減できたものの数字は大きくはありませんが、大切なのは人々に考える機会を与えることだと思います。そして高品質な機械式時計の購入者は、まさに変化をもたらすことができる人です。貧困にあえぐ国々にどうしたらより持続性のある生活ができるのかを、わざわざ示す必要はありません。

 私の好きなプロジェクトのひとつに「クリーンオーシャン」があります。これはボックスの素材に海藻を用いたように、再生プラスティックや廃棄物を転用してケースバックのメダルに生まれ変わらせるものです。廃棄物をどのように再生させられるかを示すことにも意味があると思います。これを知った人たちが今までと違った考えを持てば、そこに大きな影響力が生まれるのです。

 独立した機械式時計の作り手として、持続可能性への考えは私たちのDNAの中に存在します。持続可能性とは資源を大切に使うことであり、その姿を伝えることにより、それが見せかけだけでなく企業理念の一部であること、私たちの使命であることを理解していただけるのです。ブランドが「後は野となれ山となれ」というスタンスを貫いてきたのに突然、カメを保護しようと言い出しても信用されません。オリスでは資源を大切に使う姿勢を何十年も伝えてきました。同じように続けてきたからこそ、エンドユーザーに理解され、メッセージがきちんと伝わるのです。

オリス スタグホーン レストレーション リミテッド エディション

2017年発表の「オリス スタグホーン レストレーション リミテッド エディション」。自動巻き(Cal.Oris 735/SW 220-1ベース)。26石。2万8800振動/時。パワーリザ-ブ約36時間。SSケース(直径43.50mm)。30気圧防水。ラバーストラップ。26万4000円(税別)。

オリス スタグホーン レストレーション リミテッド エディション

「オリス スタグホーン レストレーション リミテッド エディション」のボックスの材料には海藻が使われた。それを示すケースバック。

WT:あなたが時計ブランドでキャリアをスタートさせるにあたりオリスを選んだのはなぜですか?

RS:私は品質の良いものに常に興味を持っていました。その目線から自分の人生をかけられるものを探していたところ、機械式時計がまさにそれだったのです。オリスは時計業界でも数少ない独立系で、オーナーが経営に携わっています。個性を発揮できる土壌というわけです。オリスには2006年に入社していますが、いつも正しい選択だったと思っています。

WT:オリスに在任している14年の間で、特にどんな出来事が印象に残っていますか?

RS:会社としてオリスは近年、多くの市場において強い成長を遂げてきました。私自身も、日々の情報の中で最善を尽くすよう努めてきました。しかし過去を振り返りながら、他に違う良い方法はあっただろうかと自問自答し続けてもいます。そのような毎日ですので、特にこれが素晴らしいと思えることは私の場合はなかった気がします。私にとって重要なことは、常に次のレベルへ向かい続けることです。他方、誰かと関わっていた瞬間をうれしく思い出す時もあります。ロンドンの著名なジャズミュージシャンだったチャット・ベイカーの未亡人や、ドラマーのアート・ブレイキーの息子さんが、生前の彼らについて語ってくれたことなどが印象に残っています。こういった人々と時間を過ごすことによって、私の会社のチームと共に次へ進もうとし、不可能を可能にし、夢を実現し、次の段階へと進む力が生まれる。振り返るとこのような瞬間が非常に意味のあるものとして思い出されます。

WT:ご自身の最初の時計は何でしたか?

RS:最初の時計として思い出すのは、もう動いていませんが父からもらったブライトリングのクロノグラフですね。私はそれをすぐにバラバラにしてしまい、元には戻せませんでしたが、機械式時計に対する興味をかき立ててくれました。父からは、ジャガー・ルクルト メモボックスの「TVスクリーン」と呼ばれた時計ももらいました。ブルーの文字盤とヘアライン仕上げのステンレススティール製ケースのものでした。自身で最初に購入した時計はパネライのルミノールです。

WT:オリスの時計では、「カール・ブラシア」シリーズのブロンズ製ダイバーズウォッチをよく着用していますね。なぜその素材に愛着があるのですか?

RS:ブロンズが語るその人ごとのストーリー、見るたびに変化する素材感などが好きなのです。2016年に最初に手にしたカール・ブラシアは、海に行く時だけ着けるようにしていて、一度も真水で洗っていません。子供たちと過ごした休暇の記憶が刻まれていて、一緒に海の中で過ごした時間がよみがり、私だけのストーリーを語ってくれます。またブロンズは高級品としての佇まいから、自分だけの価値ある存在へと変遷するシンボルともいえるので、ブロンズ製の時計を着用するのが好きなのです。以前は表面に変化が現れる時計は、販売が難しかったのも事実です。現代において機械式時計は、ステータスを伝えたり、誰かを羨ましがらせたりするためのツールではなく、誰かと楽しむものであるべきだと思っています。私は高級時計について個人的にはそのように考えています。

カール・ブラシア

スチューダーが着用するブロンズ製のカール・ブラシア リミテッドエディション。購入後にZULUストラップへ付け替えた。

WT:コレクターにとってのオリスの重要性とは?

RS:時計愛好家のコミュニティーは、オリスの今日の成功にとって大きな存在です。オリスの時計はかつて、主に愛好家の方々に支持されてきました。彼らがソーシャルメディアを使用するおかげで、近年では国際的に知られるようになり、多くの人のライフスタイルに私たちの時計が取り込まれてきました。オリスは広告予算を使い、愛好家たちの高評価をお金で買ったことはありません。市場を代弁する彼らのおかげでオリスはさらに広い顧客にリーチすることができるようになっているのです。

Contact info: オリスジャパン Tel.03-6260-6876