ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロの選ぶ腕時計は?

LIFEセレブウォッチ・ハンティング
2020.07.17

一流のセレブたちは一体どんな腕時計を選ぶのか? 世界のセレブたちのワンシーンを切り取り紹介する連載コラム「セレブウォッチ・ハンティング」。今回は、2017年のノーベル文学賞受賞者、カズオ・イシグロが選ぶ腕時計を紹介しよう!

カズオ・イシグロ

カズオ・イシグロ

Photograph by PA Images/Aflo

 日系イギリス人作家のカズオ・イシグロ(日本語表記は石黒一雄)。日本人の両親のもと1954年に長崎県で生まれ、5歳のときに渡英、83年にイギリス国籍を取得した小説家だ。代表作には『日の名残り』(1989年)、『わたしを離さないで』(2005年)などがある。前者はブッカー賞受賞で彼の名を広く知らしめた作品であり、1993年にアンソニー・ホプキンス主演で映画化された。後者もキャリー・マリガン主演で映画化されたほか、2016年には綾瀬はるか主演でテレビドラマ化されており日本でも知る人が多いだろう。

キネティック

 写真は2017年のノーベル文学賞受賞時に彼のロンドンの自宅近くで撮られたものである。取材に応じる姿に、ある腕時計が写っていた。セイコーの「キネティック」だ。

セイコー
「キネティック」

キネティック

Ref.SKA335P1。クォーツ(キネティック Cal.5M62)。チタンケース(直径38.5mm)。2005年発表。生産終了。海外モデルとして発表され、日本円換算では3万5000円程度で販売された。フル充電で約4~6カ月駆動する。2時位置はインジケーターボタンであり、押すと運針中の秒針が早送りし、その早送りする秒数で充電量を示す。

 1969年に「クォーツレボリューション」を巻き起こしたセイコー。クォーツ時計の普及に伴い同社が新たに向き合ったのが、資源と環境保全のため、電池の廃棄量を減らすことである。その観点から生み出した機構のうち1988年に発表したのが、自動巻き発電「キネティック」(誕生時の名称は「オートクオーツ」)だ。

 キネティックとは、元来ギリシア語で「動く」を意味する言葉である。着用者の動きでローターを回転させエネルギーを生み出す機械式自動巻き時計と、クォーツ時計の仕組みを合わせたような機構だ。一般のクォーツ時計はボタン電池で動くが、キネティックはローターの回転によって内蔵された発電機が回り、発電した電気を「キネティックE.S.U.」という部品に蓄えて時計を動かす。なお、1日分のエネルギーを蓄えるためには200往復以上の動きが必要だ。

 電池交換の手間を軽くする時計といえば、日本では太陽電池時計を思い浮かべる人が多いかもしれないが、実は海外ではキネティックの人気が高い。イシグロの着用モデルと推測されるRef.SKA335P1も海外モデルである。
 なお機械式時計、クオーツ式時計の両者の要素を取り入れたハイブリッド型時計としてはこの後、ぜんまいで駆動、発電して、クォーツで制御する「スプリングドライブ」が1999年に発表された。

 2008年には「1945年以降の英文学で最も重要な50人の作家」(タイムズ紙)のひとりにも選出された、世界的なベストセラー作家、カズオ・イシグロ。彼が選ぶのは、日本ブランドの技術力が活きた腕時計だった。その時計はいつも文字盤が手首の内側にくるように着けられている。これは和装の人に多く見られる着け方だが、彼には執筆中に時間を確認しやすいなどの理由でこの位置が定着してきたのかもしれない。

2017年にカズオ・イシグロの文学賞受賞を伝えたノーベル賞の公式ツイッター。

高井智世


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