スイス時計に劣らぬグランドセイコーの精度。独自規格や技術を紹介

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2020.12.06

1960年に誕生したグランドセイコーは、日本が世界に誇る最高級腕時計ブランドだ。マニュファクチュールにこだわり抜いたグランドセイコーの時計はスイス時計にも劣らない。その根拠となるグランドセイコーの精度や技術、規格を紹介しよう。


そもそも腕時計の精度とは?

時計の精度を一言で表すなら「時間の正確性」だ。ヨーロッパ人が海に乗り出した15世紀以降の大航海時代、イギリスでは正確な緯度と経度を測定するために、当時のイギリスでは太陽の位置と正確な時刻の測定が不可欠だった。

そのために開発されたのが、マリンクロノメーターだ。その後、時代が進むにつれて、時計に求められる精度水準はより高くなっていく。

では現在、腕時計の精度はどのように判断されているのだろうか。主要な規格を例に見ていこう。

高い精度の証 C.O.S.C.認定

C.O.S.C.(The Contrôle Officiel Suisse des Chronomètre)は、スイス公式クロノメーター検定機関のことだ。厳しい審査をパスした高精度のムーブメントへの認定機関であり、1973年に設立されて以来、スイスの時計業界において重要な役割を果たしている。

C.O.S.C.では、ムーブメントが検定機関に送られると、すぐに厳しい検査が行われる。平均日差、平均日較差、最大日較差、垂直方向と水平方向の姿勢差、最大姿勢偏差、温度変化に伴う値の変化、および、一度静止させたのち再駆動させた際の値の変化が厳重に審査され、条件に合格したムーブメントのみに認定表が発行される。

近年では年間約160万本以上の時計がC.O.S.C.の検定に合格している。しかしながら、これはスイスから輸出される時計全体のわずか6%ほどでしかない。そのうち機械式時計は21%程度となっており、検査基準の厳しさがうかがえる。

C.O.S.C.

C.O.S.C.を取得できるのはスイス製の時計のみ。ムーブメントがスイス製であることをはじめ、ケーシングと最終検査がスイスで行われていること、さらに生産コストの最低60%がスイスで発生しているという条件が必須。またムーブメントにおいては、組み上げと検査がスイスで行われ全パーツの50%以上がスイス製であることが必要となる。

ジュネーブ・シールなどその他の規格

ジュネーブ・シールは、スイス・ジュネーブ州が制定するムーブメント規格で、スイスのジュネーブで審査が行われる。その対象は「申請企業はジュネーブ州内に拠点を置き、全ての部品製造および組み立て作業がジュネーブ州内で行わなれたムーブメント」となっている。

かつてはムーブメントの装飾や仕上げ、使用した素材の規定が主だったが、近年では防水性やパワーリザーブなど、実用性や品質にも照準が置かれるようになった。認定を受けるとジュネーブ市ならびジュネーブ州の紋章が刻印されることになる。

認定機関にはその他にも、同スイスでカリテフルリエ財団によって実施される「カリテフルリエ」、フランス唯一の検定機関である「ブザンソン天文台」などがある。今後もこれらの機関によって厳しく審査された高精度の時計が、世に送り出されることだろう。

カリテフルリエ

パルミジャーニ・フルリエ、ボーシェ、ショパール、ボヴェといったスイスのフルリエに拠点を置くメーカーの提唱で2004年に創設されたカリテフルリエ。財団が検定を行う前に、デュボア研究所が行うクロノフィアブル・テストをクリアし、C.O.S.C.の検定で合格していることが必須。その後、財団が定める基準を満たさなければならない、実に厳しい検定となっている。


グランドセイコーの基準

ムーブメントの精度は、ここまで紹介したような認定機関によって厳密に審査されている。では、グランドセイコーの時計はどのように審査されているのだろうか。グランドセイコーのムーブメントの精度基準について解説する。

クロノメーター規格よりも厳しい新GS規格

クロノメーター規格とは、C.O.S.C.規格のこと。グランドセイコーでは、1998年に、この規格を上回る精度基準「新GS規格」を設けている。

17日間に及んで6つの姿勢、3つの温度環境で平均日差+5秒〜−3秒までを審査する厳格な規格だ。徹底された精度へのこだわりは、グランドセイコーの魅力のひとつと言えるだろう。

新GS規格よりもさらに厳しいGSS規格

さらにグランドセイコーは新GS規格よりも厳しい「グランドセイコースペシャル(GSS)規格」を設けている。

審査はさらに厳しく、静的精度平均日差+4秒~-2秒という精度は、熟練の職人が通常の機械式時計の何倍も時間と手間を掛けてようやく到達できるレベルのもので、1年にわずかしか生産できない。

GSS規格の審査を通過したキャリバー9S 20周年記念の限定モデルは、世界でわずか150本しか販売されなかった。

GSS規格の審査に通過した時計のダイヤルには「SPECIAL」の文字が記されるが、それは特別なムーブメントを搭載していることの証である。

SBGH266

SBGH266
2018年にキャリバー9Sの20周年を記念して作られた「SBGH266」。グランドセイコースペシャル規格に合格した特別精度のムーブメントを搭載し、平均日差は+4秒〜-2秒(静的精度)を誇る。自動巻き(Cal.9S85)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KYG(直径39.5mm)。日常生活用強化防水(10気圧)。


グランドセイコーの精度を支える技術

グランドセイコーの高級腕時計の精度を支えているのは、グランドセイコーがこれまで錬磨してきた技術に他ならない。特に9Sメカニカル(機械式ムーブメント)には、最先端の技術や職人の技術がふんだんに盛り込まれている。

グランドセイコーの精度を支える、数々の技術について紹介しよう。

脱進機構

グランドセイコーの精度を支える調速・脱進機構は、職人の技と最新技術によって生み出される。

先端技術による高精度なパーツづくり

グランドセイコーではさまざまな先端技術が取り入れられている。特に9Sメカニカルでは、脱進機となるパーツの製造に先端技術「MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)」を採用している。

MEMSは、半導体の製造技術を応用した技術で、0.001mm単位という極小精度で軽量なパーツを作ることが可能だ。5%もの軽量化に成功したガンギ車の成型、25%もの軽量化に成功したアンクルなど、細かいパーツをより高精度で作ることが可能となっている。

ヒゲゼンマイの調整

ヒゲゼンマイはテンプを構成するパーツのひとつであり、機械式時計の精度を左右する最も重要な心臓部だ。まるで生き物であるかのように、ヒゲゼンマイはひとつひとつが違った個性を有している。

グランドセイコーの職人は、それぞれの異なったヒゲゼンマイの個性にあわせ、指の感覚のみを頼りに1/100mmという精度で調整を繰り返し、9Sメカニカルの心臓部を作り上げているのだ。

テンワの支柱の増設

テンワは、アンクルの反復運動を調節・制御する役割を担っている。回転を安定させるために0.000001g単位で重量調整が行われるほどに、時計の精度に関わる重要なパーツだ。

非常に繊細なパーツであり、わずかな環境の変化によって膨張・萎縮してしまい、時計の精度に影響を及ぼすことがある。そこで、9Sメカニカルでは通常2〜3本であるテンワの支柱を4本に増設して、環境の変化から受ける影響を少なくしている。

こうした細かい部分までの徹底したこだわりこそが、グランドセイコーの緻密な精度を支えているのだ。

SBGH277

SBGH277
3万6000振動/時のハイビート・ムーブメント9S85を搭載した「SBGH277」。自動巻き(Cal.9S85)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SS(直径40mm)。日常生活用強化防水(10気圧)。64万円(税別)。


精度に着目すると時計の見方も変わる

時計を見るとき、デザインや機能など、目に見えやすい部分にどうしても注目してしまいがちだが、内部の機構にこそ技術や時計へのこだわりが詰め込まれている。

「時間が狂わない」という要素は、時計に求められる最も基本でありながら、最も実現が難しいものだ。グランドセイコーの基準は、C.O.S.C.をも凌いでいる。精度に着目することで、グランドセイコーの時計に関する見方が変わってくるのではないだろうか。

川部憲 Text by Ken Kawabe


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