カスタム・ビルドしたポルシェデザイン「カスタム・ビルド タイムピース」をテスト

FEATUREスペックテスト
2021.01.29

ポルシェデザインでは、好みに合わせてクロノグラフをカスタマイズできる「カスタム・ビルド タイムピース」プログラムを開始した。そこでクロノスドイツ版編集部は、ポルシェの新型911ターボSのテスト車に合わせてクロノグラフをカスタム・ビルドした。特別なエンジンを積んだふたつのマシンを装備し、アルプス山系の峠に挑む。

ポルシェデザイン カスタム・ビルド タイムピース

イェンス・コッホ:文 Text by Jens Koch
マルクス・クリューガー:写真 Photographs by Marcus Krüger
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto

さらなる高みへ

 気温摂氏2度、天候はみぞれ模様。7月中旬のステルヴィオ峠の天気予報はあまり魅力的に聞こえない。だが、荒れ模様というほどでもなさそうだ。標高2757m、アルプス山系で2番目に高いステルヴィオ峠まで、カーブの多い山道をひたすら上り続ける。最高出力650PSの水平対向6気筒ツインターボエンジンにより、短いストレートではまるで前方に飛ぶような感覚に襲われる。

ポルシェデザイン カスタム・ビルド タイムピース

クロノグラフの文字盤は911のタコメーターにインスパイアされている。

 時折小雨が降るが、ファブリック製の赤いコンバーチブルトップは開けたままだ。18方向に調整できるシートの恩恵によって車内は非常に快適である。インテリアはブラックとボルドーレッドのツートーンレザーで、赤いデコレーティブステッチがコントラストを添えている。さらに、我々の手首には、車と同じカラーにカスタマイズされたポルシェデザインの時計がある。

 ポルシェのスポーツカー同様、ポルシェデザインのクロノグラフは、今年からウェブサイトのコンフィギュレーターで「カスタム・ビルド タイムピース」プログラムというサービスによってパーソナライズできるようになった。カスタマイズはふた通りの方法で行うことができる。まずは、ポルシェデザインのウェブサイトで文字盤リングのカラー、ストラップ、好みのステッチカラーなどを選ぶ方法である。オプションを自由に選ぶことができ、最終的には150万通りもの組み合わせが可能だ。ふたつ目は、911ターボSなど、実際にポルシェを購入した後、ポルシェのウェブサイト上のコンフィギュレーターで「その他のオファー」をクリックして「手首のためのポルシェ」をオーダーする方法である。ここでは、車のインテリアのレザーと同じカラーのストラップ、リムと同デザイン、ボディーと同色のローターを備えた時計を提案してもらうことができる。つまり車と違い、場所の制限を受けることなく、オフィスでもバーでも、飛行機に乗る時も、どこにでも〝ポルシェ〞を携行することができるというわけだ。

 独自のエングレービングを施した唯一無二の時計はポルシェ同様、コンフィギュレーターで作成したコードでオーダーし、数週間後、車と一緒に受け取ることができる。

 峠の頂上に到着すると、雲の切れ間から太陽の光が差した。911を停めてしばし景色を楽しむ。岩壁には雪が残り、オルトラー山群の前をちぎれ雲が通り過ぎる。遠方にはつづら折りの山道が無数に続くのが見える。我々はホテル パッソ ステルヴィオでカプチーノを飲んだ後、再び911に戻った。

ポルシェデザイン カスタム・ビルド タイムピース

鋭いハンドリングとあり余るパワー。911ターボSはすべてのコーナーを貪欲に攻める。911ターボSの0-100km/h加速は2.7秒。その際にドライバーに掛かる強烈なGはヘッドレストに頭をぶつけてしまうほどだ。

手首のためのツール

 文字盤は、911に搭載された数少ないアナログ機器であるタコメーターのデザインを踏襲たものだ。文字盤の縁まで延びるインデックスには蓄光塗料が塗布されている。インデックスはさらに細分化されているが、細かい目盛りはクロノグラフカウンターにも配されている。911ターボSのタコメーターでは7000rpmからレッドゾーンになるが、クロノグラフでは30分積算計と12時間積算計のゼロの目盛りを赤くすることでこれを再現した。精密に踏襲されたタコメーターのデザイン同様、手の込んだ作りはポリッシュを施したポルシェデザインのロゴにも反映されている。

 我々はつづら折りの道を飛ぶように下った。時折対向するバスやトラックという存在によってブレーキをかける。911ターボSは先代モデルよりもフロントのトレッド幅が42㎜拡大されたことから、狭い道ではなおさら幅が広く感じる。ターボで過給されていることがひと目で分かる特徴的なエアインテークは新型モデルにも装備されている。新型911ターボSの315/30ZR20のリアタイヤはアスファルトの路上でのグリップ性が良好で、安定したコーナリング性能を発揮する。リヤが重く設計されているにもかかわらず、4WDであることから直進安定性は良い。もちろん他の911同様、リアアクスルの後方にエンジンが載っているので、リアタイヤに荷重がかかり、トラクションが増す。新開発の3・8Lツインターボエンジンはポルシェ伝統の6気筒ボクサーのため、車の重心を低く保つことに貢献している。可変容量ターボ(VGT)付きエンジンは、先代モデルのものよりもサイズが大きく、最大650PSの出力と、最大800Nmのトルクを生み出す。

ポルシェデザイン カスタム・ビルド タイムピース

48回のコーナリングを経て、アルプス山系で2番目に高いステルヴィオ峠に至る。霧雨と数℃の気温にもかかわらず、4WDでトラクションの巨大な911ターボSは多くの喜びを与えつつ、クロノスドイツ版編集部のイェンス・コッホを標高2757mのステルヴィオ峠まで安全に運ぶ。しかし控えめな外観から最高出力650PSの特別な911であることは、側面のターボエアインテークと各スポイラーでしか識別できない。

 ポルシェデザインのエンジンも新しい。キャリバー01・200はスイスのムーブメントメーカー、コンセプト・ウォッチ・ファクトリーと共同開発され、2017年に「1919 クロノタイマー・フライバック」でデビューしたものである。そして20年には、クロノグラフ計時中に新たな測定を開始できるフライバック機能が排除されたキャリバー01・100が発表された。カム式のクロノグラフは、クロノグラフムーブメントとして定評のあるETA7750の設計から一部を借用しているものの、外観はまったく異なる印象を与える。地板、受け、テンプ受けにはマットブラックのPVDコーティングが施され、ポルシェデザインのロゴが彫り込まれている。ローターブリッジから巻き上げ用歯車を見ることができるが、ムーブメントの大部分は911のリムを再現した美しい自動巻きローターに隠れて見ることができない

ミニチュアアート

 自動巻きローターは、911ターボSが持つツートーンカラーのリムの22分の1スケールである。このパーツの製造公差はわずかに5ミクロンである。ローターの中心に配されたカラフルなポルシェ クレストは幅がわずか3・3mmで、ルーペで観察すると極めて精巧な作りであることが分かる。まさに、ミニチュアアートであり、自分だけのポルシェを身に着けている感覚を楽しむことができる。

 カーブがだいぶ緩やかになってきたので一旦停止をしたのち、ローンチコントロールを使用してゼロスタートからのフル加速を試みる。この機能を使用するためにはまず、ステアリングホイールにあるロータリースイッチでスポーツプラスモードを選ぶ。そして左足をブレーキに、右足をアクセルに置き、右足でアクセルスロットルを煽りながら左足をブレーキから離すだけだ。そうして発進時に無駄なくトラクションが路面に掛けられるエンジン回転数をコンピューターによって制御された911ターボSが前方に飛び出すと、頭をヘッドレストにぶつけてしまうほどの強力なGを伴い車は加速していく。加速性能は驚異的で、0-100km/hの加速タイムはわずか2・7秒である。ジェットコースター並みの加速は想像を絶するほどで、中毒性すら感じる。ランボルギーニの「アヴェンタドールSVJ」やマクラーレン「マクラーレン セナ」でも、これ以上の加速性能は望めないだろう。

 アウトバーンの速度無制限区間で、911ターボSはその強みを最大限発揮することができた。200km/h付近でもアクセルをさらに踏み込むとシートに身体が押し付けられる。道路が混み始める前に我々は最高速度の公称値である330km/hに達した。新型911ターボSはアクティブ・エアロダイナミクスを備え、空気圧展開式フロントスポイラーと大型可動式リアウイングによりダウンフォースが強化されている。スポーツプラスモードで走行すると、ハン・ソロがミレニアム・ファルコンでハイパースペースに入った時に星が後方へ流れていくような感覚が味わえる。

 この性能を時計に置き換えるなら、精度を意味するだろう。ポルシェデザインのムーブメントは、スイス公式クロノメーター検定機関のC.O.S.C.によってクロノメーターに認定されている。着用時の日差はプラス4秒/日と規定範囲内である。ストップセコンド機能が搭載されていることから、時刻も正確に合わせることができる。9時位置のスモールセコンドの表示はディスク方式だ。このスモールセコンドダイアルは上下に二分割されており、11本の細い線と1本の長く太い線により、明確に秒の経過を判読することができる。時刻の視認性は、明るく発光する針とインデックスにより、日中はもちろん、暗所でも総じて良好だ。

 911ターボSでも計器類のデザインは明瞭で、デジタル表示は極めて明確である。ダッシュボードにある5つの丸い計器のうち重要度のあまり高くない外側のふたつは、ステアリングホイールの後ろに隠れてドライバーの視野には入らない。ステアリングホイールにはパドルシフトが取り付けてあり、これを操作してギアを任意に変更すると、アップダウンの多い南チロルを走行する際に極めて楽しい。プラート・アッロ・ステルヴィオへの出口では、8速から2速へと、ドライバー自身が感じることができないほど素早くギアチェンジすることができる。

ポルシェデザイン カスタム・ビルド タイムピース

中心にポルシェ クレストを配したツートーンカラーのローターは、911ターボSのリムを精密に再現したミニチュアアートである。ストラップのクイックチェンジシステムと走行モードの切り替えスイッチは、スポーティーからエレガントへ、クロノグラフと911を素早く変身させる。

素早く変えられる感覚

 これ以外の機能も、美しいボタンと切り替わりの早いタッチスクリーンで簡単に操作できる。アイドリングストップの停止など、いくつかの機能はメニューで探す必要がある。小さなシフトレバーは好みが分かれるかもしれないが、ハイライトは間違いなく、走行モードを切り替えるブーストヘッド付きのロータリースイッチだろう。コムーネ(基礎自治体)内の道や高速道路ではダンパーの効きが快適なノーマルモードを選ぶと、セダンのようなスポーティーで静かな走りを見せる。スポーツモードに設定すると、パワフルで独特なノイズを伴ったコーナリングを楽しむことができるが、同クラスの中ではまだ控えめな方だろう。だが、スポーツプラスモードを選ぶと痛みを伴うほどの素早くダイレクトなシフトチェンジを味わうことができる。さらにフロントスポイラーとリアウイングにより最大のダウンフォースが確保され、高速が維持される。この走行モードは、どちらかと言えばサーキットコース向けと言えるだろう。

 ポルシェデザインのクロノグラフも操作が簡単だ。扱いやすい大きなリュウズは、容易にねじ込んだり引き出したりできる。カムを採用する多くのクロノグラフモデルがそうであるように、プッシャーの操作には少し力がいる。だが、プッシャーの大きさが十分なので力が必要なことをあまり感じさせない。ケース同様、チタン製のダブルフォールディングバックルにはセーフティーボタンがふたつあり、あまり強く押さなくても開き、かつしっかりと留まり、さらにピンで長さを簡単に調整できる。特に便利なのは、ラグの間のストラップの裏側にあるクイックチェンジシステムである。コンフィギュレーターではレザーストラップまたはチタンブレスレットを追加で注文することもできる。今回のテストウォッチには、ブラックカラーのブレスレットと、ボルドーカラーのステッチが入ったブラックのストラップを追加注文した。ストラップのクイックチェンジシステムを使用すると、911ターボSの走行モードをロータリースイッチで素早く切り替える時と同じ感覚で、時計をスポーティーからエレガントへと素早く変身させることができる。そのため、日中のドライブだけでなく、ホテルのレストランでディナーを取る際にも使うことができる。

ポルシェデザイン カスタム・ビルド タイムピース

ボルドーカラーのレザーはクロノグラフと911のインテリアに高級感を与える。

カスタマイズの対価

 南チロルで楽しい時を過ごし、郷土料理に舌鼓を打つのは素晴らしい。ただし、それなりの対価が必要だ。これは、車や時計にも当てはまる。今回のテスト車は、ブルメスター社製のサラウンドサウンドシステムやナイトビジョンアシスタントなどのオプションを付けたことで、総額が3000万円を優に超えた。ベースの価格は2892万円である。高額に感じるが、これほどのスーパースポーツカーにはふさわしい価格だろう。控えめな外観は好みが分かれるところであり、多くの人々にとって、911ターボSの半額以下で入手できる、出力が265PS低い通常の911カレラとの違いは、ほぼ理解不能だろう。この点、フェラーリ「448」またはランボルギーニ「ウラカン」との違いの方が分かりやすい。これらのモデルは同じような価格帯だが、いずれも0-100km/h加速は911ターボSには及ばず、また911ターボSカブリオレとの比較だとしてもデイリーユース向けとは言えない。

 さて、実際にクロノグラフはどのようにカスタマイズできるのだろうか。コンフィギュレーターでは、基本スペックが4950ユーロ(日本では導入予定ながら具体的な時期は未定)から始まり、911と同じようにオプションを追加することができる。今回のテストウォッチには、ボルドーカラーの文字盤リングと同色のレザーストラップにそれぞれ250ユーロ、中心にロックの付いた911ターボSのリムと同形のスタイリッシュなローターで1700ユーロ、カラフルなポルシェのロゴに200ユーロがオプションで追加され、総額7350ユーロになった。だが、この価格を支払えば、ブライトリングのナビタイマーやゼニスのエル・プリメロとほぼ同等の価格でパーソナライズされたクロノグラフを入手可能だ。しかも、ポルシェデザインのコンセプトは唯一無二で、身に着ける喜びを感じることができる。クロノグラフを自由にカスタマイズし、世界にひとつしかない時計を所有できるという事実は、贅沢以外の何ものでもなく、今日のニーズを見事に満たすだろう。

 もし、ポルシェ911を購入するなら、それに合わせてカスタマイズしたクロノグラフを所有できるという独創的なチャンスを大いに活用すべきではないだろうか。手首に〝911〞を着けていれば、山道やアウトバーンを走る時に楽しめるだけでなく、ホテルやレストランでも常に愛車に思いを馳せることができるのだから。

ポルシェデザイン カスタム・ビルド タイムピース

「カスタム・ビルド タイムピース」は「クロノタイマー」をベースに、ムーブメントをETA7750からCal.01.200に変更した上でカスタマイズされる。写真は「クロノタイマー ディープ・ブルー」。自動巻き(Cal.ETA7750)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ti(直径42mm、厚さ14.62mm)。10気圧防水。62万円。


Contact info: ノーブル スタイリング Tel.03-6277-1604


ポルシェデザインが新たな試みを発表。時計のパーソナライズサービス「カスタムビルド・タイムピース」プログラム

https://www.webchronos.net/features/49829/
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