ドゥ・ベトゥーン「Kind of Blue」/時計にまつわるお名前事典

FEATURE時計にまつわるお名前事典
2021.03.08

どんなものにも名前があり、名前にはどれも意味や名付けられた理由がある。では、有名なあの時計のあの名前には、どんな由来があるのだろうか? このコラムでは、時計にまつわる名前の秘密を探り、その逸話とともに紹介する。
第22回は、その意匠もモデル名も独創性を極めるドゥ・ベトゥーン「Kind of Blue」の名前の由来をひもとく。

福田 豊:取材・文 Text by Yutaka Fukuda
前田和尚、ドゥ・ベトゥーン:写真 Photographs by Kazunao Maeda, De Bethune
(2021年3月8日掲載記事)

ドゥ・ベトゥーン「Kind of Blue」

 チタン製のアームにホワイトゴールド製の重りを装備したテンプや、球体の月により満ち欠けを表すムーンフェイズなど、革新的な機構で時計通たちを唸らせている、ドゥ・ベトゥーン。だが生産本数の少なさから、その存在はまだ広くは知られていないようだ。

 ドゥ・ベトゥーンが誕生したのは2002年。時計の世界的権威であり、有名コレクターのコンサルタントとしても活躍していたデヴィッド・ザネッタと、当時すでに100以上の時計の設計と製造に携わってきた時計師のデニス・フラジョレのふたりによってスイス・ヴォー州に位置するジュラ山脈の牧草地、ローベルソンで設立された。

DB28 Kind of Blue 天の川

DB28 Kind of Blue 天の川
青焼きしたブルーチタンや球体ムーンフェイズなど、ドゥ・ベトゥーンらしさを搭載した同ブランドを代表する「DB28」の限定モデル「DB28 Kind of Blue 天の川」。モデル名の通り、文字盤側の受けに施された24Kゴールドの天の川がブルーチタンに映える。6時位置から見えるテンプは、ブルーチタン製のテンワにホワイトゴールド製の調整用重りを備える。また、シリコン製ガンギ車を採用。なお、パラジウムとブルースティール製の球体ムーンフェイズは122年に1日(太陰日)の誤差という高精度を誇る。手巻き(Cal.DB2115V4)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約144時間(約6日間)。Tiケース(直径42.6mm、厚さ9.3mm)。3気圧防水。世界限定10本。1656万円(税別)。

 ドゥ・ベトゥーンの作風は、あえて言うなら、すべてが際立っている。先に挙げた革新的機構を備えた自社開発ムーブメントはその筆頭。外装面でもバネで支えた可動式の「フローティングラグ」など斬新な発想や機構を見ることができる。ケースやダイアル、針など随所のデザインも独創的。素材使いも斬新で、仕上げの手法も独特。わけてもチタンを青焼きしたブルーは、ドゥ・ベトゥーンのアイコンにもなっている、ひときわ目を引く一大特徴だ。

 そしてもうひとつ、ドゥ・ベトゥーンの際立っているのが、モデル名である。基本のモデル名は「DB21」「DB25」「DB27」「DB28」「DB29」などと素っ気ない。しかし、その中のいくつかに付けられた「Kind of Blue」「Steel Wheels」といった、分かる者には分かるネーミングが、好事家の心をくすぐるのだ。

 ただし、そうしたネーミングは最初からのものではない。始まったのは2016年ごろからで、つまり2011年に時計誌の発行やGPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)の主催などをしていたピエール・ジャックがデヴィッド・ザネッタに代わってCEOに就任して以降のこと。だからどうやら始めたのは、ドゥ・ベトゥーンの新たなキーパーソンとなったピエール・ジャックのようなのだ。

 そして筆者は以前、ピエール・ジャックに、そうしたモデル名の由来を聞いているのである。

「DB28 Kind of Blue」の初出は2016年。先に挙げた青焼きしたブルーチタンをケースに用いた最初のモデルで、そのブルーの色をマイルス・デイヴィスの1959年の名盤『Kind Of Blue』のイメージに重ねたのだという。

「DB28 Steel Wheels」は2018年。これはザ・ローリング・ストーンズの1989年のアルバム『Steel Wheels』から取られた。『Steel Wheels』は長くライブ活動を休止していたストーンズが8年ぶりにワールドツアーを行うきっかけになったアルバムだ。ちなみに、このワールドツアーでストーンズは1990年に遂に初来日を果たし、そういう意味で同アルバムは日本のロックファンにとって特別なものとなっている。ピエール・ジャックは2018年のこの当時、しばらく休養し、最前線から離れていたそうで、その復帰作となるこのモデルにストーンズのライブ活動復帰となったアルバム名を付けたのだそうだ。

B28 Steel Wheels サファイア トゥールビヨン

B28 Steel Wheels サファイア トゥールビヨン
6時位置にチタン製の超軽量30秒トゥールビヨンを配した「B28 Steel Wheels サファイア トゥールビヨン」。文字盤から見えるふたつの香箱の受けと香箱車にブルーサファイアクリスタルを採用する。トゥールビヨンブリッジはミラーポリッシュされたグレード5のチタン製。時分針と文字盤外周のアワーリング、球形のアワーマーカーもチタン製。裏側にパワーリザーブ表示を備える。手巻き(Cal.DB2019V5)。39石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約120時間(約5日間)。Tiケース(直径43mm、厚さ9.8mm)。3気圧防水。世界限定10本。2808万円(税別)。

 また、2018年には「DB25 Starry Varius」というモデルも登場。これは直訳すれば「いろいろな星々」となり、そのとおりにダイアルに天の川が描かれているのだが(「MILKY WAY」というモデルもある)、実は「ストラディバリウス=Stradivaruis」とかけた言葉遊びでもあるのだという。

 2019年の「DB28GS Grand Bleu」は初のダイバーズモデルであり、フリーダイビングのダイバーを描いた映画『グラン・ブルー』が由来。同じ2019年の「DB28 Yellow Tones」は黄色に焼いたチタンケースをアメリカのイエローストーン国立公園の名前にかけている。

DB28 Yellow Tones

DB28 Yellow Tones
6時位置に球体ムーンフェイズを配し、その上でテンプを見せる「DB28」のイエローチタンモデル。グレード5のチタンに独自のノウハウで熱を加えることで温かみのあるイエローの発色を可能とし、ポリッシュ仕上げを施したケースを採用する。球体ムーンフェイズはパラジウムと熱処理でブラウンに発色したスティール製。また、ドゥ・ベトゥーンの大きな特徴であるバネで支えられたV字状のフローティングラグが優れた装着感をもたらす。手巻き(Cal.DB2115V4)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約144時間(約6日間)。Tiケース(直径42.6mm、厚さ9.3mm)。3気圧防水。世界限定25本。1368万円(税別)。

 というように、ドゥ・ベトゥーンのモデル名には洒落さや遊び心が充ち満ちている。そしてそうした引用や言葉遊びは、スタッフ皆で楽しみながらやっているのだという。なんだか本当に楽しそうで、参加したくなってしまう。

 だから、つい口を挟みたくなるのだけれど、2019年に「DB28 Kind of Gold」というモデルがあり、これはおそらく「Kind of Blue」のもじりなのだろうが、ぜひニール・ヤングの名曲「Heart Of Gold」にしてほしかった。と、ロック好きとしては思うのだけれど、どうだろうか。

 さて、「ドゥ・ベトゥーン」というブランド名は、脱進機の開発などで名を馳せた18世紀のフランス人時計師のシェバリエ・ドゥ・ベトゥーンの名が由来とされているようだ。だが筆者の所有する2008年の国内向けプレスリリースには「フランスのベトゥーン村に住み、脱進機の開発などで名を馳せたSULLY侯爵が与えられた『ベトゥーンの騎士(DE BETHUNE)』という称号に由来」と書かれている。

 果たして、どちらが正しいのか? 今度、ピエール・ジャックに会う機会があったら聞いてみたいと思う。

Contact info: サイプレストレーディング Tel.06-6459-4140


福田 豊/ふくだ・ゆたか
ライター、編集者。『LEON』『MADURO』などで男のライフスタイル全般について執筆。webマガジン『FORZA STYLE』にて時計連載や動画出演など多数。


ドゥ・ベトゥーン「DB28 Kind of Blue 天の川」紺青の空に浮かぶ立体ムーンフェイズと燦然たる銀河

https://www.webchronos.net/features/59339
【2021年 新作】ドゥ・べトゥーン ふたつの文字盤を持つ「DB Kind of Two Tourbillon」

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ピアジェ「アルティプラノ」/時計にまつわるお名前事典

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