編集部の勝手に討論会〜A.ランゲ&ゾーネの懐の深さを示す「サクソニア・ムーンフェイズ」〜

FEATUREインプレッション
2021.04.05

『クロノス日本版』編集長の広田雅将と副編集長の鈴木幸也、ほそやんこと細田雄人の3人が、話題のモデルのインプレッションを語り合う鼎談連載。第6回は、A.ランゲ&ゾーネ「サクソニア・ムーンフェイズ」を好き勝手に論評する。

サクソニア・ムーンフェイズ

A.ランゲ&ゾーネ「サクソニア・ムーンフェイズ」
サクソニア・ファミリーに2016年にラインナップされたアウトサイズデイト付きムーンフェイズモデル。ごくシンプルなデザインと機構で、ファミリーの中では実用的なポジションを担いながら、ムーンフェイズが華やぎも添える1本。自動巻き(Cal.L086.5)。40石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWGケース(直径40.0mm、厚さ9.8mm)。日常生活防水。379万5000円(税込み)。
吉江正倫:写真
Photographs by Masanori Yoshie
阿形美子:文
Text by Yoshiko Agata
2021年4月5日公開記事


視認性と高級感を両立させた黒文字盤

細田「これは、前回のランゲ1・タイムゾーンに比べると軽くて、自動巻きだけど薄くて、ホント毎日着けられる時計ですよね。それと、想像以上に視認性が高い。インデックスも針もポリッシュで、文字盤も完全にマットではないから光が当たると反射しちゃうかなと思ったけど、全然そんなことはなくて。これはどうしてなんでしょう?」

広田「A.ランゲ&ゾーネは、黒文字盤の処理がうまいですよね〜。これはシルバー無垢の地板にメッキをかけて、下地には少しマットを引いてる。その上からつや消しの塗装で、ほんの少しザラッとさせてるのかな」

サクソニア・ムーンフェイズ

下地にマット処理を施すことで、つやがありながらも反射しにくい黒文字盤に。接近すると、ザラっとした処理が見える。

鈴木「光が当たった時にインデックスはキラッとするけど、文字盤は光りすぎないから埋もれない。黒って簡単に手を出しがちだけど、実は難しい。ツヤツヤに仕上げると反射しすぎるから」

細田「でも、マットにしすぎると高級感がなくなる……」

広田「そのさじ加減が難しい。A.ランゲ&ゾーネの黒文字盤の処理って、実はIWCのフリーガーとかに近い。IWCはペイントだけど」

鈴木「ミリタリー経験のあるブランドは、黒文字盤がうまい。でも、現在のA.ランゲ&ゾーネはその背景を持ってないのにスゴいよね。この文字盤は、パルミジャーニ・フルリエの傘下のカドランス・エ・アビヤージュ製?」

広田「そう!」

鈴木「この視認性への気配りのおかげで、ストレスなく使えるよね」

サクソニア・ムーンフェイズ

ムーンフェイズディスクには852個の星々がちりばめられ、ホワイトゴールド製の月も磨き抜かれている。

細田「それから皆さん、ムーンフェイズはどうですか? このムーンフェイズは122.6年調整のいらない高精度のものですが」

広田「これ確か、ディスクの下処理はPVDだよね? 展示会で見ると青が明るすぎると思っていたけど、手元で使ってみたら意外と落ち着いてるじゃん、って思った」

鈴木「A.ランゲ&ゾーネは、昔からムーンフェイズに力を入れてますよね。以前、本誌でA.ランゲ&ゾーネのムーンフェイズだけを並べるっていう企画もしたくらい。バリエーションが豊富で、星の描き込みもすごく細かくて。ムーンフェイズって基本的にお飾り要素が強いけど、改めてこれは綺麗だなって思いました。女性からもA.ランゲ&ゾーネのムーンフェイズは綺麗ってよく聞きます」

広田「これだけ綺麗だと、気分アガりますよね。素材は……ディスクも月もゴールド製ですね」

細田「ビッカビカに磨きすぎてムーンに針の裏の筋目の処理が映るほど(笑)」

鈴木「いやー、スゴイよね。しかも映り込みが全然歪んでなくて、気合いを感じるよね」


デスクワークにも向く、高い巻き上げ性能

細田「では実用時計として見た場合、耐衝撃性とかパワーリザーブはどう思いますか?」

鈴木「パワーリザーブはちゃんと約72時間あるし、ケースは直径40mm、厚さ9.8mmでサイズ感はバッチリだよね」

広田「お得意のシャトンを使ってないことに昔は文句を言ったけど、今では薄く作るためにはアリじゃないかって思う。あと片巻き上げだからデスクワークでも十分巻けて、すげー楽! 2019年に発売されたランゲマティック・パーペチュアル・ハニーゴールドには、ジャガー・ルクルトのCal.889から転用したスイッチングロッカーを採用していたけど、あれはデスクワークには向かないんだよね。全然巻かない!」

細田「巻き上げ方式もそうですし、ローターそのものも22金素材に外周をプラチナにして、よく回るようにしてるんですよね」

広田「そう。あえてシャトンを入れなかったのはローターの高さを詰めるためか、ローターに引っかかるのを防ぐためだと思う。シャトンは少し飛び出してるから」

鈴木「A.ランゲ&ゾーネっていうと、どうしても4分の3プレートやシャトンが欲しいって思っちゃうけど、これはそもそも自動巻きだから無くてもね。その分高さを詰めてもらって実用性を上げてもらった方がうれしいから、これ潔いよ」

広田「片巻き上げだから空回りでグルングルンするかと思ったら、そこまででもないし」

細田「でも僕、空回りの音はちょっと気になりましたね」

広田「でも、ETA7750に比べたら、はるかにましっすよ(笑)」

鈴木「まぁ、これは個人の感覚に寄るところだから、ローター音が気になるなら手巻きにすればいいし」

広田「ケースを厚くすればうるさくなくなるけど、このケース厚にしては、音をよく抑えられていると思う」

サクソニア・ムーンフェイズ

針・インデックスともにポリッシュ仕上げで視認性は良好。インデックスにかぶる長さの針でありながら、針ブレも抑えた。

広田「それから僕が驚いたのは、針合わせの感触。針が長いのに素晴らしく良かった。びっくりした。一般的に、針を長くすると針合わせの時にブレるんだけど、これは“ビャイン”って針が収まる。A.ランゲ&ゾーネは概して感触が良いけど、これは特に滑らかだね」

細田「言われてみればそうですね。針の長さもインデックスに届くほどだし」

広田「ムーブメントのレイアウトも、2番車を中心に、4番車を6時位置に置くっていう標準的なものだから、素性も申し分ない」

鈴木「設計に無理がないですよね。見たまんまシンプル」

細田「デザイン面でも、カレンダーとムーンフェイズとのバランスが良いし」

鈴木「シンメトリーで気持ちいいよね。サクソニアって良い時計なのに、なぜか過小評価されてる気がする」