次なる理想の幕開け「ザ・シチズン」

FEATURE本誌記事
2021.06.04
PR:CITIZEN

2021年に発表されたザ・シチズンのキャリバー0200は、シチズンの考える時計の本質を盛り込んだ大作だ。良い機械式時計を作りたいという設計者たちの思いは、やがて時間精度と審美性というカタチになった。フリースプラングテンプに、スイス公式クロノメーター検定協会「C.O.S.C.」の基準を超える高い精度、そしてシチズンらしい立体的な造形。これは、次なる腕時計の理想に挑む、新しいザ・シチズンを象徴するモデルである。

ザ・シチズン メカニカルモデル キャリバー0200

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2021年7月号 掲載記事]


シチズンの最高技術を結集した Caliber 0200が創出する新価値

ザ・シチズン メカニカルモデル キャリバー0200

「ザ・シチズン メカニカルモデル キャリバー0200」のレギュラー版には2種類の文字盤がある。右上はサンレイパターンの上にラッカーを吹き付けたブルーダイアル。左上は電鋳仕上げのブラックダイアルだ。文字盤の12時位置には、ザ・シチズンのシンボルマークである「イーグルマーク」が追加された。これは先見性の象徴であり、古来から人間とパートナーシップを築いてきた鷲は、ザ・シチズンの向かう方向性を示している。

 シチズンが、スイスのプロサーホールディングを買収したのは2012年のこと。ムーブメントメーカーのラ・ジュー・ペレ社を傘下に持つ同社を加えることで、シチズンは機械式時計の分野に再進出を果たした。しかしシチズンは、それ以前から機械式時計の開発を続けていたのだ。定番の自動巻き82系に加え、10年には薄型ムーブメントとして新規開発された90系と、ザ・シチズン向けの兄弟機である09系をラインナップに加えた。残念ながら09系を載せたザ・シチズンは生産中止となったが、シチズンはそれを置き換えるモデルの開発を進めていた。満を持してお披露目されたのが、21年の「ザ・シチズン メカニカルモデル キャリバー0200」である。

ザ・シチズン メカニカルモデル キャリバー0200

本作の大きな特徴が、平滑な面と切り立った稜線の両立だ。右下の写真が示す通り、エッジはギリギリまで立てられている。左下は搭載する自動巻きのキャリバー0200。10.9mmというケース厚を実現するため、ムーブメントは裏蓋スレスレに固定されている。薄いケースに加え、ブレスレットと時計本体の良好な重量バランス、そしてブレスレットの内側に施された湾曲が、優れた装着感をもたらす。

 キャリバー0200は、今までのザ・シチズンとはまったく異なるデザインに特徴がある。いわゆる〝ラグジュアリースポーツウォッチ〞に見えるが、そのデザインは、かつてのシチズン製腕時計に触発されたもの。また、ケースに施された歪みのない面と、完全に切り立った稜線の両立は、今までの日本製腕時計には珍しいものだ。一見シンプルだが、非常にコストのかかった造形である。

 シチズンが、まったく違うデザインを与えた理由は、搭載する自動巻きムーブメントにある。新規開発されたキャリバー0200は、フリースプラングテンプに加えて、スイス公式クロノメーター検定協会「C.O.S.C.」の基準を上回る高精度機だ。ムーブメントの仕上げも同価格帯のスイス製腕時計を超えている。

土屋建治

キャリバー0200プロジェクトに携わった土屋建治氏。彼は2007年に始まったシチズン90系と09系の開発プロジェクトにおいて、高精度化の分野を担当した。その後、土屋氏はシチズン傘下となったスイスのラ・ジュー・ペレ社に派遣され、後にシチズンに戻ってきた。

中川太郎

インタビュー中の筆者と、キャリバー0200の設計を担った中川太郎氏。中川氏は、土屋氏と入れ替わるかたちでラ・ジュー・ペレ社に駐在した。彼らふたりの経験が、キャリバー0200にラ・ジュー・ペレ社の地板と受けを採用するというアイデアに結び付いた。

 キャリバー0200は手堅い構成を持つ。6時位置にスモールセコンドを置くベーシックな輪列で、自動巻きも90系や09系に同じ、シンプルな片方向巻き上げ式だ。ムーブメントのサイズも昔の自動巻き並みに大きく厚い。構成だけを見れば、1950年代の自動巻きのようなキャリバー0200。しかし〝攻めた〞設計を盛り込むことで、第一級の性能を持つ自動巻きムーブメントとなった。

 設計をまとめたのはシチズン時計の中川太郎氏と土屋建治氏。「0200では機械式時計らしさを強調したかった」とそのコンセプトを語る。あえて日付表示を省き、スモールセコンドにしたのは、クォーツ時計との違いを強調するためだ。

中川太郎

左は現在ラ・ジュー・ペレ社に駐在する中川太郎氏。彼は野心的なフリースプラングだけでなく、新しい耐震装置「ランブロック」を完成させた。右はラ・ジュー・ペレ社において地板にペルラージュ装飾を入れる様子。ラ・ジュー・ペレ社は名だたる高級時計メーカーを顧客に持つ。開発課題に審美性を掲げたシチズンは同社に仕上げを含む地板と受けの製造を委託。完成した部品は日本国内で組み立てられる。

 キャリバー0200の開発が正式にスタートする以前から、シチズンは精度を高める基礎研究を続けていた。そうしたテンプや脱進機に対する取り組みが、キャリバー0200の新しいフリースプラングテンプを生み出したのだ。緩急針を持たないこの精度調整装置は、長期間精度を維持しやすい上、衝撃にも強い。そのため、スイスの高級時計には不可欠な機構になりつつある。

 しかし、長年機械式時計から距離を置いてきたように見えるシチズンが、いきなりフリースプラングテンプを搭載するとは予想外だった。ラ・ジュー・ペレ社製と思いきや、シチズン製という。土屋氏は「特に品質面において自社で生産できる体制が整ったからフリースプラングテンプの採用に踏み切れた」と説明する。キャリバー0200のテンプはフリースプラングに加えて、同社の2万8800振動/時のムーブメントとしては最大級の慣性モーメントを持つ。そのため理論上だけでなく、実際の携帯精度も優れているだろう。同様に、脱進機や歯車も完全にシチズン製である。「従来からシチズンには高精度部品加工技術が蓄積されており、キャリバー0200の部品製造にもそれがいかんなく発揮されている」と土屋氏は語る。

キャリバー0200

キャリバー0200
シチズンが11年ぶりに発表した機械式ムーブメントがキャリバー0200である。6時位置のスモールセコンドや片方向自動巻きといった構成は極めて古典的。しかし、フリースプラングテンプや、ベアリング保持のローター、実用的なパワーリザーブといった最新の機構を搭載する。精度もC.O.S.C.認定クロノメーター以上だ。自動巻き(直径29.1mm、厚さ5.0mm)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。静態時の平均日差-3秒~+5秒。

 中川氏は、キャリバー0200をセンターセコンドにすべきか迷ったと語る。「4番車をセンターに置かないスモールセコンドにすれば、設計はシンプルになるし、生産性も上がる。また歯型のモジュール(歯の大きさ)と歯車の厚みを増すことで加工精度も改善できるため、時計の精度も良くなる」

キャリバー0200

審美性への配慮を示すのが、自社製のネジである。ネジの頭部は超高級品並みの厚さを持つ。ネジ頭の上面を鏡面に仕上げるだけでなく、ドライバーを差し込む工具穴には、角を斜めに加工する「すりわり」が施された。これも、超高級時計のみに見られる細部の特徴のひとつだ。
キャリバー0200

Cal.0200のテンプや歯車はすべてシチズン製。6時位置にスモールセコンドを置くという古典的なレイアウトを採用することで、時計を駆動する歯の大きさは、90系と比べて最大1.5倍以上になった。結果、歯型の加工精度も向上している。歯車上面に筋目仕上げを施したのも高級機らしい。
キャリバー0200

Cal.0200の脱進機は標準的なクラブツース型。しかし、ガンギ車の素材にはニッケル系を使用。部品精度向上のためにLIGAプロセスを採用するからだ。またガンギ車を、メッキの一種であるLIGAで成形することにより、切削よりも精密な形状を得た。これも効率の改善に寄与する。
キャリバー0200

Cal.0200に高精度をもたらした一因が、緩急針を持たないフリースプラングテンプである。テンワのアミダに取り付けられた4つの錘を回すことで時計の遅れ進みを調整する。機械式時計に対する取り組みは、高級時計の象徴とも言えるフリースプラングテンプの量産を可能にした。

 その姿勢を示すのが、新しい精度検定だ。一般的なC.O.S.C. 認定クロノメーターは、ムーブメント単体で精度を測る。その内容は3温度、5姿勢で15日間の検定だ。対してキャリバー0200は、ムーブメントをケースに収めた状態で、3温度、6姿勢、17日間のチェックを受ける。一般的にムーブメントをケースに収めることにより、精度はわずかに変わることがある。そこでシチズンは、より実際に近い、ケーシングした状態で精度を測ることに決めた。「0200は精度が出ることが分かったので、ケースに入れた状態で精度を測ろうとなった」と土屋氏は語る。静態時の平均日差はマイナス3〜プラス5秒と、C.O.S.C. 認定クロノメーターよりも厳格だ。

キャリバー0200

実用性と審美性を両立させたCal.0200。その象徴がヒゲ持ちを固定するプレートだ。ヒゲ持ちの外周を押さえることで、衝撃を受けてもヒゲ持ちは動きにくくなる。さらに、プレートを長くすることで、高級品らしい見た目となった。テンプの中心に見えるのは、新しい耐震装置のランブロックである。

 キャリバー0200は美観に対する配慮も際立っている。地板と受けはスイスのラ・ジュー・ペレ社製。専用の治具を使って、上面にヘアラインを施したのは、シチズン初の試みだ。また、ダイヤカット仕上げの面取りも、日本製のムーブメントとしては例外的にかなり深い。地板全面にペルラージュ装飾を施しているのも、この価格帯では珍しい。

キャリバー0200

地板と受けの製造は、シチズン傘下のラ・ジュー・ペレ社が行っている。高級ムーブメントの製造で長い経験を持つ同社だけあって、仕上げは非常に優秀だ。地板に施されたペルラージュ装飾は細かく、穴石もスイスの高級機並みに大きい。「ラ・ジュー・ペレ社の持つ仕上げのバリエーションは広く、彼らの技量により、シチズンムーブメントの美観をより高めることができたのです」(土屋氏)。

 面白いのは、天真に加えられた新しい耐震装置「ランブロック」だ。長年シチズンはパラショックという耐震装置を使ってきた。対して「何か新しいものを加えたかった」中川氏は、キャリバー0200に新しい耐震装置を与えた。ショックを受けた際の耐衝撃性や復元性は、今までのパラショックにほぼ同じだが、デザイン上、テンプが大きく見えるという利点がある。併せて、テンプの受けにはヒゲ持ちを支えるスティール製のプレートが追加された。これはヒゲ持ちを強固に支えるだけでなく、見た目のアクセントにもなっている。

 シチズンが満を持してリリースしたザ・シチズン メカニカルモデル キャリバー0200。無理のない設計と巧みなパッケージング、そして随所に盛り込まれた新機構は、久々の機械式腕時計とは思えないほどの完成度を誇っている。このモデルが指し示すのは、日本製高級腕時計の、新しい理想なのである。

ザ・シチズン メカニカルモデル キャリバー0200

ザ・シチズン メカニカルモデル キャリバー0200 NC0200-81L/NC0200-90E
シチズンの考える腕時計の理想形。実用的なサイズに、堅牢で高精度な新規設計の自動巻きムーブメントを搭載する。あえて片方向巻き上げ式を採用することで、理論上、さまざまな条件でも主ゼンマイが巻き上がりやすい。薄型にもかかわらず、立体的な造形と切り立ったエッジを持つ。自動巻き(Cal.0200)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径40mm、厚さ10.9mm)。5気圧防水。静態時の平均日差-3秒~+5秒。各予価60万5000円(税込み)。2021年8月発売予定。「シチズンオーナーズクラブ」への登録により5年間無償保証・無償点検でサポート。