フリーエディター竹石祐三が実際に触れた、2021年発表のミドルレンジの時計ベスト5

FEATUREその他
2022.01.01

日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、2021年発表時計からベスト5を選んでもらうこの企画。
モノ系情報誌出身のフリーエディター&ライターの竹石祐三が、2021年を真っ当に振り返り、実際に触れた数多くの良質なミドルレンジウォッチの中から、これは!と絞り込んだ2021年発表時計ベスト5を語る。


ベル&ロス「BR V2-94 フル ラム」

 ベースモデルは共通にしつつも、毎年、モデルごとの印象を大きく変えてくるブルーノ・ベラミッシュの手腕には感心させられっぱなしなのだが、2021年にとりわけインパクトの強かったモデルがこれ。グリーンとブルーのスーパールミノバ C5、ペールイエローのC3をダイアルのディテールごとに塗り分け、平時におけるライムグリーンの爽快な表情もさることながら、暗所でのみ確認できる蓄光塗料のコントラストがなんともキュート。用もないのに暗い場所に篭りたくなるルミノバ使いがたまらない。

BR V2-94 フル ラム

ベル&ロス「BR V2-94 フル ラム」
自動巻き(BR-Cal.301)。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径41mm)。100m防水。世界限定250本。59万4000円(税込み)。(問)ベル&ロス Tel.03-5977-7759


ティソ「ティソ シースター 2000 プロフェッショナル」

 600m防水とかヘリウムエスケープバルブなんて日常生活には不要と分かりつつも、こうしたプロユースの腕時計に魅了されてしまうのは、やはりツール好きのオッサンだからなのか。しかもこのモデルは、パワーマティック80も搭載してアンダー15万円というプライスを実現しているのだから恐れ入る。もっとも、いちばん引かれたのはウルトラマリンブルーのダイアルで、鮮やかな色合いと波模様の組み合わせはダイバーズウォッチにふさわしい一方で、16.25mmのケース厚に耐えてでも日常使いしたくなる。

ティソ シースター 2000 プロフェッショナル

ティソ「ティソ シースター 2000 プロフェッショナル」
自動巻き(Cal.Powermatic 80.111)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径46mm、厚さ16.25mm)。600m防水。12万8700円(税込み)。(問)ティソ Tel.03-6427-0366


セイコー プロスペックス「スピードタイマー メカニカルクロノグラフ リミテッドエディション」SBEC007

 復刻モデルにはあまり驚かなくなったが、このモデルは見た瞬間に声を上げてしまったほど。1964年のスポーツ競技大会で使われたストップウォッチの面影を残しつつ、タキメーターなどの要素を付加し、クロノグラフ“ウォッチ”らしいルックスにリエディット。艶のあるピュアホワイトのダイアルとブラックのツートーンはクールだし、ケースやプッシュボタンの造形もセイコーらしい丁寧な仕上がり。オリジナルのストップウォッチを知らない自分にも魅力的に映ったデザインだ。

スピードタイマー メカニカルクロノグラフ リミテッドエディション

セイコー プロスペックス「スピードタイマー メカニカルクロノグラフ リミテッドエディション」SBEC007
自動巻き(Cal.8R46)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。 SSケース(直径42.5mm、厚さ15.1mm)。10気圧防水。世界限定1000本。35万2000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012


ハミルトン「イントラマティック クロノグラフH」

「イントラマティック オートクロノ」でデザインだけは復刻していた1968年発表の「クロノグラフ B」が、手巻きムーブメントを搭載して、よりオリジナルに忠実となったことに喜び、手巻きクロノグラフがこの価格で発売されたことに二度喜んだ。しかも、ムーブメントは約60時間のパワーリザーブを実現しているというから十分に実用的。「復刻モデルには驚かない」と書いておきながら、ハミルトンのそれには毎回心躍ってしまうのはやはり、復刻のデザイン精度と実用性、そして価格バランスがいいからだろう。

イントラマティック クロノグラフH

ハミルトン「イントラマティック クロノグラフ H」
手巻き(Cal.H-51)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径40mm、厚さ14.35mm)。100m防水。26万5100円(税込み)。(問)ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン Tel.03-6254-7371


G-SHOCK「GMW-B5000TR」

 初代G-SHOCKのデザインをベースに、外装にステンレススティールを用いた「GMW-B5000D」が登場して以来、フルメタル「5000シリーズ」の表現は発展を続け、2021年はマルチカラーIPを施した「GMW-B5000TR」が登場した。しかも、外装素材は日本製鉄との共同開発による高硬度チタン合金TranTixxii(トランティクシー)で、その軽快な着け心地と鮮やかな発色は「さすがG-SHOCK!」と快哉を叫んでしまったほど。特に外装がどんな進化を遂げていくのか、2022年以降も注視していきたいブランドのひとつ。

GMW-B5000TR

G-SHOCK「GMW-B5000TR」
タフソーラー。マルチカラーIP+Tiケース(縦49.3×横43.2mm、厚さ13mm)。20気圧防水。19万2500円(税込み)。(問)カシオ計算機お客様相談室 Tel.03-5334-4869


竹石祐三のコメント

 いきなり楽屋話をしてしまおう。編集部より「2021年のベスト5を選出してほしいが、少し違った切り口……例えばミドルレンジに絞るとか」という連絡が入ったときにはすぐに5モデルが思い浮かばず、正直、一瞬怯んだ。

 でも確かに、普通にセレクトすると5本中4本は被ってしまうので、自分としてもあまり面白くない。2021年を真っ当に振り返るいい機会だと、改めて、実際に触れたミドルレンジを確認し直してみたのだが、これがハイエンドと同様に良作が多く、なんとか絞り込んだ結果がここに挙げた5モデルだ。

 共通したトピックはないが、強いて言えば、これは数年前から指摘されているように、ミドルレンジでも丁寧な仕上げが目立つようになったこと。さらに付け加えるならば、ハイエンドと並べてもルックス面で目を引くモデルが増えてきたことだろうか。もっとも、ベル&ロスやG-SHOCKはかねてよりアバンギャルドなデザインを展開してきたブランドではあるが、2021年は強いひねりを加えてさらにアクセルを踏み込んできた印象があるし、ティソやセイコー、ハミルトンも、堅実さに加えて十分な独自性が感じられる仕上がり。それでいて“リアル”なプライスを実現しているのだから、改めてこのゾーンをしっかり見直してみるのもいいだろう。

 かつてのように、新作を一堂に俯瞰して見られなくなったことも影響してか(それを言い訳にしている自分もいるのだが)、この2年間はトレンドがつかみにくかったと感じている。ただ一方では、各社の個性がしっかりと表れ、だからこそ2021年は印象に残るモデルが多かったように思う。これはミドルレンジも同様で、とりわけここ数年のG-SHOCKは発想が先鋭化しすぎて次に何を出してくるのか予測不能になっているが、だからこそ面白く、2022年以降はさらに多くのブランドで、こうしたサプライズがあることを期待している。


竹石祐三氏のプロフィール

1973年生まれ。モノ情報誌編集部に在籍中の2011年より時計の記事を担当。2017年に出版社を退社し、現在はフリーランスの立場で時計専門メディアやライフスタイル誌を中心に編集・執筆を行う。


2021年 G-SHOCKの新作時計まとめ

https://www.webchronos.net/features/63672/
2021年 セイコーの新作時計まとめ

https://www.webchronos.net/features/63203/
世界屈指の影響力を持つ時計ジャーナリスト、ギズベルト・L・ブルーナーが選び抜いた2021年発表の時計ベスト5

https://www.webchronos.net/features/74023