伝説の「44GS」の正統なる後継者、グランドセイコー「SBGJ203」を着用して感じたこと

FEATUREその他
2021.12.28

グランドセイコー「ヘリテージコレクション SBGJ203」を着用し、感じたことを記載していく。このモデルは、10振動(3万6000振動/時)のハイビートムーブメントを搭載するGMTウォッチであり、そのケース形状は「44GS」で確立されたセイコースタイルを忠実に受け継いでいる。日本の伝統と誇り、そして技術力を結集させたこのモデルを簡単ながらレビューしていきたい。

野島 翼:文・写真
Text and Photographs by Tsubasa Nojima

エレガンスコレクション SBGJ203


日本が世界に誇る高級時計、グランドセイコーをレビュー

 インプレッションに入る前に、まずはこのモデルの特徴を抑えておきたい。機能としては、通常の時分秒の表示の他、24時間副時針による第2時間帯表示と日付表示を備えている。シンプルなデザインのGMTウォッチは、グローバルに活躍するビジネスマンにぴったりである。ケースおよびブレスレットの素材はステンレススティール。歪みない鏡面はザラツ研磨によるものだ。ブレスレットのコマの調整方法は、高級機に多く見られるねじ式。“GS”のロゴが浮き彫りとなったバックルはプッシュボタンを備えた三つ折れ式となっており、素早く確実に脱着することができる。

 本作は、ねじ込み式リュウズを採用することによって、10気圧防水を実現している。ビジネス向きのかっちりとしたデザインの時計は、防水性が高くないものも多いが、さすが国産。高温多湿な日本であっても安心して使用できるのはうれしい。ケースの形状は、1967年に発売され、セイコースタイルを確立したモデルとして有名な「44GS」の特徴を踏襲している。ケースの直径は40mm、厚さは14mmであり、若干厚さはあるものの、多くの人にマッチするサイズ感だ。ブラックダイアルには、雫石高級時計工房から望む岩手山の山肌を表現した、“岩手山パターン”が施されている。

エレガンスコレクション SBGJ203

グランドセイコー「エレガンスコレクション SBGJ203」
GMT機能を有したハイビートのグランドセイコー。そのデザインは、光と影を巧みにデザインに取り込んだセイコースタイルを正統に受け継いでいる。ムーブメントは、ハイビート化にあたって全面的に見直しがされており、高い耐久性を誇る。ダイアルのバランスも優れている。自動巻(Cal.9S86)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SS(直径40mm、厚さ14mm)。10気圧防水。73万7000円(税込み)。


ハイビートの常識を覆す、高耐久性を備えた10振動ムーブメント搭載機

 搭載されるムーブメントはCal.9S86。パワーリザーブは約55時間、10振動(3万6000振動/時)のハイビートである。一般的にハイビートになればなるほど、脱進調速機や輪列に関わるパーツはより高速で動くようになるため、部品が摩耗しやすい。ただしこれはあくまでも、単純に振動数を上げた場合の話である。グランドセイコーは10振動ムーブメントを開発するにあたり、4番車とガンギ車の間にガンギ中間車を配することで4番車の歯を大型化し、耐久性を向上させたほか、主ゼンマイ、ヒゲゼンマイの改良、MEMS技術を用いることによるガンギ車とアンクルの軽量化等、数々の施策を講じた。

Cal.9s86

 これにより、ムーブメントにかかる負担に配慮しつつハイビート化を成功させたのである。そもそも、グランドセイコーのムーブメントは、厚みのある頑強なパーツで構成されており、長年の使用と繰り返し行われるメンテナンスに耐えられる仕様になっている。歯車ひとつとっても高精度に製作されており、摩耗しにくい。実は機械式時計のムーブメントについて、メンテナンスが必要になったら丸ごと交換してしまうというブランドも少なくない。修理に必要な技術者を育成し維持し続けるのは、ブランドにとって大きな負担になるからだ。アフターサービスにも力を入れるグランドセイコーは、次代を担う職人の育成も怠っていないため、将来を見据えて安心して使い続けることができる。


実用機としての作りこみが光る、卓越したデザイン

 まずは実機を眺めてみたい。手に取った第一印象は、“意外とコンパクト”である。決して大型ではない40mm径のケースとはいえ、シンプルなデザインであることを考えると間延びしてしまうのではないかと危惧していたが、実機を見ても全くそのようなことは感じなかった。むしろ、24時間表示のチャプターリングやインデックス、ブランドロゴがバランス良く配置されているためか、程よい凝縮感すら感じるほどであった。ミドルケース自体がサイドに大きく張り出しているため、ダイアル部分の直径が抑えられているからだろう。

 ダイアルに目を移してみる。本作には岩手山パターンという放射状に広がる仕上げが施されているそうだが、室内の明かりではあまりはっきりと捉えることができなかった。目を凝らすと確かに無数の線が見えるが、普段そうまでして見ることは稀だろう。針はグランドセイコーらしく、太くはっきりとしている。

エレガンスコレクション SBGJ203

太い針とインデックスは、僅かな光だけで十分に輝く。グランドセイコーはダイバーズ等一部のモデルを除き、あえてスーパールミノバを使用していないが、それでも完全な暗闇でなければ時刻を読み取ることは難しくない。副時針用の24時間スケールをチャプターリングに配することによって、機能性を高めつつすっきりとしたダイアルに仕上げている。

 時分針は多面カットが施されているため、光量の少ない場所でもはっきりと視認することができる。インデックスも針と同様に多面カットだ。加えて、上面には細かなセレーションが刻まれており、これが僅かな光を反射させ、インデックスに輝きをもたらしている。スーパールミノバを塗布していないのにも関わらず、針やインデックスがブラックダイアルに埋没しないのは見事であり、実用時計としての矜持を感じさせる。さらに、個人的に気に入ったポイントがもうひとつある。センターに副時針を備えたGMTウォッチには、針と針とのクリアランスが大きいものがあるが、本作は実用時計として支障のないレベルで針間が詰められている。このクリアランスが必要以上に大きいと、せっかくビシッと仕上げられた針の緊張感が一気に損なわれてしまう。

 秒針も綺麗に仕上げられており、バリなどは一切見当たらない。10振動による滑らかな動きは、グランドセイコーの持つ精密さにマッチしている。ゆったりとしたロービートは通好みだと言われることもあるが、個人的に本作のピンと張り詰めた空気感に似合うのはハイビートだと思う。秒針の先端は、曲げを入れることによってダイアルとの距離を近づけ、判読性を高めているが、やはりそれでもダイアルとの距離は遠いと感じる。不便というほどではないが、斜めから見た際の判読性は若干落ちる。

 ケースバックはシースルーになっており、ムーブメントを鑑賞することができる。輪列の大半は頑強なブリッジの下に収められているが、そこに施された仕上げはユーザーの目を喜ばせるに違いない。