クストス これからのラグジュアリーを模索する時計界の挑戦者

FEATURE本誌記事
2022.06.06
PR:CVSTOS

2005年創業のクストスは、そもそも技術と新素材を強調した、アウトサイダーなブランドだった。トノー型にもかかわらず100m防水をもたらしたケースの構造は、確かに極めて技術的なものだった。しかし、クストスはその後、技術はそのままに、ライフスタイルを志向するようになったのである。挑戦の末に、独自の個性を獲得したクストス。最新作から、その果敢な歩みをひもときたい。

チャレンジ ジェットライナーⅡ P-S オートマティック、チャレンジ クロノⅢ-S

(左)チャレンジ ジェットライナーⅡ P-S オートマティック
空を想起させるのがチャレンジ ジェットライナーである。6時位置のスモールセコンドは、大型タービンをイメージしたもの。ケース素材には軽いグレード5チタンを使用する。鏡面仕上げのインデックスがク
ストスらしい。自動巻き(Cal.CVS410)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。Ti(縦53.7mm×横41mm)。100m防水。129万8000円(税込み)。
(右)チャレンジ クロノⅢ-S
今のクストスを支えるトリロジーのひとつが、陸をイメージしたチャレンジ クロノだ。トノーケースのクロノグラフにもかかわらず、防水性能は100mもある。ケースはすべてグレード5チタンで構成。大ぶり
だが、装着感は快適だ。自動巻き(Cal.CVS577)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。Ti(縦53.7mm×横44mm)。100m防水。253万円(税込み)。
奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年7月号掲載記事]


独自ブランドとして歩むクストス

チャレンジ シーライナー P-S オートマティック

チャレンジ シーライナー P-S オートマティック
大ヒット作が、ヨットを形にしたチャレンジ シーライナーだ。鮮やかなブルーと18KRGゴールドのコントラストは唯一無二。ケース側面にサファイアクリスタルを埋め込んでいるが、防水性能は他モデルに同じ。自動巻き(Cal.CVS410)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS+スカイブルーPVD×18KRG(縦53.7mm×横41mm)。100m防水。225万5000円(税込み)。

 今や、フランク ミュラー グループから離れ、独自ブランドとして歩むようになったクストス。しかし、2005年の設立当初、同社の存在は「マスター・オブ・コンプリケーション」の陰に隠れて目立たなかった。共同創業者のひとりは、フランク ミュラー グループでCEOを務めるヴァルタン・シルマケスの長男で、かつフランク ミュラーと同じトノーケースを持つとなれば、かつてのクストスが、モダンに仕立て直したフランク ミュラーとみなされたのは当然だった。

 もっとも、共同創業者であるサスーン・シルマケスとチーフデザイナーも兼任するアントニオ・テラノヴァは、フランク ミュラーの影響を受けたわけではなかった。シルマケスは高名な父親の恩恵を受けたことを公言したものの、一貫して「マスターたち」から距離を置こうと試みてきた。事実、かつてウォッチランド内に工房を構えていたクストスは、後にジュネーブ市内に工房とショールームを移転し、別ブランドであることを強調するようになったのである。

 また16年にはフランク ミュラー グループの見本市であるWPHHと袂を分かち、バーゼルワールドに出展を果たした。現在、クストスの主工場に、フランク ミュラー グループの資本は入っていないし、ケースを製造するのも、ウォッチランドではない。

アントニオ・テラノヴァ

サスーン・シルマケスと共同でクストスを興したのが、チーフデザイナーのアントニオ・テラノヴァである。ケースメーカーやタグ・ホイヤーなどで経験を積んだ後、フリーランスのデザイナーとして、著名なメーカー向けに仕事を行った。主にケース畑を歩んだ彼の知見は、類を見ない防水トノーケースとして結実することになる。

 デザイナーのアントニオ・テラノヴァも、キャリアの大半をフランク ミュラーとは無縁のところで過ごしてきた。マイクロエンジニアリングを専攻した彼は、卒業後、ピアジェの傘下にあったケースメーカーのプロドールに就職し、大手メーカー向けにさまざまな設計を行った。同社を離れた彼はタグ・ホイヤーに移籍し、そこで新素材に対するノウハウを得る。退職後、フリーの時計コンサルタントとして働いていた彼は、03年にサスーン・シルマケスと出会い、彼の個人的なプロジェクトに参画するようになった。ケースメーカーであるシルマケス家と、マイクロエンジニアリングを専攻したデザイナーとのコラボレーションは、クストスに独特の個性をもたらすことになる。


トノーケースでありながらも、水辺で使える防水性能

 2005年2月に創業したクストスは、しかし、控えめに言っても、かなりの試行錯誤を繰り返した。同社は一貫して「アウトサイダー」であることを好んできたが、それはコレクションの方向性を拡散させたのである。ユニークなモデルは目新しい時計を好む愛好家たちを刺激したが、継続性があったとは言い難い。

チャレンジ ジェットライナーII P-S オートマティック

クストスらしい造形を持つのが「チャレンジ ジェットライナーII P-S オートマティック」だ。スポーティーな時計にもかかわらず、インデックスはポリッシュ仕上げ。また、地板にも強めのペルラージュが施されている。初代ジェットライナーと異なり、ムーブメントはスケルトン仕上げではない。しかし、支えるスペーサーを簡潔に改め、見映えを改善してみせた。

 テラノヴァは率直に語る。「変わったのは2010年以降ですね」。クストスは、主なラインナップを「チャレンジ クロノ」「チャレンジ シーライナー」「チャレンジ ジェットライナー」の3つに集約し、陸、海、空というライフスタイルを打ち出したのである。テクニカルを押し出したラグジュアリースポーツウォッチから、よりシチュエーションに寄り添ったブランドへの転換。かつて凝ったケースを強調していたクストスは、一皮むけたと言ってよいだろう。

 3つのコレクションに共通するのは、トノーケースにもかかわらず100m防水を持つ点だ。理論上、樽型のトノーケースに高い気密性を与えるのは難しい。しかし、クストスのコレクションは、最初のチャレンジコレクションから、トノーケースでありながらも、水辺で使える防水性能を持っていた。

チャレンジ ジェットライナーII P-S オートマティック

2018年発表のジェットライナーIIは、2012年の第1作とはまったくの別物と言ってよい。ケースサイズは同じだが、ケース構造から異なる。また、秒針はセンターセコンドからスモールセコンドに改められた。いわば、今のクストスのスタイルを確立した立役者、である。

 テラノヴァはこう語る。「防水性というのは、クストスに込められたひとつの技術であり、私たちの現代的な部分です。私はクストスを金庫に入れる時計ではなく、毎日使えるものにしたかったのです」。そのカギを握るのが、風防のシーリング技術である。

 クストスの各コレクションを見ると、いずれも風防の4つ角が立っているのが分かる。角張ったほうが見映えは良くなるが、気密性を保ちにくいため、防水性は大きく下がる。多くのトノーケースやスクエアケースが、風防の角をわずかに丸める理由だ。

「クストスの時計は風防の角を尖らせています。理論上、高い防水性を与えにくいのですが、私たちは100m防水を実現しました。重要なのはシーリングと+αの技術なのです。このノウハウは秘密であり、社内で風防を固定できる技術者はふたりしかいません。特許を取るつもりはありません。取得すると、模倣される可能性がありますからね」

風防

現在のクストスを象徴するディテール。精密に切削されたミドルケースの外側に、カバーをネジ留めしている。風防のエッジは、トノーケースとは思えないほど角張っている。こういった形状の風防に高い気密性をもたらすのは難しいが、2005年以降、クストスは100m防水を実現してきた。
ムーブメント

6時位置のスモールセコンドは、他社のような規制バネではなく、磁石で動きを制御している。右側に見える銀色のふたつの丸がその部品。弱い力でコントロールできるため、テンプの振り角が落ちにくい。