わずか1分未満で完売した話題作、KURONO TOKYOの「34mm」をレビュー

FEATUREインプレッション
2022.12.16

KURONO TOKYO(クロノ ブンキョウ トウキョウ)の2022年新作、「34mm」をレビューする。その名の通り34mmの小径ケースをまとった本作は、レトロなカラーダイアルを特徴としており、同ブランドの中でもひと際個性を放つモデルだ。ブランド初の試みとして渋谷で実機展示が行われ、発表当時から大きな話題を呼んだことも記憶に新しい。既存モデルとの比較も踏まえながら、本作の魅力を探っていきたい。

34mm

吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
野島翼:文 Text by Tsubasa Nojima
2022年12月16日掲載記事


“ヴィンテージウォッチを普段使いしたい”という欲望を叶えてくれる1本

 唐突だが、皆さんはヴィンテージウォッチをお持ちだろうか。機械式時計が復権して久しく、時計店や百貨店に行けば、新品の機械式時計が当たり前のように並んでいる現代。時計趣味の入り口としては、まず現行品が選ばれることが多いだろう。しかし、やがて新品には見い出せない経年による風合い、個性的なムーブメントやデザインを求めて、ヴィンテージウォッチへと目を向ける人も一定数出てくるのではないだろうか。

 筆者もそれらの魅力に引かれ、ヴィンテージウォッチをいくつか所有しているが、あまり着用することはない。極度に汗っかきの体質のためか、例え冬場でも腕から外した時計のケースバックには、ほぼ確実に目に見える量の汗が付着してしまっている。そのため、防水性を望めないヴィンテージウォッチは、着用するものというよりは、手元で眺めて楽しむものと割り切っている。

 しかしそれでも、やっぱり腕に着けてみたい。そのまま外に出て、太陽光の下で浮かべる表情を見てみたい。ふとした時に袖口から覗く小ぶりなケースにニヤリとしたい。そんな欲望がふつふつと湧き上がってくる。そうしてたまに腕にして外出したりするのだが、ぶつけないか濡らさないかとビクビクして楽しむどころではなくなってしまうのだ。

 そんな筆者だが、2022年7月に発表されたKURONO TOKYO(クロノ ブンキョウ トウキョウ)のリリースを見て、雷に打たれたような衝撃を受けた。そこに掲載されていたのは、コンパクトなケースにブルズアイダイアルを組み合わせた、ヴィンテージウォッチ同然の佇まいを見せる色とりどりの時計たち。

34mm

KURONO TOKYO「34mm」
今回レビューを行ったのはホワイト&レッドダイアルモデル。アールデコ様式を取り入れたデザインを持ち、随所に取り入れられた意匠の数々は、ヴィンテージウォッチそのものの佇まいを見せる。自動巻き(Cal.90S5)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径34mm)。5気圧防水。各色世界限定80本。15万円(税込み)。完売。

 そう、今回レビューを行う「34mm」だ。悶々と悩みに悩んだ末、ホワイトとレッドのツートンカラーダイアルのモデルに狙いを定めた。そして高い競争率の中、奇跡的にも入手に成功したのであった。これも何かの縁であろう。ブランドとしても新たな試みを盛り込んだ「34mm」。その魅力を書き残しておきたい。


既存のイメージを覆す意欲作、「34mm」

 KURONO TOKYOというブランドに関して、改めて詳述する必要はないだろう。独立時計師アカデミー(AHCI)の正会員であり、厚生労働省が選出する“現代の名工”でもある浅岡肇のサブブランドだ。“浅岡肇のプライベートウォッチ”をコンセプトとしており、設計デザインを浅岡氏が行い、製造を外部委託することによって、優れたデザインと手頃な価格を両立している。

 主に公式ウェブサイトのみで販売され、ラインナップするモデルは、そのほとんどが数量限定。時計界のアカデミー賞と称されるGPHGへの複数回のノミネートに加え、アンティコルムやクリスティーズといったオークションでは定価の何倍もの価格で取引される等、その実力は世界中で認められている。

 今回レビューを行う「34mm」は、現行機らしい防水性と堅牢性を兼ね備えながらも、ヴィンテージウォッチの魅力を味わえるモデルとして生み出されたものだ。ケースサイズは、これまでのラインナップ中で最少となる34mm。カラーバリエーションはオーカー&ホワイト、ブルー&アイボリー、ホワイト&レッド、ホワイト&ブルーの4種類が用意された。そのノスタルジックなサイズとカラーリングは、ヴィンテージウォッチ愛好家には懐かしさを、現行品に慣れ親しんだ者には新鮮味を感じさせた。

クロノトウキョウ 34mm

 さらにその話題性を加速させたのが、ブランド初の試みである渋谷での実機展示だ。発売前の1週間、RAYARD MIYASHITA PARK TOKYOにて、専用什器に並んだ「34mm」が展示された。渋谷という土地柄人通りも多く、そのレトロな時計たちは、既存のファンだけではなく、多くの通行人の目を奪った。

 実機展示によってこれまで以上に注目を集めた結果だろうか、発売開始後まもなく、同ブランド最速とも言えるスピードで各色80本の計320本が売り切れてしまった。今作は浅岡氏自身、どのくらい売れるのかが分からなかったため製造数を絞ったとSNSで語っている。買えなかったことに落胆した人も多いだろうが、希望を捨てるのはまだ早い。浅岡氏はその後に、“また色違いで出す予定なので、期待してください。”と続けている。

 今回のレビューは、既に売り切れてしまったモデルを取り上げているが、今後発表されるかもしれない、まだ見ぬ「34mm」の購入を判断する材料としても、参考にしていただければ幸いである。


単なる小径化にとどまらない、ヴィンテージテイストに最適化されたディティールの数々

 早速、外観から実機を見ていきたい。レビューにあたり、スタンダードな37mmケースのモデルと比べて何がどのように変わったのか、筆者が所有する「朱鷺」と見比べて気付いたところがあれば、一緒に書き記していきたい。ケースが小径化されたのは先述した通りだが、単に縮小されたのではなく、既存のモデルとは異なるヴィンテージウォッチに範を取ったディティールが与えられているのだ。

光を受けて優しく歪むボックス型サファイアクリスタル。ステップベゼルと組み合わされることにより、ヴィンテージ感が一層高まった。ボンベ型のダイアルに合わせ、分針と秒針は手作業によって曲げられている。ケースは既存のモデルと同様、歪みのない鏡面に磨き上げられている。

 ベゼルは、1930~1940年代に多く見られるステップベゼルを採用する。既存モデルではスムースベゼルであったが、ステップベゼルとすることによって、ベゼル自体の厚みが増し、風防からミドルケースまでのラインがさらに滑らかになった。風防は従来同様にボックス型サファイアクリスタルを採用し、アクリル風防を想起させる柔らかな光を湛えている。

 ケースの小径化に合わせ、ラグ幅は20mmから18mmへ変更されている。社外ストラップの選択肢が多い偶数幅であることは、うれしいポイントだ。

 ラグは、単に幅が縮小されただけではなく、形状自体にも変更が加えられている。既存モデルでは、ラグ先端に角度をつけ、腕に向かってストンと落ちる形状であったが、今作ではラグの起点から先端までほぼ同じカーブを保っている。正面から見た際のラグも、今作の方がわずかに太く、全体的に丸みを感じさせるデザインにまとめられている。

 ねじ込み式のケースバックには、仕様変更が加えられた。防水性能は従来の3気圧から5気圧に強化され、さらに実用性が高まっている。

刻印は、ヴィンテージウォッチに見られる伝統に則り、外周に沿って弧を描くように配されている。この仕様のケースバックは、「34mm」以降に発売されたモデルにも共通して採用されている。

 ストラップは、シボの付いたカーフレザー製。ダイアルカラーとの相性を鑑み、ホワイト&レッドダイアルモデルには、ライトブルーにホワイトステッチを施したものが取り付けられている。触った感触はしなやかで、裏面には“HAJIME ASAOKA TOKYO JAPAN”と刻印されている。

 尾錠の取り付け幅は16mm。これは「朱鷺」に装着されているものと同じ幅であるが、驚くべきことに異なるデザインを与えられていた。今作の尾錠では、バネ棒の穴が貫通し、サイドから突くことで簡単に取り外すことができるようになった。また、従来はサイドから見た際に比較的平坦であったが、今作では先端に向かって細くなるようにカーブが強くなっている。

 そして何と言っても、最も特徴的なのがダイアルのデザインだろう。KURONO TOKYOのラインナップには、いくつかのダイアルバリエーションがあるが、ポップなツートンカラーのブルズアイダイアル、ライトグリーンの蓄光塗料を塗布したアラビア数字インデックスは、明らかにこれまでのモデルとは異なるレトロな印象をもたらしている。

34mm ダイアル

ホワイトをベースに、レッドのサークルを組み合わせた、ブルズアイダイアル。レイルウェイの周囲に余白を持たせることで、小さなダイアルにゆとりを持たせている。12時位置のロゴは、今作のために用意された特別仕様。丸みを帯びたアラビア数字インデックスには、ライトグリーンの蓄光塗料が塗布されている。

 日本国内で販売されていたCHRONO TOKYO(クロノトウキョウ)でも「ブルズアイ」というモデルがあったが、細身のインデックスがクールな印象のそれと比べ、今作は優しさを感じさせる丸みを帯びたフォントを採用している。

 12時位置のロゴは、カタカナの“クロノ”ではなく、今作専用の筆記体の“Kurono”。時分針は、それまでポリッシュのリーフ針とモダン針の組み合わせだったが、ブルーIPに蓄光塗料を塗布したシリンジ針に改められた。3針やクロノグラフ問わず、一貫して同じ形状の針を使い続けてきたKURONO TOKYO。それゆえに、この時分針は「34mm」を特徴づける要素のひとつだ。


コンパクトなケースがもたらす、新鮮な着用感

 着用してすぐはケースの小ささに慣れず多少の違和感を覚えたが、しばらく着用するとしっくりとなじんだ。むしろ、その後に40mm程度の現行品を見ると、その大きさに一瞬困惑してしまうほどだ。

 今やその括りが曖昧になってきているどころか、区分すること自体が野暮かもしれないが、そもそもケース径だけで、メンズだのレディースだのと決めつけるのは早計であり、ラグ幅やケース縦の長さ、ベゼルの幅などを含めた、総合的なバランスで考えるべきだろう。特にラグ幅、つまりベルトの幅は、時計が腕上のどのくらいの面積を支配するかを左右する。

 筆者の主観に過ぎないが、18mmのラグ幅を持つ今作は、腕上でも堂々とした存在感を放っている。もし、34mmというサイズが小さ過ぎるかもしれないと懸念している男性がいたとしたら、それは杞憂だと伝えたい。もちろん、女性でも違和感なく着けられることは間違いない。

 視認性は非常に高い。ほのかに黄色みがかかったホワイトダイアルは、よく見ると表面を細かく荒らすことで光の反射を抑えている。

ダイアル

時分針とインデックスに蓄光塗料が塗布されたことも、今作の特徴のひとつだ。これによって、暗所での視認性が格段に向上した。ヴィンテージの風合いを持ちながらも、実用性に長けたモデルとして纏め上げられている。

 針のブルーIPは少し暗めのため、ダイアルとのコントラストが強く、針がどの位置にあるのかがはっきりと分かる。レッドカラーのサークルと、その上に配されたライトグリーンのインデックスも同様に、はっきりとしたコントラストを持つ。結果的に、針が今どこを指しているのかが非常に分かりやすくなっているのだ。分針と秒針の先端は手作業によって曲げられており、判読性も高められている。

 しかし時折、時分針の見分けが付かず、読み取りに苦慮する場面もあった。それぞれの針の長さは、はっきりと差別化されているものの、レッドカラーのサークルに針の先端が溶け込んでしまい、どちらが時針でどちらが分針かが、パッと見て分かりにくくなってしまうのだ。この判読性に関しては、他のカラーリングのモデルであれば、また違った感想を持ったに違いない。

 加えて、今作の時分針とインデックスには、蓄光塗料が塗布され、暗所での視認性が飛躍的に向上している。既存モデルのリーフ針とモダン針は、立体的なカーブが掛けられ、さらにポリッシュで仕上げられていたため、例えば夜道で見ようとすると完全に闇に紛れ、ほぼ視認できない場面があった。

 今作は、それまでの3針モデルと同様に、ミヨタ製の片方向巻上げの薄型自動巻きムーブメント、キャリバー90S5を搭載している。KURONO TOKYOの薄型ケース、優れた信頼性、そして手頃な価格を実現する陰の主役だ。片方向巻上げのため、腕を振るとローターの空転音が響くが、極端に静かな場所でなければ、さして気になるほどではない。

ケースバック

「34mm」より、ケースバックの仕様が変更された。多角形のスクリューバックや外周に沿って配された刻印は、ヴィンテージウォッチでも見られるデザインだ。防水性は従来の3気圧から5気圧へとスペックアップしている。


魅力的な作品を生み出し続ける、妥協を許さぬ姿勢

 今作は、ヴィンテージウォッチを普段使いしたいという要望に真っすぐに応えてくれるモデルであると感じた。筆者自身が気に入って購入したものだからという面もあるかもしれないが、上述した判読性以外、ケチをつける部分がまったくと言っていいほどない。税込み15万円というプライスを考えると、少なくとも同価格帯では随一のクォリティを持っている。

 当初、今作が発表された際には、単純にケースサイズを縮小し、ダイアルを変更しただけに思えたが、実物のディティールを追っていくと、コンセプトに合わせたデザインの調整が細かに加えられていることに気付く。そこから垣間見える妥協を許さぬ時計作りは、浅岡氏自身が使いたいと思えるものを作るという姿勢に基づいているのだろう。

 同ブランドの公式SNSでは、例えば最適なカラーを出すための試作ダイアルの数々を見ることができるが、そのような微調整が日夜繰り返されているからこそ、KURONO TOKYOは世界的にも注目を集める存在となっているに違いない。

Contact info:クロノ ブンキョウ トウキョウ https://kuronotokyo.com/


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