ムーンスウォッチ実機レビュー! 異色のコラボレーションが生んだ話題作の人気色「MISSION TO URANUS」

FEATUREインプレッション
2022.12.27

バイオセラミックケースとベルクロストラップがもたらす軽快な着け心地

 ベルクロストラップは、剣先側をもう一方のループに通し、折り返して貼り合わせることで装着する。構造上、調整幅がかなり広いため、老若男女問わずさまざまなサイズの手首にぴったりと調整できるはずだ。

 装着時の印象は非常に軽やかで、着けていることを忘れてしまうほどだ。バイオセラミック製のケース自体が軽量であることに加え、幅広で厚みのあるストラップがしっかりと支えになっているからだろう。

ムーンスウォッチ ベルクロストラップ

調整幅の広さが魅力のベルクロストラップ。ムーンスウォッチの伝説を象徴するとともに、万人向きの使いやすさを実現する装備だ。11種類のモデルごとに、カラーリングやプリントされる文字が異なっている。

 視認性は高く、エアリーブルーのダイアルの上に、ホワイトの針とインデックスをはっきりと見ることができる。特にミニッツマーカーに取り入れられたブラックは、5分単位を確実に読み取りやすくしているだけでなく、ダイアルにメリハリを利かせることにも一役買っている。

 クォーツムーブメントを搭載しているため、スモールセコンドは1秒単位のステップ運針だ。静かな室内であれば、秒針が動くチッチッチッという音が響く。あくまでも筆者の私見だが、樹脂ケースのスウォッチよりも幾分か音は抑えられているように感じる。

 そして何よりも、装着して改めて、そのファッショナブルなカラーリングの魅力を実感する。お洒落とは無縁の人生を送ってきた筆者にとって、合わせる服がないというトラブルはあったものの、いざ腕に着けて外に出れば、そのポップな色合いは見る度に心を明るくさせてくれた。

 近年、各社はさまざまな発色のカラーダイアルを採用するようになった。しかしながら、そのダイアルを包み込む、しっかりと磨かれた金属製のケースが醸し出す高級感は、物理的にも心理的にも着用者に重さを感じさせる。バイオセラミックの外装に散りばめられた程よい緩さこそが、スピードマスターには持ちえない本作の隠された武器なのだ。

 時間を確認するためのツールという硬派なものでもなく、装飾品などという大袈裟なものでもない。カジュアルウォッチとは、日常を明るく楽しく過ごすためのちょっとしたスパイスといったところだろう。

 

1/10秒単位で計測可能なクォーツクロノグラフ

 せっかくのクロノグラフなのだから、その操作感も楽しんでみたい。2時位置のプッシャーを押下すると、計測がスタートする。僅かにプッシャーが沈んだ後、カチリという手応えと共にセンターのクロノグラフ秒針が動き出す。

 その動きはスモールセコンドと同じくステップ運針であるため、1/3秒ごとの目盛りは用をなさない。60秒が経過すると同時に、10時位置の60分積算計がひと目盛り分動き、最大で60分まで計測することができる。

ムーンスウォッチ

ムーブメントの制約上、インダイアルはほぼ等間隔で配されている。2時位置が1/10秒計、6時位置がスモールセコンド、10時位置は60分積算計。インダイアルは一段窪み、立体感を出している。60分積算計は1分ごとの目盛りがないため、瞬時に正確に読み取ることは難しい。

 2時位置のプッシャーをもう一度押すことで、計測がストップする。クロノグラフ秒針が停止し、2時位置のインダイアルの針が、ジーッという音とともに1/10秒単位の計測時間を示す。機械式クロノグラフは、ムーブメントの振動数によって最小の計測単位が制限され、1秒以下の数値を読み取ることには少し苦労する。

 独立したインダイアルによって1/10秒まで読み取りやすくなっているのは、本作のメリットと言えるだろう。一部には、同様の表示形式をとる機械式クロノグラフもあるが、やはりそれなりの特殊構造であることは間違いない。

 4時位置のプッシャーでリセットを行う。針は、どの位置にあっても時計回りにゆっくりと回転して帰零する。機械式やメカクォーツであれば瞬時に針が頂点にそろうため、それらに慣れていると少し新鮮に感じるかもしれない。

 電子制御されていることを改めて気付かされる瞬間でもあるが、リセット時に針のハカマに加わる衝撃が少ない分、時計に優しい構造と考えることもできるだろう。

 リュウズのポジションは2段引きまで用意されている。本作にカレンダー機能は備わっていないため、1段引きではリュウズが空転するだけで何も起こらない。

 恐らく、クロノグラフ用の針ズレを修正するためにあえて殺さずに残しているのだろう。2段引きでは時刻調整が可能だ。ふらつきや針飛びはなく、スムーズに時刻調整を行うことができる。


スウォッチグループは、ムーンスウォッチにどんな想いを託したか

 最後に、実際に「MISSION TO URANUS」を使う中で感じた、ムーンスウォッチの存在意義について私見を述べてみたい。

 現在のスピードマスターの立ち位置は、一昔前とは大きく変わってきているように感じる。手巻きのムーンウォッチはコーアクシャル脱進機を搭載し、自動巻きモデルはかつての「スピードマスター リデュースド」のような、廉価版のイメージを完全に払拭している。

ムーンスウォッチ

 その代わり、伝説的な存在でありながら手の届きやすかったスピードマスターの販売価格は年々上昇し、機械式時計の入門モデルとは言えなくなってきた。この流れで登場したムーンスウォッチは、スピードマスターの高級化によって生まれる渇望感をわずかにでも満たしてくれるものと考えて良いだろう。

 しかし、スウォッチ グループがこのコレクションに託したのは、それだけではないはずだ。単に廉価な代替品として用意するのであれば、生産性を考慮して多少デフォルメを加えたとしても、ステンレススティールケースの「アイロニー」コレクションとして出した方が喜ぶファンは多かったかもしれない。

 しかし、カラフルなバイオセラミックを用いて多くのバリエーションをラインナップしたのは、顧客層の異なる高級時計とカジュアルウォッチを相互にブリッジさせるためではないだろうか。

 スピードマスターの存在からムーンスウォッチに興味を持った層は、高級時計には持ちえないバイオセラミックケースの気楽さと、つい集めたくなってしまう豊富なラインナップの虜になり、カジュアルウォッチの魅力に気付く。

むーんスウォッチ ウラヌス

スウォッチ「ムーンスウォッチ Mission to Uranus」
クォーツ。バイオセラミック(直径42mm、厚さ13.25mm)。30m防水。3万3550円(税込み)。

 一方、これまで高級時計に興味のなかった層は、ムーンスウォッチを通してスピードマスターの存在を知り、その背景にある壮大なロマンに思いをはせる。やがて、他にも多くの時計たちがそれぞれに歴史を抱えていることに気付かされるだろう。購買行動の第一歩は知ることと言われるように、ムーンスウォッチは両者に原体験を与える役割を果たしているのではないだろうか。

 ケースバックに刻まれている“大きな夢を抱き、空高く飛び、宇宙を探索、惑星へ旅をしよう”とは、スピードマスターの持つロマンを表すだけではなく、もっと広い視野を持って時計を楽しんでみないかという、スウォッチグループからの提案なのかもしれない。

Contact info:スウォッチ コール Tel.0570-004-007


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