思わず欲しくなるダイアルの美しさ。オリエントスター「メカニカルムーンフェイズ」RK-AY0114Aをレビュー

FEATUREインプレッション
2023.02.07

今回のインプレッションは、秋田県田沢湖の湖面に映る月を表現したオリエントスター「メカニカルムーンフェイズ」RK-AY0114Aである。白蝶貝を用いた美しいダイアルにムーンフェイズ表示を備える点が特徴だ。筆者の好みと本作の特徴を照らし合わせると、筆者の欲しい物リストから外れがちな1本であったのだが、インプレッションを通じて「欲しい!」と思うほど魅力的であった。筆者が感じたダイアルの魅力に注目してインプレッションしてゆこう。

メカニカルムーンフェイズ

佐藤しんいち:文
Text by Shin-ichi Sato
2023年2月7日掲載記事


オリエントスター「メカニカルムーンフェイズ」RK-AY0114Aの第一印象

 今回インプレッションするオリエントスター「メカニカルムーンフェイズ」RK-AY0114Aのテーマは、「秋田県田沢湖の湖面に映る月」である。新緑と月が湖面に反射する様を表現しており、ダイアルの下地に白蝶貝を用い、エメラルドグリーンのグラデーションで仕上げ、6時位置にムーンフェイズを配している。

 また、ムーンフェイズと同軸のポインターデイトを備える。同じデザインで、星空と月明かりが湖面に反射する様を思わせるグレーグラデーションで仕上げたモデルも用意される。

メカニカルムーンフェイズ

室内でも美しかったが、太陽光の下だとさらに映える。ギタークラスタに分かりやすく言えば、本作のダイアルは「キルテッドメイプルのトランスルーセントブルーサンバースト」に近く、見る角度や光の当たり方によって表情が大きく変わる。

 近年のオリエントは、パワーリザーブ表示とテンプ部分のスケルトンを備えるモデルが非常に多く、そしてムーンフェイズあるいはスモールセコンド仕様が好きなブランドである。ラインナップを見渡すと、ほとんどすべてのモデルにそのいずれかひとつは備わっているという珍しいブランドだ。

 この観点から本作は“オリエントらしさ”が発揮されたモデルと言える。ただし、特に採用率の高いスケルトンは非採用となっており、これは“あえて非採用”と言っても良さそうだ。

 本作に採用されるようなムーンフェイズ表示は、神秘的な月の満ち欠けをはじめとした森羅万象を手元の機械に写し取るためや、船舶の安全な航海に必要な実用機能として採用されてきた歴史がある。それらに興味が無ければ(筆者もそのひとりだが)ムーンフェイズは注目する機能ではなくなってしまうのだが、本作はテーマと関連させたことでデザインに必然性を与えている。


デザインバランスに優れた美しい1本

 本作のデザインバランスはかなり良い。まずはダイアル径に注目する。仮に、もう少しダイアル径を小さくするとローマンインデックスが描かれた外周部を狭くするか、外周部と中心部を隔てるリングを小さくする必要が生じる。

 しかし前者は窮屈な印象になるし、後者はリングとパワーリザーブ表示の軸が鑑賞してしまう。逆にサイズアップすると間延びした感じは避けられないだろう。よってムーブメントサイズとの兼ね合いで現在のバランスは最適解に近い。

 次に質感の違いの与え方。本作は、白蝶貝を鮮やかながら落ち着きのあるブルーグリーンに塗装し、中心部には湖面のさざ波を思わせるテクスチャーを、外周部にはグラデーションを加えている。塗装によって遠目では白蝶貝のギラつきが抑えられており、近づいて光の当たり方を変化させてやると、奥行きのある上品な輝き方をする。外周部は艶を抑えた塗装にしている点も上手い。

メカニカルムーンフェイズ

湖面に反射するかのようにフラットな輝きを放つムーンフェイズ表示。本作のテーマでありデザインのシンボルだ。ダイアルの内外周の質感の違いや、立体的な針のポリッシュ仕上げ、リング部品の仕上げの違いなど見どころが多い。これだけアップにしても鑑賞に堪えるのだから、20万円前後の価格帯で随一の美しさと評して良いだろう。

また、中心部に配置された立体的なオリエントスターのブランドマークが湖面に浮かんでいるような印象も受ける。時分針は立体感のあるポリッシュ仕上げのリーフ針で、盛り上がって艶のあるローマンインデックスがそれと呼応している。外周部と中心部を隔てるリングには秒インデックスにも見える刻みが施され、パワーリザーブ表示とデイト表示にはヘアライン仕上げと使い分けられており、同じブラックでも印象はかなり異なる。

 見どころの多さと美しさは、20万円前後の価格帯では随一だろう。このように細かな変化を与えながら、全体を見るとまとまっていて奇抜なところが無く、バランス感覚にも優れている。

 最後にケースデザインだ。ダイアルを広く、ケースの存在感を控えめにしている点がシンプルな佇まいを生み出している。時計仕上がり厚さ13.8mmは薄くはないが、着用時に厚さが気になるほどではない。全体のデザインと細く仕立てたラグによって幅20mmのストラップがクラシカルな印象を生み出している。

 以上のように、本作のデザインバランスは良い。また、着用時にもこのバランスは崩れず、腕元を飾ってくれることだろう。