ウブロ/ビッグ・バン

FEATUREアイコニックピースの肖像
2019.10.09
ウブロ ビッグ・バン
広田雅将:取材・文 吉江正倫、三田村優:写真
[連載第8回/クロノス日本版 2012年1月号初出]

ウブロCEOとして招聘されたジャン‐クロード・ビバーは、わずか10カ月の準備期間で「ビッグ・バン」を完成させた。異素材使いを基調としたシンプルな顔立ちのクロノグラフから多様なデザインが編まれ、その認知度は全世界的に広まった。初出から短くはない歳月を経た今、細やかなディテールの変化と、先導者たるジャン‐クロード・ビバーのインタビューから、ビッグ・バンの核心と今後の方向性に迫る。

BIG BANG STEEL CERAMIC
異素材を融合させた、新生ウブロの代表作

ビッグ・バン スチールセラミック
2005年発表のRef.301.SB.131.RX。製造番号から判断するに、この個体はおそらく2007年製。しかし細部の作り込みは初作にほぼ同じだ。異素材の融合を掲げたモデルにふさわしく、ベゼルにはセラミックス、オレイユリングとケースサイドにはグラスファイバーを配する。自動巻き(Cal.HUB 44)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径44.5mm)。10気圧防水。個人蔵。

 1980年創業のウブロ。目覚ましい成功を収めたものの、機械式時計がブームになるとその成長には陰りが出てきた。創業者であるカルロ・クロッコは、会社の建て直しをスウォッチグループのジャン-クロード・ビバーに依頼。2004年6月、彼はウブロのCEOに就任した。就任後、彼は異素材の融合を意味する「フュージョン」というコンセプトを掲げた。ビバーはこう説明する。「1980年の初代ウブロは、時計業界初の『フュージョン』だった。金のケースにラバーのストラップを合わせるアイデアは、ウブロ以前にはなかったものだ」。翌05年、ウブロはフュージョンを再定義した新作「ビッグ・バン」を発表。空前のヒットを遂げた。

 カルロ・クロッコはまったく形が変わった「ベイビー」にショックを受けた、とビバーは語る。しかし彼はこうも強調する。「もしクロッコ氏がオリジナルデザインを開発し続けていたら、彼は当たり前のように、ビッグ・バンに到達しただろう」。

 リデザインに際して、ビバーは注意深くウブロの遺伝子を定義した。それが両サイドに「耳」が張り出したケース、ビスによるストラップの固定、そしてビスで固定された平たいベゼルである。そこに彼は、サンドイッチ構造という新しいアイデアを組み込んだ。ケースを複数の部品で構成することにより、素材の変更は自在になった。またこの構造により、時計を横から見ると、ラバーストラップがケース全体を貫いているようにも見える。

 しかしビッグ・バンで驚くべきは、構造以上にデザインかもしれない。2005年のデザインは、なにひとつ変わることなく、今もカタログに存在するのだから。ビバーはこう語る。「ビッグ・バンはポルシェ911のような存在になるだろう」、と。

(左上)カーボンパターンを施した文字盤と、視認性に優れるサテン仕上げのインデックス。なお2005年のプレシリーズと以降のモデルは、文字盤周辺のディテールが若干異なる。初作では、クロノ針の根本にまで塗装が届いていない。デイト窓周辺の処理も簡素だ。対して現行品はクロノ針の根本にまで色が回ったほか、デイト窓が額縁状に処理されている(おそらく2005年後期以降の改良)。加えて言うと、ストラップの形状も異なる。
(右上)チタン製のビス。当初は鏡面仕上げがなかったが、2008年ごろに仕上げが一新された。なお初期には、使用状況によってビスの周囲が傷む固体もある。
(中)複数の素材を取り入れるための「サンドイッチ構造」ケース。黒いミドルケースは、グラスファイバーを張り込んだもの。ベゼルとケースの間にも、グラスファイバー製のオレイユリングが挟み込まれる。
(左下)ケース側面。立体感は申し分ないが、当時は立て付けや、ケースの磨きがやや甘かった。筆者の知る限りでは、ベゼル側面のロレット加工も以降より突起が強い。
(右下)ジャケ(現ラ・ジュー・ペレ)製の自動巻きムーブメント。初作はビスにPVDが施されていたが、以降は省略された。なおケースバックの形状は以降も同じだが、「耳」を留めるビス周りの造形が、若干違う。