ジャガー・ルクルト/レベルソ

FEATUREアイコニックピースの肖像
2019.07.04

TRIBUTE TO 1931

1オリジナルの精神を受け継いだ正統なる後継者

グランド・レベルソ・ウルトラスリム・トリビュート・トゥ・1931(2011)

グランド・レベルソ・ウルトラスリム・トリビュート・トゥ・1931(2011)
ウルトラスリムのケースに、オリジナルのデザインに忠実な文字盤と針を搭載した秀作。1985年以降の第2世代のケースは比較的「肩」が丸い。しかし、ウルトラスリムは相対的にフラットなケースを持つ。その結果、時計全体の印象はよりオリジナルに近くなった。手巻き(Cal.822)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約45時間。SS(縦46×横27mm、厚さ7.2mm)。30m防水。86万円。

 1985年に復活を遂げたレベルソ。その鍵を握ったのが、第2世代と呼ばれるケースである。優れた防水性能を持つこのケースは、レベルソに高い実用性をもたらした。以降のレベルソは、複雑化と歩みを同じくしてサイズを拡大する。複雑機構を搭載した巨大なレベルソは、やがてジャガー・ルクルトのアイコンと見なされるようになった。しかし、2011年、ジャガー・ルクルトはオリジナルを思わせる、簡潔なモデルを発表した。それが「グランド・レベルソ・ウルトラスリム・トリビュート・トゥ・1931」である。

 オリジナルは、1979年にも復刻されている。クォーツと手巻きを搭載した復刻版は、サイズもスペックも31年のモデルにほぼ同じであった。このトリビュートも復刻版ではあるが、サイズのほか、ケースデザインも異なる。具体的な変更点は、ケースのプロファイルである。85年以降の第2世代のケースは、防水性能のある〝重いケース〟を保持するため、分厚いバックと大きなラグを持っていた。しかし、トリビュートのバックは薄く、ラグの角度も低めに抑えられている。オリジナルのレベルソが、スレンダーながらも堅牢な時計を目指したと考えれば、トリビュートは間違いなくオリジナルの精神を受け継いだ、正統な後継者と言えるだろう。

 また、近年のジャガー・ルクルト製品らしく、トリビュートは外装も卓越している。自社製ケースの加工精度はすこぶる高く、第1世代のケースに見られたガタツキは皆無だ。とりわけ、ケースがカチリと音を立てて収まる様は、現行レベルソならではの魅力だろう。若干荒らした文字盤も、高級機らしい質感を備えている。薄いため、装着感に優れるのも美点だ。〝ユニバーサルウォッチ〟を目指して誕生したレベルソ。その理想に最も近付いたのが、このモデルではないだろうか。

(左上)平板なバック。ケースの優れた加工精度は、ラグとバックの噛み合わせ部分を見れば明らかだろう。別部品から構成される両者だが、クリアランスは非常に小さい。ストラップの終端部には金属製のプレートが仕込まれ、ラグからストラップへと曲線を描くように配慮されている。(右上)バックとラグの噛み合わせ。第2世代のケース以降、両者は溶接からビス留めに変更された。そのため、反転させるためのスライドレールが摩耗しても、バックだけを交換して、容易に修復できるようになった。加工精度は非常に高く、スライド時にも不快なガタツキは感じられない。(中)ケースサイド。薄いバックと、低く抑えられたラグが見て取れる。写真が示す通り、ストラップの曲がりが悪いのが難点。しかし、装着感自体は優れている。ストラップを標準品にリプレイスすれば、腕なじみは大きく改善されよう。ケース全面に施されたポリッシュも良質だ。(左下)ケースを反転させる様子。最後までスライドさせなくても、ケースを反転できるようになった。理由は、強い衝撃を受けても、スライドしたり反転したりしないように、ケース全体の設計が変更されたため。併せて、ケース内にパッキンを噛ませて、30mの防水性を確保している。(右下)ケースサイドとラグ幅が揃った点は、第2世代ケースの大きな特徴。時計全体をスレンダーに見せる効果がある。夜光塗料が施された黒文字盤は、スポーツウォッチ風の若干表面を荒らしたもの。ドレスウォッチのようなツヤありにしないことが、ユーティリティ感をいっそう強める。