ロレックス/ オイスター パーペチュアル デイトジャスト

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.01.28

実用腕時計の“基準機”たる資質を備えた「オイスター パーペチュアル デイトジャスト」。その誕生と熟成の過程には、ひとつの機構を丁寧に熟成させていくロレックスのプロダクトに対する姿勢が明確に表れてくる。2012年、ビエンヌに完成したムーブメント工房のレポートを絡めつつ、完成形へと至るデイトジャストの進化を辿る。

広田雅将:取材・文 吉江正倫:写真
[連載第13回/クロノス日本版 2013年1月号初出]

OYSTER PERPETUAL DATEJUST [Ref.1601]
スタイリングを決定づけた60年代の傑作機

オイスター パーペチュアル デイトジャスト Ref.1601

オイスター パーペチュアル デイトジャスト Ref.1601
1960年製のRef.1601。この時代のロレックスに特有のブラックダイアル。リュウズやリバーサーを含めて、ほぼオリジナルの個体。実物を見ると、なぜRef.1601が成功したのかは理解できる。まとまりが良く、万事そつがない。自動巻き(Cal.1565)。26石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約44時間。SS×18KYG(SS×14KYGもあり、直径36mm)。30m防水。個人蔵。

 デイトジャストに大きな成功をもたらしたのが、1950年代後半から77年まで製造された、Ref.1601である。搭載されたのはキャリバー1565(65年まで)と、その改良版である1575(1570として知られているが、正しくは1575である)。その高精度と安定ぶりは、ロレックスの名をいっそう高めた。

 初代モデルとなった45年のRef.4464以降、ロレックスはデイトジャストのムーブメント径を拡大させてきた。オリジナルモデルのキャリバー740は10.5リーニュ。しかし50年代半ばに発表されたキャリバー1065では、11.5リーニュとなった。拡大の理由は、おそらく両方向自動巻き機構(リバーサーを2枚要する)とデイト表示の瞬間早送り機構を搭載するためだろう。しかし性能に満足できなかったのか、数年後にロレックスは直径を12.5リーニュにまで拡大した。これがキャリバー1530と、それにデイト表示を加えてクロノメーター化したキャリバー1565である。さらにロレックスはこのムーブメントの振動数を1万9800振動/時に高め、キャリバー1575に進化させた(65年)。デイトジャストのムーブメントは、これで完成したといっても過言ではない。

 1960年代にロレックスの生産本数は急増した。大きな理由はデイトジャストの好セールスだが、それも搭載したキャリバー1565/1575の優秀さがあればこそである。それを証明するかのように、この時代のデイトジャストの多くが現存し、しかも現行品に遜色ない精度を誇っている。

 本誌でも再三述べてきたように、ロレックスは、最新が最良である。しかしこの時代のデイトジャストには、アンティークウォッチとしての心地よさと、現行品にも通じる実用性の高さが共存している。

(左上)深いツヤを持つブラックダイアル。経年劣化しやすいことで知られているが、この個体には微妙なニュアンスが残っている。もっとも、かつて書き直しされたものかは不明。なおインデックスは、ロレックスとしては珍しいエンボス仕上げ。(右上)ケースとフラッシュフィットの噛み合わせ。ブレスとフラッシュフィットは、後にロレックスに買収されるゲイ・フレアー社製である。現行品ほど噛み合わせの精度は良くない。また2005年以前のジュビリーブレスは、経年変化で左右にガタが出やすい。(中)デイトジャストの造形は、Ref.1601で完成したといえる。長く伸ばしたラグと、ベゼルから飛び出した風防という特徴が見てとれる。鍛造でケースを加工するロレックスは、おそらく生産性を高めるために、ラグを短く処理していた。しかし50年代以降は、ラグを伸ばすようになった。なおラグの先端は、必ずしも長さが均一に揃っていない。これは再仕上げをした結果ではなく、新品の時点からすでにそうであった。(左下)長く飛び出したラグ。上面を平たく成形し、サテン仕上げを加えて稜線を残す手法は以降ロレックスの「お家芸」となった。(右)標準的なバックル。プレートを指で曲げることで、装着感を微妙に改善できる。ただしバックルの作りは、現行品のほうがはるかに勝っている。


OYSTER PERPETUAL DATEJUST 36 [Ref.116234]
伝統を継承する現行デイトジャスト

オイスター パーペチュアル デイトジャスト 36 Ref.116234

オイスター パーペチュアル デイトジャスト 36 Ref.116234
2005年発表。前モデルのRef.16234に比べて、ラグが太くなったケース、遊びを詰めたブレスレット、コンシールドクラスプなどを採用。外装の質感や、操作系の剛性感などは、この価格帯で随一か。搭載するのは、名機Cal.3100系である。自動巻き(Cal.3135)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS×18KWG(直径36mm)。100m防水。76万円。

 1990年代から進んだ、ロレックスの経営統合。その結果が、新しいデイトジャストである。搭載するのは、名機中の名機であるキャリバー3135。ムーブメントは前モデルと同じだが、外装の質感は劇的に向上した。

 90年代、ロレックスはケースのサプライヤーであるジェネックス社、ブレスレットのサプライヤーであるゲイ・フレール社、リュウズのサプライヤーであるボニンキ社などを買収した。2001年には、ケースとブレスレットの新工場建設に着工。05年には内製化を実現した。

 統合の成果は、フラッシュフィット(この名称はロレックスが商標登録を行っている)と、ケースの噛み合わせを見れば理解できよう。近年、他社もこの間隔を詰めようと努力している。しかしロレックスのそれは完全に密だ。加えて5連リンクのジュビリーブレスレットの各コマの遊びも詰められた。一般的にコマの遊びを詰めると、ブレスレットの動きが硬くなる。しかしデイトジャストのブレスレットは、コマ数を増やすことで、全体に遊びを持たせるようにしてある。また加工精度自体が優れていることも自明であろう。新しいジュビリーブレスレットでは、長年の課題であったバックルにも手が入れられた。従来のプレーンなものに替えて、「コンシールドクラスプ」が採用されたのである。適度な重みを伴った開閉感と、左右のガタのなさは、他に類を見ない。

 一貫して、実用自動巻きの「基準機」であり続けるデイトジャスト。確かにコンペティターの製品も質感を高めている。しかし新しいデイトジャストで、ロレックスは他社を突き放した感がある。意匠の好みは分かれるだろうが、ロレックスは常に最新が最良であり、デイトジャストもまた然り、なのである。

オイスター パーペチュアル デイトジャスト 36 Ref.116234

(左上)ブラックラッカーダイアル。黒い下地はインデックスが埋没しやすくなるが、インデックスの高さを稼ぎ、あえてダイヤカット処理を施さないことで視認性を高めている。白い印字も、歪みはなく、色乗りも良好だ。(右上)旧モデルとの最大の違いが、ケースとフラッシュフィットの間隔。近年他社も詰めているが、ロレックスにははるかに及ばない。ケースとブレスレットメーカーを統合した最大のメリットだろう。(中)ケースサイド。ベゼルを盛り上げる手法は、従来のデイトジャストに同じ。しかしサファイアクリスタル風防の角を斜めに裁ち落とし、高さ自体もわずかに抑えている。装着感を配慮した小改良である。(左下)ケース側面とラグ。以前のモデルは、ラグ先が尖っていたが、このモデル以降は丁寧に丸められた。併せて仕上げも、サテンの併用からポリッシュのみになった。上面をポリッシュ仕上げにして、かつ側面に稜線(上面と側面が当たった部分のエッジ)を残す手法は見事である。(右下)コンシールドクラスプは「王冠」の部分を軽く引っ張り上げて、連結を解除する。このバックルの最大のメリットは、ブレスレットと完全に一体化した点。デスクワークの際も、バックルが邪魔になる心配は少ないだろう。