タグ・ホイヤー/カレラ

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.09.03

TAG HEUER CARRERA CALIBRE 1887 CHRONOGRAPH [2012]
60年代の意匠に回帰したCal.1887搭載第2世代機

タグ・ホイヤー カレラ 1887 クロノグラフ

タグ・ホイヤー カレラ 1887 クロノグラフ
2012年に発表された、「タグ・ホイヤー カレラ 1887 クロノグラフ」のデザイン違い。ケースを2mm拡大したほか、よりドレスウォッチに近いデザインを持っている。“万能時計”であるカレラの、日常使いに向く側面を強調したモデルである。自動巻き(Cal.1887)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径43mm)。10気圧防水。50万5000円(現在は一部にデザイン変更あり)。

 2004年のカレラ40周年記念モデル以降、カレラは明らかにファーストモデルを意識するようになった。その際に重要だったのはタグ・ホイヤーが、ただカレラの名称と意匠を再現しただけでなく、そのデザインコードを認識したことだろう。加えて同社はカレラ復活のプロジェクトを通して、ドレスウォッチとスポーツウォッチの差異を明確に自覚するようになった。タグ・ホイヤー本社の見解はこうだ。

「私たちはセラミックベゼル、太いアラビックインデックス、そして赤い挿し色を持つカレラをスポーツウォッチと考えています。対してベゼルを絞り、繊細なバーインデックスと控えめなタキメーターを見返しに備えたモデルを、ドレスウォッチと見なしています」

 果たして現在のタグ・ホイヤーは、万能時計のカレラを、いかようにも味付けできるだけの力量を持つに至った。その成果のひとつが、2012年発表の本作だろう。搭載するのは高性能なクロノグラフムーブメント。しかしデザインやディテールは、タグ・ホイヤー カレラ 1887 クロノグラフのファーストモデル(2010年)に比して、いっそうドレスウォッチに近くなった。とはいえ見返しやラグといった要素に注目すると、これは紛うことなきカレラだ。

 2000年以降、カレラとは何か(つまりタグ・ホイヤーとは何か)を再認識していったタグ・ホイヤー。タグ・ホイヤー カレラ1887 クロノグラフで原点回帰を果たした同社が、以降デザインの振り幅を広げられたのは当然だろう。確かに現在のカレラに、デザインの統一性はあまりない。しかしデザインコードに注目すれば、どのモデルも正統なカレラであることが、言わずとも理解できるのである。

タグ・ホイヤー カレラ 1887 クロノグラフ

(左上)オリジナル同様、秒表示をプリントした見返し部。サファイア風防をUV接着剤で固定するようになった現在、このリングは飾りでしかない。しかしタグ・ホイヤーは、このデザイン要素を最大限に生かして、ベゼルを細身に仕立てた。その結果、ドレスウォッチと見紛う繊細さを得ている。なお搭載するムーブメントに合わせて、表示は4分の1秒ずつに改められた。(右上)オリジナルと同様に内側を抉りとったラグ。(中)ケースサイド。基本的な造形は1963年モデルに同じだが、ラグが太くなったほか、リュウズの下には、ツメが入りやすいよう切り欠きが加えられた。またケースの磨きも極めて優秀だ。とりわけ近年のカレラは、製造工程を改めた結果、ケース面の歪みはほとんどなくなった。(左下)ガードが設けられたプッシュボタン。これはガタツキを抑えるだけでなく、防水性を高める効果を持っている。プッシュボタンの映り込みを見れば、ケースの磨きのレベルは容易に想像できよう。(右下)搭載するのは自社製のCal.1887。基本設計はSIIだが、4番車の受けに穴石が追加されたほか、自動巻き機構も変更された。パワーリザーブはやや短いが、信頼性は極めて高い。