A.ランゲ&ゾーネ/1815

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.09.19

1815 AUF/AB [Ref.234.021]
オットー・ランゲの遊星歯車を受け継ぐパワーリザーブ表示

1815 アップ/ダウン[Ref.234.021]
2013年初出。Cal.L051.1を全面的に改良してパワーリザーブ表示を追加した、Cal.L051.2を搭載する。私見をいうと、これが最も望ましい1815だ。手巻き。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KYG(直径39mm)。30m防水。274万円。

 旧型のアップ&ダウンは、遊星歯車を用いたコンパクトなパワーリザーブ表示システムを、テンプの上に据え付けた機構であった。そのコンパクトな設計は驚異的だったが、正直なところ、機構として完璧であったとは言い難い。パワーリザーブ表示機構に関して言えば、スペースはあればあっただけ、表示は正確になる可能性が高い。

 そうした点で、直径30.6ミリという大径のL051系は、付加機構を載せるには理想的な〝素材〟であった。加えてA.ランゲ&ゾーネは、偶然にも余白が生じたL911系(あるいはL941系)の設計を、L051系でも意図的に踏襲した。ムーブメントを見ると、香箱からガンギ車までの駆動輪列はほぼ一直線に置かれている。そのため香箱とテンプの間、そして丸穴車とガンギ車の間にはL911系以上のデッドスペースができる。そこにA.ランゲ&ゾーネは、オフセットした秒針を駆動する追加輪列と、パワーリザーブ表示機構を埋め込んだのである。手法自体はかつてのアップ&ダウンに同じだが、結果は劇的であった。

 大きなムーブメントサイズと、香箱横の大きな余白は、パワーリザーブ表示機構にゆとりのある設計をもたらした。結果、その表示精度はいっそう向上したのである。設計の巧みさでいうとかつてのL941系は魅力的だが、表示の正確さに加えて、駆動時間の長さや携帯精度の高さを考えれば、間違いなく新型に軍配が上がるだろう。

 A.ランゲ&ゾーネの美点は、新しいモデルほど中身が優れている点にある。それをはっきりと感じさせる点で、新しい1815アップ/ダウンほどの優れたサンプルは存在しない。これこそA.ランゲ&ゾーネ、そしてメイド・イン・ジャーマニーの在り方を体現した傑作である。

(左上)文字盤は、仕上げやデザインを含めて、既存の1815にほぼ同じ。ただし文字盤中心の凹みがわずかに浅くされ、立体感は抑えられた。理由は、やや太くなった1815のデザインを、再び細身に仕立て直したためだろう。こういう微妙なコントロールが、A.ランゲ&ゾーネの真骨頂である。(右上)お馴染みの青焼き針。なお文字盤からは「GANGRESERVE」の文字が省かれたほか、パワーリザーブ表示の一部が赤色に変更された。(中)ケースサイド。新しい1815に比べても、なおラグが短くされたことが分かる。加えてベゼル側面にスリットを加えたことで、シリンダーケース特有の間延び感が軽減された他、上から見るとベゼルが実寸以上に細く見える。(左下)パワーリザーブ表示と、オフセットしたスモールセコンドを持つL051.2。ムーブメントナンバーこそ同じL051系だが、設計は大きく異なる。パワーリザーブ機構を組み込むため、駆動輪列自体が右方向に傾けられ、それに伴いテンプの位置も12時方向に移された。また香箱と主ゼンマイの変更に伴い、パワーリザーブも約55時間から約72時間に延長されている。(右下)若干太くなったラグは、このモデルで再び細身に仕立て直された。とはいえ全長を抑えるため、ラグは短く切られている。この写真が示すように、ケースの磨きは極めて良い。



Contact info: A.ランゲ&ゾーネ Tel.03-3288-6639


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