ウブロ/ビッグ・バン[ウニコ&コンプリケーション編]

FEATUREアイコニックピースの肖像
2021.02.18

マニュファクチュールとしての進化を示す
自社製クロノグラフ〝ウニコ〟の熟成

2009年10月に、そのプロジェクトの一端が先行公開されたウニコ。多くのムーブメントサプライヤーが開発に参加しつつ、コンセプチュアルな次世代クロノグラフとして仕上げられた点に“ウブロらしさ”が光る。しかしそれ以上にウニコがもたらした成果は、マニュファクチュールとしての確固たる生産体制を確立させた点にある。

ビッグ・バン ウニコ ブラック&ホワイト
ビッグ・バン10周年を記念した日本限定モデル。ブラックステッチが施されたホワイトクロコダイル製のストラップがクールな印象を醸す。自動巻き(Cal.HUB1242)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti(直径45mm)。220万3200円。

ビッグ・バン ウニコ キングゴールド セラミック
18KゴールドにPtを添加したウブロの独自レシピ「キングゴールド」をケースに採用したウニコ搭載機。自動巻き(Cal.HUB1242)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18Kキングゴールド×ブラックセラミックス(直径45mm)。420万1200円。

 日本に〝ウブロ自社製ムーブメント〟の第一報がもたらされたのは2009年10月26日。この日、日経フォーラムの世界経営者会議に招かれたジャン-クロード・ビバー(当時CEO)は、その席上で「ウニコ・プロジェクト」の一端を明かし、同時にデタッチャブル脱進機の開発画像を開示している。翌10年のバーゼルワールドで正式発表されるウニコだが、この段階ではまだまだ開発の途上にあった。09年と言えば、6月にニヨンの本社社屋が落成したばかりで、マニュファクチュールとしての生産体制の確立と、R&D部門の拡充が急がれていた時期である。

 かつて本誌がウニコのインダストリアゼーションと熟成開発を担った同社ラボラトリーを取材した際に、その基礎設計は08年より遡ることはないらしいとの感触を得ていたが、さらに明確な解答が得られたのでお伝えしたい。新たな証言者となったのは、リカルド・グアダルーペである。12年からCEOを引き継ぐことになる氏だが、ウニコ開発当時はゼネラルマネージャーとしてプロダクトとマーケティングの両面に辣腕を振るっていた。言い換えれば、ウニコ開発を現場で指揮した人物である。その証言に拠れば、ウニコの基礎開発は07年から始まっていた。初期コンセプトは、オールドメカニズムを用いたモダンアプローチ。そして積算機構を文字盤側から見せること。この辺りは、いくつも残されているビバーの証言と完全に一致する。しかしグアダルーペの新証言に拠れば、モダンアプローチとは、当時の先進素材であったシリコンをムーブメントパーツに盛り込むことだったようだ。ウニコのシリコン脱進機は、開発過程で盛り込まれたものではなく、最初から意図されたものだったのだ。

ビッグ・バン ウニコ チタニウム ダイヤモンド
最も静謐な印象を与えるTiベゼルに、2ロウのブリリアントカットダイヤモンドをセット。Ti素材の持つマットな質感とのコントラストが秀逸だ。自動巻き(Cal.HUB1242)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti(直径45mm)。288万3600円。

ビッグ・バン ウニコ ブラックマジック
漆黒のセラミックスをケースとベゼルの双方に採用した、ウブロらしいブラックモデル。マットな質感が凄みを醸す。自動巻き(Cal.HUB1242)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。ブラックセラミックス(直径45mm)。227万8800円。

 自社によるR&Dの体制を確立させた現在のウブロにおいても、その上限は約80%に留められている。これは〝優れたR&Dには外部からの刺激が不可欠〟とする開発姿勢の表れである。ウニコの開発が緒に就いた07年当時と言えば、さらにその比率は大きかったはずだ。果たしてウニコの開発には、いくつかのサプライヤーが参加してのディスカッションが繰り返されたようだ。後にウブロの研究開発部門として吸収される旧BNBコンセプトを筆頭に、有力なサプライヤーたちが携わったようで、才気あふれる彼らとのパートナーシップが、後のウニコに結実してゆくことになる。

2009 First Rendering
2009年11月頃に公開された最初期のCGレンダリング。同様の脱進機が、09年初頭に完成したとされる“プロトタイプA”に搭載されている。ウニコの基礎開発は07年に開始され、ウブロ主導のもとで、多くのムーブメントサプライヤーが参加。なお、この時点では、シリコン製のガンギ車とアンクルを備えたユニット式脱進機という以外には、自動巻きクロノグラフを開発中という断片的な情報しかなかった。

2009 Prototype A
2009年初頭に完成した最初のムービングプロトタイプ。写真のグレールテニウム仕様の他に、ブラックルテニウム仕様も試作されたことが、本社ラボラトリー関係者の証言で明らかとなっている。しかし黒色の発色に問題があったようで、次段階の開発ステージ以降は、すべてブラックPVDに改められた。

 09年の初頭には〝プロトタイプA〟と呼ばれる初期試作型が完成し、ラボでのテストを経て、すぐさま〝プロトタイプB〟へと開発段階を移行。この時点での大きな改良点は、ペラトン式の巻き上げ機構のみ。プロトタイプAでは、ペラトン用のカムの駆動はカナを介するだけだったが、プロトタイプBでは、ローターに繋がる中間車と、それを出車状に支える受けを新設。以降、製品版までこの方式が踏襲されている。なお同社では、ウニコのラチェット式巻き上げ機構を「ペラトン式」と呼称するが、2本の巻き上げ爪による中間車の駆動がプル&プッシュ方式である点で、本来のペラトン式(=2本とも引き爪による巻き上げ)とは異なっている。構造的には「マジックレバー」や「マジッククリック」に近いが、両者と比較するならば、構成パーツの頑強さ(それこそペラトン式にも比肩しよう)に、独自性を見ることができる。

2010 Prototype B “R&D Version”
正式発表直前の2010年に製作された最終試作モデルで、生産性の向上に主眼が置かれたとされる。ペラトン式自動巻きのカム駆動方式が変更されており、ローターに繋がる中間車と専用の受けが新設されている。下はプロトタイプBをベースとした“R&Dバージョン”で、フリースプラング仕様も試みられていた。

2010 Production Model “Zero Series”
緩急針仕様のプロトタイプBは、ローターデザインを変更しただけで試作段階を終了し、すぐさま“ゼロシリーズ”と呼ばれる先行生産型300本が製作されている。このバージョンは2010年のバーゼルワールドで展示された他、ラボラトリーでの継続的なテストに使用された。

「キング・パワー」に初搭載されて、10年に正式発表されたウニコは、その年末からデリバリーを開始。ファーストロットで洗い出された改良点は、巻き芯を留めるオシドリバネの強化のみだったという。ウブロ初の自社製ムーブメントの成果は、まず工業的生産体制の確立と、的確なQCに結実したのである。

2011~ Production Model “Black”
2010年末〜11年にかけてファーストデリバリーされた、初期のプロダクションモデル。ゼロシリーズでは半透明のディスクを用いたカレンダー表示が、スケルトナイズされたものに置き換わっている。当初は写真のように、テンワがベリリウムカッパーの素材色だったが、現在はブラックコーティングされる。

2012~ Production Model “Grey”
2012年に追加されたグレールテニウムバージョン。テンワもグレーカラーにコーティングされていることが分かる。13年に登場した「ビッグ・バン ウニコ」には、主としてこちらのバージョンが搭載されている。カレンダーディスクのコーティング色には、搭載されるデザインに応じた差異が見られるようだ。