1997年に、ノーチラスの弟分としてリリースされたアクアノート。しかし、シンプルな2ピースのケースを持つこのモデルは、長らく、ノーチラスほどの注目を集めてこなかった。しかし、2007年以降、パテック フィリップはこのモデルにユニークなキャラクターを加えてきた。今や、ノーチラスとは異なる立ち位置を持つアクアノート。その全容を明らかにしたい。

アクアノート

吉江正倫:写真
広田雅将:取材・文
[連載第52回/クロノス日本版 2019年7月号初出]


AQUANAUT[Ref. 5065/1A]
ノーチラスにカジュアルさを加えた弟分

アクアノート Ref.5060/1A

アクアノート Ref.5060/1A
1998年に発表された新世代のスポーツウォッチ。ノーチラスと同じ12気圧の防水性能を与えるため、ベゼルとミドルケースを一体化させている。自動巻き(Cal.330 S C)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SS(10時〜4時方向の径35.6mm)。個人蔵。

 1990年代に入ると、パテック フィリップは若い層を意識したモデルをリリースするようになった。94年にはモダンなデザインに黒文字盤を合わせたRef.5000を発表。96年には傑作の年次カレンダー、Ref.5396を加え、そして97年にはスポーティーな「アクアノート」を発表した。

 すでにパテック フィリップは、12気圧防水を持つ「ノーチラス」をカタログに載せていたが、これは複雑な2ピースケースを持っていた上、デザインも万人向けとは言いがたかった。そこでパテック フィリップは、ノーチラスのデザインをベースに、ベゼルとミドルケースを一体化させた新しいスポーツウォッチを開発した。ラグ付きに改めた理由は明確だ。パテック フィリップは、このモデルを、高価なブレスレット付きではなく、手軽に使える、価格を抑えたストラップ付きとして売りたかったのである。その証拠に、アクアノートのファーストモデルにブレスレットモデルは存在しなかった。

 リファレンスは、1990年代に始まった5で始まるナンバー。今でこそほとんどのモデルがこのナンバーになったが、当時は、モダンなテイストを持つ時計にのみ与えられたリファレンスだった。また、パテック フィリップとしては珍しく、インデックスにはアラビア数字が多用されていた。おそらく、パテック フィリップは、この時計にカジュアルさを加えたかったのだろう。

 完成したアクアノートは大変魅力的だったが、わずか1年でディスコンとなった。理由は、ケースが小径に過ぎ、シースルーバックでなかったため、とされている。しかしパテック フィリップは、翌年にその後継機を発表。サイズ違いを加え、裏蓋をシースルーに改めた第2世代のRef.5065とRef.5066が、アクアノートの礎を築くことになる。

アクアノート Ref.5060/1A

(右)オリジナルのRef.5060にはステンレスブレスレットが用意されていなかった。しかしこの個体は、オーナーの趣味により、後継機のRef.5066用のブレスレットが加えられた。現代の水準からすると左右の遊びは大きいが、パテック フィリップらしく、感触は実に滑らかだ。なお、アクアノートを特徴付けるラグは、1997年のプロトタイプと比較して、わずかに短くなっている。(左)立体的な文字盤。スポーツテイストを強調するためか、ジェンタ針は廃されたほか、夜光も拡大されている。

アクアノート Ref.5060/1A

ケースサイド。ノーチラスは裏蓋と一体化したミドルケースに、ベゼルを被せる構造を持っている。対してアクアノートは、ベゼルとミドルケースをひとつにまとめ、ねじ込み式の裏蓋で防水性を確保する。ベゼルの「耳」を廃した理由は、おそらく、サイズを小さくするためだろう。

アクアノート Ref.5060/1A

(右)優れた装着感をもたらす、三つ折れのバックル。ただしこれはRef.5060のオリジナルではなく、Ref.5066のものである。(左)ソリッド式のケースバック。12気圧の防水性能を与えるため、裏蓋のパッキンはかなり厚めだ。ただし、シースルーバックでなかったのは不評だったのか、後継機のRef.5066/65ではサファイアクリスタル製のカバーが与えられた。