【80点】ハミルトン/カーキ パイロット パイオニア メカ クロノグラフ

FEATUREスペックテスト
2023.08.21

ハミルトン

アメリカで創業したハミルトンは現在、世界最大の時計製造グループであるスウォッチ グループに属するブランドである。ティソやサーチナ、ミドーと同様、魅力的な価格帯で高い品質のモデルを提供している。近年ではパワーリザーブを強化し、さらに進化したETA製ムーブメントを搭載している。すでに500本を超える映画で、ハミルトンの時計が登場している。


ハミルトン/カーキ パイロット パイオニア メカ クロノグラフ

エントリークロノグラフの実力派
魅力的なレトロデザイン、ミニマムな機能、デイリーユースに特化した仕様、信頼性の高い新型ムーブメント。エントリークラスのクロノグラフとして、すべてを満たす腕時計がここにある。

カーキ パイロット パイオニア メカ クロノグラフ

レトロな外観と、現代的なムーブメントを組み合わせた今回のテスト機。自動巻き機構と日付表示を省いた点は、愛好家からも評価される部分である。
アレクサンダー・クルップ:文 Text by Alexander Krupp
ハミルトン:写真 Photographs by Hamilton
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
Edited by Kouki Doi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年7月号掲載記事]

プラスポイント、マイナスポイント

+point
・魅力的なミリタリーデザイン
・装着感と操作性に優れる
・安定した精度
-point
・風防が反射する
・スティール製裏蓋が簡素

カーキ パイロット パイオニア メカ クロノグラフ

操作感についてもヴィンテージウォッチを彷彿とさせるカーキ パイロット パイオニア メカ クロノグラフ。主ゼンマイを巻き上げる際、コハゼのクリック感を楽しめる。

 レトロな時計に求められる機能とは何か? そして、何が許されているのか? オリジナルのヴィンテージモデルではアクリル風防だったのが、サファイアクリスタル製になってもよいのか? 手巻きが自動巻きになるのはどうだろう。今の時代、必須とされる日付表示についてはどうか?

 2022年に発表された「カーキ パイロット パイオニア メカ クロノグラフ」は、ヴィンテージウォッチの再現における正確性と現代化のバランスが素晴らしいモデルである。ふたつのインダイアルを備えたクロノグラフで、日付表示を廃したこの腕時計は、左右対称で整然としており、ハミルトンが1970年代に英国空軍に供給したパイロットウォッチを彷彿とさせる。当時のモデルと同じように手巻きのため、時計を巻き上げるたびに抵抗感が感じられるのも、機械式時計の愛好家にはたまらない点だろう。搭載されたムーブメントは最新式のもので、約60時間のパワーリザーブを保持し、衝撃や磁気、温度変化に影響を受けにくいシリコン製ヒゲゼンマイを備えている。風防は当時と同じくボックス型だが、傷に弱いアクリルではなくサファイアクリスタルが使用されている。

 アメリカで創業し、現在はスイスの時計ブランドとなったハミルトンは、こうして新旧さまざまな観点を織り交ぜることで、多くの特徴を備えると同時に、いくつかの機能を意図的に廃した腕時計を生み出した。自動巻き機構、時積算計、日付表示を必要とするユーザーは、よりモダンなモデルを選ぶだろう。だが、この現代的なレトロウォッチを購入するのは間違いなく、毎朝、大きくて扱いやすいリュウズを回すことに喜びを覚えるユーザーである。ストレートですっきりしたデザインの針により、日中でも暗所でも視認性は良好である。また、針と文字盤の蓄光塗料には、過去に使用されていたトリチウム夜光塗料を思わせるようなヴィンテージ感がある。

トランスパレントバックか? ソリッドバックか?

 唯一、議論を呼びそうな点は裏蓋の仕様だろう。シンプルなステンレススティール製の裏蓋に施された控えめなエングレービングは、初期の頃のミリタリーウォッチを彷彿とさせるものの、現代の好みからすると地味に映らなくもない。トランスパレントバックであったならば、着用時のレトロ感を損なうことなく、2021年からハミルトンがグループメーカーのETAから独占的に供給を受けているムーブメントを鑑賞することができただろう。装飾はオート・オルロジュリーのレベルではないが、ベースムーブメントであるETAのCal.7753のブリッジに代わって装備されたプレートには魅力的な模様が施されている。Cal.7753をさらに進化させ、ハミルトンではH-51-Siと呼ばれているCal.ETA A05.291は、バルジュー7750の堅牢な構造を受け継いでおり、定評のある汎用クロノグラフムーブメントが備えるすべてのメリットを享受することができるのだ。

Cal.H-51-Si

自動巻きや日付表示を意図的に廃したムーブメントだが、シリコン製ヒゲゼンマイや約60時間のパワーリザーブなど、新しい技術が採用されている。

 パワーリザーブやヒゲゼンマイの改良は、デイリーユースにおいて明らかな付加価値をもたらす。クロノスドイツ版が行ったウィッチ社製電子歩度測定器によるテストでは、平均日差がプラス4.8秒/日と良好で、最大姿勢差が2秒と極めて小さく、クロノグラフを作動させても数値はほぼ変わらず、精度にほとんど影響を与えないのが印象的だった。着用テストではプラス4秒/日で、この数値は毎日まったく変わらなかった。

 テスト中は2週間連続で着用した。この時計は手首に心地よくフィットするので、夜になっても外す必要を感じなかったためである。しかも、明るい場所では茶色っぽく見える蓄光塗料が夜間はまるでデジタル目覚まし時計のように緑色に明るく輝くことから、暗所では頼もしい計器になるだろう。

高い快適性

 快適な装着感は、ゆるやかにカーブを描くミドルケースと、心地よいサイズから生まれるものである。ハミルトンによると、直径を40mmとしているが、これはベゼルの直径を指しており、リュウズ側のケース側面も含めると直径42mmになる。コバ塗りとトリミングを施し、ヴィンテージ調に仕上げた幅22mmのカウレザーストラップは、屈強な外観とよく調和しており、ハミルトンの「H」をデザインしたツク棒を持つ独自の尾錠を持つ。

 ストラップの加工やデザインについては、この腕時計の本体と同じく高度に洗練されたものではないが、作りは秀逸で、ミリタリーの背景を持つレトロウォッチとの親和性が高い。すべての要素を鑑みると、29万3700円のカーキ パイロット パイオニア メカ クロノグラフは適正な価格設定と言えるだろう。ハミルトンの中では買いやすい価格帯には入らないが、最もエキサイティングな現行機のひとつであることは確かである。歴史にインスパイアされたデザインを好み、腕時計を毎日、手で巻き上げるという瞑想的な儀式を重視するユーザーにはぜひ、おすすめしたい。しかも、新型ムーブメントの恩恵により、巻き上げるのは実際、1日おきで十分なのだ。