【86点】ウブロ/ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルカーボン

FEATUREスペックテスト
2023.12.11

ウブロ

1980年に設立されたウブロは、色彩や素材の多様性を体現するブランドで、これまでコンクリート、オスミウム、サファイアクリスタル、SAXEMなど、30種類以上の素材を採り入れている。ラインナップは、アイコニックな「ビッグ・バン」、伝統的な「クラシック・フュージョン」、「シェイプド」と名付けられたシリーズ、そして、その多くが通常の丸型ではないケースを持つ「MP(マスターピース)」で構成されている。2006年、ウブロはブランド初となる、外装をブラックで統一した「オールブラック」を発表し、時計業界に波紋を呼んだ。ジュネーブ近郊のニヨンを本拠地とし、時計だけではなく自社開発ムーブメントの製造もここで行う。


ウブロ/ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルカーボン

最新技術が生む眼福の一本
ウブロはケースだけでなくブレスレットにも、初めてテキサリウムとカーボンを組み合わせた複合材料を採用した。シルバーに輝くこのハイテク素材は、最新の技術を駆使した自動巻きトゥールビヨンとともに、刺激に満ちた審美性を演出する。

ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルカーボン

リュディガー・ブーハー:文 Text by Rüdiger Bucher
ウブロ:写真 Photographs by Hublot
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
Edited by Chieko Tsuruoka
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]

プラスポイント、マイナスポイント

+point
・エキサイティングなデザイン
・非凡なムーブメント
・心地よい装着感

-point
・炭素繊維で出来たブレスレットのコマの一部に凹凸があるように見える

  幼い頃、私はいつも金メダルを獲得した選手を気の毒に思っていた。銀の方がずっと美しいと思っていたからである。白くきらめく輝き、その素材が放つ純粋さに引かれていた。後に金の方が価値があることを知ったが、初めて見た時から今日まで、私は銀の輝きに魅了され続けている。

 ウブロの「ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルカーボン」に一目ぼれした理由に、幼少期のこの「刷り込み」もあるのかもしれない。ケースとブレスレットがこのように美しく銀色に輝く腕時計は、ほとんど見たことがない。しかも、シルバー製ではないのだ。もっとも、今日、銀時計にお目にかかる機会は稀だが、この腕時計はステンレススティール製でも、ホワイトゴールド製でも、プラチナ製でもない。この比類なき輝きは、金属とは無縁の素材によって生み出されているのだ。ただし、ナノスケールで言えば、この腕時計にも実際、金属が使われている。それについては後ほど触れてみたい。

奥深くまで観察できるムーブメント

ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルカーボン

サファイアクリスタル製トランスパレントバックから見ると、スケルトン加工の地板がデザインにアクセントを添えているのが分かる。

 外観に劣らずエキサイティングなのがフルカーボンの外装に包まれた内部機構である。テストウォッチに搭載されている自社製ムーブメント、キャリバーHUB6035はまさに絶景だ。6時位置で回転するのはミニッツトゥールビヨン。トゥールビヨンを支えるブリッジはサファイアクリスタル製で、ほぼ見えないことから、トゥールビヨンが回転し続ける様子や、高速で振動するテンプ、そしてアームを存分に観察することができる。ケース内周の左右にもそれぞれ、幅の広いサファイアクリスタル製ブリッジが取り付けられており、このブリッジには、あたかもムーブメントの手前に浮いているように見える6本のアワーマーカーと、黒いミニッツスケールが取り付けられている。

 ミニッツスケールは、トゥールビヨンとマイクロローターを配置するスペースを確保するため、一部、途切れている。マイクロローターは6時位置のトゥールビヨンに対するデザイン上のカウンターパートとして12時位置に配置され、巻き上げられたエネルギーはその真下にある香箱に伝えられる。主ゼンマイは大型で、約3日分のエネルギーを蓄える。輪列はマイクロローターとトゥールビヨンの間に配されており、リュウズから中央に向かうラインには、時刻合わせのための機構、その上の左端には巻き上げ機構が見える。手で巻き上げると、最後の角穴車駆動車が角穴車と噛み合い、香箱が回転し始める様子を裏蓋側からはっきりと観察することができる。

 ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルカーボンでは、風防側、裏蓋側、どちらからもムーブメントの奥深くまで存分に観賞することができる。地板にもスケルトン加工が施されていることから、十分な視野を確保することができると同時に、デザイン上の特徴にもなっている。個人的には、地板の肉抜き部分が大きすぎず、視界がわずかに制限されている点も好ましい。手首に装着した時に、肌が透けて見えない方が腕時計は美しく見えるからだ。

68gという軽さ

ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルカーボン

ケースだけではなく、ブレスレットのコマのひとつひとつからも炭素繊維の構造がよく見える。

 この腕時計を手にすると、まずはその軽さに驚かされる。装着していることを忘れてしまいそうなほど軽いのだ。腕時計のフィット感もさることながら、容易に操作できるダブルフォールディングバックルも圧迫感がまったくない。ウブロの提示する68gという重量は、我々の行ったテストでも確認することができた。この軽さは、ケースバック、バックル、リュウズにチタンを使用することに加え、ケースとブレスレットをカーボン素材とすることで実現したものである。

 レーシングカーだけでなく、長年、高級時計にも使用されてきた通常のカーボンは、ダークグレーからブラック寄りの色調である。カーボンは染色できない。カーボンは多数の細かな炭素繊維で構成されており、それらが集まってカーボンロービングと呼ばれる繊維の束を形成している。カーボンファイバーは織機で織られ、カーボンクロスになる。ベゼルなどのケース部品を作る場合は、カーボンクロスを何層にも重ねて特殊な金型に入れ、エポキシ樹脂と呼ばれる特殊な接着剤を加えて約1300℃で加熱する。その後、機械で加工して最終的な形状に仕上げていくのだが、こうして出来た素材は堅く、切削工具がすぐに摩耗してしまうことから、その製造には極めてコストがかかる。これは、カーボン製の腕時計が高額な理由のひとつでもある。

 カーボンは軽量ながらも非常に堅く、耐衝撃性が高いため、フォーミュラ1カーなどのレーシングカーには最適な素材である。この素材が腕時計に使われるようになって久しいが、レースへの憧憬や素材そのもののデザイン性がその理由だろう。

 ウブロは、長らくカーボン製部品を調達していたメーカーを自社に統合して以来、この素材については豊富なノウハウを備えている。そして、カーボンに色彩を付与する独自の手法を編み出したのである。

テキサリウムがもたらす色彩美

ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルカーボン

通常は裏蓋側からのぞくマイクロローターが、文字盤側の12時位置から観賞できる。

 ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルカーボンが銀のように輝き、そして色彩美を備えている秘密は、金型で加熱する際、カーボンファイバー層の最上層にテキサリウムという別の素材を使用するというものである。特筆に値するのは、経年とともに剥離する可能性があるテキサリウムコーティングではなく、ひとつの構成部品としてふたつの素材が一体化されている点である。ベゼルやブレスレットのコマを横から見ると、黒いカーボン層の上部にシルバーのテキサリウムの層が重なっているのがよく分かる。

 テキサリウム自体はアメリカ・カリフォルニアのHexcel社が開発した素材で、ガラス繊維強化プラスティックの表面にアルミニウムを薄く蒸着させたものである。冒頭で触れたテストウォッチに使われている金属とは、このアルミニウムのことである。ただし、アルミニウム層の厚さはわずか200オングストローム(1オングストローム=1000万分の1㎜=10分の1ナノメートル)なので、いずれにしてもナノスケールの世界である。使われている量はごく微細とはいえ、このアルミニウム層が光を極めて強く反射することで、テストウォッチに見られるようなきらめきの効果、そして色彩美をもたらしているのだ。

ボックスを開けた時の驚き

 テストウォッチをボックスから取り出した後、真っ先にムーブメントを文字盤側と裏蓋側の両側から観察してみた。その後でケースとブレスレットをじっくりと観察していた時、あるものが目に留まった。4つあるラグのうちのふたつのエッジ部分に、素材のほつれのように見える箇所があったのだ。さらに、ブレスレットを構成する70個のコマの一部にも凹凸があるように見えた。ルーペで見てみたが「ほつれ」は見つからない。

 ここで、この素材はコーティングされたものではないことを思い出す。ルーペを通して見えたのは、炭素繊維の端が開いている部分だったのだ。当然のことながら、凹凸が生まれるので光の反射も違ってくる。テキサリウムとカーボンの複合材料からケースやブレスレットを製造するのがいかに難しいかを知っていれば、ウブロの加工技術の高さを評価するだろう。だが、そうした知識を持たずに純粋にエッジを観察するならば、ところどころ直線ではないラインが気になるかもしれない。ウブロが今後、製造工程をどのように改良していくか、楽しみなところである。

 歩度測定器を使用した精度テストでは、垂直姿勢で生じる不均衡をトゥールビヨンがいかに補正しているか、はっきりと見ることができた。4つの姿勢はすべて同値だったのである。テストウォッチはプラス寄りに調整されており、水平姿勢で日差が大きかったこともあって、平均日差はプラス8秒/日だった。着用テストでも同じような結果で、4日後の日差は約30秒だった。

結論

 ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルカーボンでウブロは、自身の哲学を忠実に踏襲している。今回も、センセーショナルな素材と非凡な外観で、特別なものを求め、それを手に入れることのできる時計愛好家を驚かせた。近い将来、別のモデルでテキサリウムが使用され、そのシルバーの輝きをさらに楽しめる日が来るかもしれない。