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IWC/ポルトギーゼ・オートマティック(1/1) 2015年09月号(No.60)

IWC Portugieser Automatic

ポルトギーゼは時計デザインにおけるアイコン的存在である。
約7日間のパワーリザーブを備えたムーブメントの
精度と耐摩耗性をより高めるため、
IWCは自社製ムーブメントに抜本的な改良を加えた。
クロノスドイツ版編集部が
この古典的名作を分解し、検証を試みる。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
www.photo-krueger.de: 写真 Photographs by www.photo-krueger.de
岡本美枝: 翻訳 Translation by Yoshie Okamoto

point
・素晴らしいデザイン
・ロングパワーリザーブ
・作り込みが極めて秀逸

point
・高額

 

今回テストで使用したステンレススティールケースのブルーインデックスモデル。
そのほかにも18Kレッドゴールドケースやブラックダイアルなど、全5種類のモデルが用意されている。

古典的名作のさらなる進化形

リンクロノメーターの精度を備えた大型腕時計という海軍将校からの注文を携え、ある日、ふたりのポルトガル人時計商がIWCを訪れた。その要望に応えるべく、直径が38㎜を超える懐中時計用ムーブメント74H4を直径41・5㎜という、これも大型のステンレススティール製ケースに収めてIWCが提供したのは1939年のことである。「ポルトギーゼ」と名付けられたこの時計には、スモールセコンドを6時位置に配した手巻きムーブメントが搭載され、レイルウェイミニッツトラックとアラビア数字で構成される整然とした文字盤が与えられた。世の男性が可能な限り小さく、エレガントなドレスウォッチを身に着けていた当時、ポルトギーゼは手首の上で、さぞかし未知の機能を備えた計器のように映ったことだろう。それを反映するかのように初代モデルの生産本数は少なく、数百本作られた後、1958年に生産が終了してしまう。

長い沈黙の後に訪れた成功

 IWCがポルトギーゼを特別限定モデルとして復活させた1993年、ようやく成功が訪れる。この時も、搭載されたのは懐中時計用ムーブメントであった。時計愛好家は歴史的モデルの再来を歓喜して迎えた。2000年になると、大型の腕時計が流行し始める。この潮流を受け、5年もの開発期間を経て誕生した自社製ムーブメントを搭載するモデルに、IWCはポルトギーゼを選んだ。2000年に2000本限定で発売されたポルトギーゼ・オートマティックの内部では、7日間ものパワーリザーブを備え、3時位置にパワーリザーブ表示、9時位置にスモールセコンドを配した自社製自動巻きキャリバー5000が時を刻んでいた。直径38・2㎜のキャリバー5000は当時、世界で最も大きな自動巻きムーブメントであった。小型時計に転用できないことを考えれば、大型のムーブメントを開発することは極めて勇気ある一歩だったことだろう。大型腕時計のトレンドが終わってしまっていたのなら、このムーブメントは活躍の場を失っていたかもしれないのだから。だが、歴史はこれとは異なる道を進み、ポルトギーゼ・ オートマティックに大きな成功をもたらした。
 自社製キャリバー5000で、IWCはブランドの誇る伝統技術を復活させた。ペラトン自動巻き機構である。1950年代初頭、当時、IWCの技術部長だったアルバート・ペラトンは、巻き上げ爪を利用した巻き上げ機構をキャリバー85のために開発した。こうして、キャリバー85は信頼性の高いエンジンとして伝説を築くことになる。キャリバー5000の場合は設計当初からすでに、ブレゲ式エンドカーブを持つヒゲゼンマイが与えられることが決まっていた。
 2004年には、ポルトギーゼ ・オートマティックが非限定でリリースされた。6時位置に日付表示が加えられたこのムーブメントは、1桁多い、キャリバー50010と命名された。キャリバー50010では、ローターブリッジの構造に手が加えられた。2005年にはすでに、キャリバー50010を基にキャリバー51010が開発され、緩急針と偏心ネジで時刻の進み/遅れを微調整する代わりに、テンワに取り付けられた重さ補正ネジで歩度調整が行われるようになる。ヒゲゼンマイはこうして、規制なく自由に振動できるようになり、振動数も1万8000振動/時から2万1600振動/時に引き上げられた。これらふたつの対策が講じられたことで、精度はさらに向上した。2008年には歯型が最適化され、香箱はルビーの受け石ではなくベリリウム銅製の軸受けで支持されるようになった。これにより、受け石の数が44石から42石に減り、キャリバー名は51011に変更された。そして2013年初頭、摩耗のさらなる軽減を目指し、ペラトン自動巻き機構にいっそうの改良が加えられた。ベリリウム銅製だった巻き上げ爪は白いセラミックス製となり、巻き上げ車には洋銀に代わり、焼き入れを行って硬化させたスティールが使用された。
 驚いたことに、白いセラミックスをプラスチックだと思った愛好家も中にはいたようである。それだけでなく、このムーブメントには実際、まだいくつかの弱点があった。大型で重たいローターと、約7日間のパワーリザーブを生み出す香箱を巻き上げるのに必要な巨大なパワーによって、ムーブメント内部に大きな摩擦が生じ、パーツが著しく摩耗する可能性を有していたのである。
 IWCは、2015年のS.I.H.H.でさらに抜本的な改良点を発表した。この大変革に伴ってキャリバー52010と命名された新型ムーブメントでは、パーツの3分の1が元のままで、3分の1が設計し直され、残りの3分の1に改良が加えられた。

 

良好な眺め。ローターと地板はスケルトナイズされ、内部機構の多くを見ることができる。

分解

まず気づくのはローターのデザインが変わった点だ。プローブス・スカフージアと刻印されたゴールドのメダルが少し小さくなり、ローターのアーム部分は透かし細工のようにくり抜かれているため、下にある機構を以前よりも多く見ることができるようになった。ローターは、面取りを施したエッジと美しい骨格により、より立体的に見え、ゴールドプレート仕上げのメダル、浮き彫りの文字、メダルを中心に広がるサンバースト模様によって、ローターは見る人を飽きさせない仕上がりとなっている。
 先代ムーブメントのローターと新型のローターをはかりに載せて比較してみると、新型が5・02gと、旧型よりも0・65グラム軽くなっていることが分かった。これは、約13%の軽量化を意味する重要な改良点である。これまで、重たいローターでローター真が折れ、ポルトギーゼが工房に戻ってくることが時折あったからである。ローターの軽量化により、こうした事故は今後、起こりにくくなるだろう。
 ローターブリッジは、完全に新しいレイアウトになり、くり抜かれたいくつかの開口部から、その下の香箱や歯車がよく見える。エッジは面取りされているが、ポリッシュ仕上げは施されていない。もう少し手を掛けていたならば、より美しかったことだろう。円状のコート・ド・ジュネーブはローターブリッジによく似合う。

分解されたスタイルアイコン。これらは、ポルトギーゼ・オートマティックの構成部品のほんの一部に過ぎない。

ぺラトン自動巻き機構

 ここでようやく、新型ムーブメントのハイライト、ペラトン自動巻き機構が姿を現す。機能はいたってシンプルだ。ローラーを2個備えたロッキングバーがローターに取り付けられたハートカムを挟み込むかたちになっており、ローターが回転するとそのハートカムによってロッキングバーが左右に動かされ、ロッキングバーに取り付けられたふたつの巻き上げ爪が巻き上げ車の歯に噛み合う。ロッキングバーがどちらの方向に傾いても、巻き上げ爪のいずれかが巻き上げ車を回転させるので、効率的に主ゼンマイを巻き上げられるようになっている。
 巻き上げ爪と巻き上げ車にハイテクセラミックス(酸化ジルコニウム)が採用されているのも新しい点である。ハイテクセラミックスは極めて摩耗に強い素材である。したがって、この部分に関しては、摩耗の心配はほぼなくなったと言っても過言ではない。ルビー製のローラーに取り付けられたピンにも改良が加えられた。このピンは、これまでは摩耗の著しい部品だったが、焼き入れ処理を施すことで硬化させたことから、それほど頻繁に交換しなくても済むようになった。また、新作では黒く輝くブラックセラミックスが使用されているため、以前のようにプラスチックと間違われることもないだろう。酸化ジルコニウムのハイテクセラミックスはローター軸受けにも採用されており、摩耗の軽減に貢献している。
 IWCは、ムーブメントの心臓部にもメスを入れた。テンプの振動数は2万1600振動/時から2万8800振動/時に引き上げられ、ふたつになった香箱が約7日間のパワーリザーブを叩き出す。これらの改良点は、いずれかを行うだけでも、ムーブメントを一から設計し直す必要があるものだ。必要なスペースとパーツ同士の位置関係を根本的に見直さなければならないのがひとつめの理由で、もうひとつの理由は、振動数を変えることで輪列のギヤ比を変えなければならず、歯車の大きさが変わるとムーブメント内での輪列の配置を変更しなければならないためである。両者を同時に敢行した背景には、精度をさらに向上させたいという、IWCの強い意志が感じられる。精度の向上にツインバレルは欠かせない。たったひとつの香箱で約7日間という長いパワーリザーブを確保しようとすれば、フル巻き上げ時とゼンマイがほどけた状態とでは、必然的に大きなトルク差が生じ、結果として振り角も大きく落ちて精度も下がる。ツインバレルであれば、このトルク差は約半分になる。
 歩度測定機で計測した結果、ツインバレルの採用が正解だったことが明らかになった。完全に巻き上げた状態から5日後の振り落ちは30度だったが、この程度なら許容範囲内だろう。いずれにしても、このムーブメントでは水平姿勢から垂直姿勢に変わった時の振り落ちが45度と、かなり大きいため、これ以上の振り落ちは精度に著しい悪影響を及ぼす。日差はフル巻き上げ時でプラス1秒/日からプラス8秒/日の間で、完全に巻き上げてから5日後の精度は0秒/日からプラス12秒/日の間と、安定していた。
 実際、約7日間というロングパワーリザーブは、ポルトギーゼ・ オートマティックを長期間、放置しておかない限り、必要ないだろう。この時計のパワーリザーブ表示は、オフィスでデスクワークをしているだけでもフル状態のままほとんど変わらない。巻き上げ効率がいかに秀逸かを物語っている。

 ムーブメントをさらに分解していくと、下側にあるパーツには装飾が施されていないことが分かった。残念ながら、今やここまで装飾を施すブランドはほとんどないと言っても過言ではないが、IWCも例外ではないようだ。ストップセコンドレバーなど、打ち抜き加工という性質上、美観に劣るパーツがある一方で、ポリッシュで美しく仕上げられたネジ頭が混在するなど、全体像として一貫性に欠ける感もあるが、外側から見える部分のパーツが丁寧に装飾されているのは好印象である。
 調速機構も改善されている。ヒゲゼンマイはブレゲ式エンドカーブを備え、緩急針がないことから、自由に振動することができる。微調整はテンワに取り付けられた4個の重さ補正ネジで行う。重さ補正ネジはネジ頭が四角形なので、IWCのサービスセンターには特別なツールが用意されている。
 日付調整機構も特筆に値する。摩擦を最小限に抑えるため、地板にフライス加工で削り出した細いレールの上を日付リングが回転するように設計されている。日付リングは、太い螺旋のような形状の切り替えカムでひとつ先に送られ、日付が瞬時に切り替わる。切り替えカムはその前方の部分で、板バネで留められたディスクをひとつ先に切り替えるパワーが蓄えられるまで日付リングの突起を押さえ続ける。また、スプリングの効いた切り替えカムは反対方向にもスリップできる構造になっているので、機構を損傷することなくいつでも日付を早送りすることができる。

格段に向上した耐摩耗性。IWCは、ブラックセラミックスを投入することで、ペラトン自動巻き機構の摩耗を軽減した。

ペラトン自動巻き機構の素材は、3世代にわたって改良されてきた。
右から、2005年、2013年、2015年版の巻き上げ爪と巻き上げ車。

よりシンプルに

ムーブメントを進化させるにあたり、IWCは構造の簡素化を目指した。その一例がローターである。以前は小さなネジでローターに固定されていたが、新型ムーブメントではリベット留めになった。簡素化の一環として、受け石の数も42個から31個に減っている。これは有意義な決断である。なぜなら、簡素化は通常、機能性の強化にもつながり、故障や不具合も減るからである。ネジの数が減れば、緩んで不具合の原因となる数も少なくなるのは言うまでもない。
 ローター、ブリッジ、輪列、テンプ、香箱と、順に取り外した後に残るのは、ムーブメントの全面を覆うような2枚の薄い地板である。ここには、秒針位置合わせメカニズムと巻き上げ機構の大部分、そして、パワーリザーブ表示機構を構成する驚くべき数の歯車が収められている。2枚の地板を外すと、ムーブメントはついにネジの最後の1本まで分解されたことになる。我々は改めて、広範囲に及ぶモディファイと、数多くの改良点に感銘を受けた。
 一方、ケースはあまり改良されていない。そもそも、改良すべき理由がほとんどないのだ。ラグにはわずかに手が加えられ、バネ棒には緩やかなカーブが与えられた。大型腕時計では時折、手首の上でぐらつくものもあるが、ポルトギーゼは滑らず、着用感は非常に快適だ。ケース径42・3㎜のポルトギーゼは、サイズの上では今日、それほど大型とは言えなくなったが、大きな風防、小さな数字、そして、フラットな文字盤が故に、大きな印象を与える。
 レイルウェイミニッツトラックや、レコード盤のような溝を施したシンメトリックなサブダイアル、アプライド型のアワーインデックス、そして、ほっそりとしたリーフ針による均整の取れた文字盤は、まさにポルトギーゼの顏であり、時計愛好家を魅了してやまないスタイルアイコンである。シルバーカラーの文字盤と、ブルーカラーの針とインデックスはコントラストが抜群で、十分な明るさが確保されている限り、視認性も素晴らしい。エレガントなポルトギーゼ ・オートマティックには蓄光塗料が塗布されていないのだ。
 ケースは一見、シンプルだが、隅々までディテールへのこだわりを感じさせる仕上がりである。ケース側面にはサテン仕上げが施され、ポリッシュで仕上げられた凹状のベゼルを備えている。ベゼルの様式はポリッシュ仕上げの美麗なケースバックにも再現されており、周りが凹状の溝で囲まれている。加工のレベルは高く、ポリッシュ仕上げは非常にクリーンで、加工の痕跡はまったく見当たらなかった。
 作り込みの良さはアリゲーター・ストラップにも当てはまる。ミシンで丁寧にステッチがかけられた切り目仕上げのストラップは、表面の塗りが美しい。フォールディングバックルは、サテン仕上げの面とポリッシュ仕上げのエッジがケースとよくマッチしていて、機能においてもIWCで長年、その実力を証明してきた。
 フォールディングバックルは開閉操作が簡単で、外れにくく安全に腕に留まる。時刻合わせは、ねじ込み式ではない大きなリュウズ、ストップセコンド機能、日付早送り調整機能により、簡単かつ正確に行うことができる。
 ポルトギーゼ・オートマティックの弱点をあえて挙げるなら、ステンレススティールモデルでも145万円するという価格だろう。約7日間のパワーリザーブを備えたムーブメントがいかに秀逸で、加工に非の打ちどころがないにしても、かなりの高額である。いかにムーブメントが改良されたとはいえ、ポルトギーゼ・オートマティックがかなり高額な印象を与えることは否めない。
 価格に驚かない覚悟があれば、IWC史上、最も優れたポルトギーゼ・オートマティックを手にすることができる。シンプルな美しさはそのままに、古典的名作は強化された自社製ムーブメントを搭載することで、手首のためのスタイルアイコンへと、さらなる進化を遂げたのである。

美しく実用的なフォールディングバックルは操作が簡単で、アリゲーター・ストラップには均等に斑が入っている。 

技術仕様
IWC/ポルトギーゼ・オートマティック

製造者: IWC
Ref.: IW500705
機能: 時、分、スモールセコンド(ストップセコンド仕様)、日付表示、パワーリザーブ表示
ムーブメント: 自社製キャリバー52010、自動巻き、2万8800振動/時、31石、日付早送り調整機能、耐震軸受け(インカブロック使用)、グリュシデュール製テンワに取り付けられた重さ補正ネジによる緩急調整、パワーリザーブ約7日間、直径37.8mm、厚さ7.5mm
ケース: ステンレススティール製、両面反射防止加工を施したドーム型サファイアクリスタル製風防、サファイアクリスタル製ねじ込み式トランスパレントバック、3気圧防水
ストラップとバックル: アリゲーター・ストラップ、ステンレススティール製フォールディングバックル
サイズ: 直径42.3mm、厚さ14.5mm、重量103g
バリエーション: 18Kレッドゴールド製ケース(269万5000円)
価格: 145万円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T0/T120の日差  秒/日、振り角)

  フル巻き上げ時(T0)  5日後(T120)
文字盤上 +2 +3
文字盤下 +2 +4
3時上 +8 0
3時下 +1 +12
3時左 +5 +6
3時右 +4 +6
最大姿勢差: 7 12
平均日差: +3.7 +5.2
平均振り角:    
水平姿勢 313° 282°
垂直姿勢 268° 237°


評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 9pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 8pt.
デザイン(15pt.) 15pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 8pt.
ムーブメント(20pt.) 18pt.
精度安定性(10pt.) 7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 10pt.
合計 84pt.

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