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オリス/ビッグクラウン プロパイロット アルティメーター(1/1) 2015年07月号(No.59)

ORIS Big Crown ProPilot Altimeter

機械式高度計を搭載したパイロットウォッチ。
クロノスドイツ版編集部は、
オリスが開発したこのセンセーショナルな腕時計を
アルプス山脈の上空でテストする。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
ニック・シェルツェル、watch-insider.com: 写真 Photographs by Nik Schölzel, watch-insider.com
岡本美枝: 翻訳 Translation by Yoshie Okamoto

 
point
・良好なコストパフォーマンス
・簡単に調節できるストラップ
・有意義な付加機能

point
・ケースがかなり厚い
・高度測定時に防水性が失われる

クロノスドイツ版が今回のテストで使用したセスナ182が離陸を待つ。 

ュヴァーベン地方、ギュンツブルクにある飛行場に車で到着した時、幸いにも地面はまだ凍結していた。芝生の上に敷かれた短い滑走路は、凍っていなければかなり軟らかく、我々が乗り込む4座席のセスナ182が浮上するのに十分な速度が得られないからだ。

今回のテストウォッチ、オリスのビッグクラウン プロパイロット アルティメーターで航空高度を正しく測定するには、離陸前にいくつか準備しておかなければならないことがある。まずは、気圧の設定である。ビッグクラウン プロパイロット アルティメーターの高度計は気圧を利用することで作動する。気圧は天候に左右されることから、測定を開始する時点の気圧をヘクトパスカルで設定しておく必要がある。気圧設定は4時位置にあるリュウズで行う。このリュウズを回してねじ込みを解除すると、内部の気圧計に空気が届く。この時、時計は防水性を失った状態になるが、ユーザーがそれを忘れないように、4時位置のリュウズの付け根には赤いリングが現れる。リュウズをさらに引き出して回し、現時点での気圧を6時位置にある赤い三角形に合わせれば、スタート時の気圧が設定できる。飛行場の高度が分かっていれば、離陸前に黄色い針をスタートポイントの高度に合わせておく方法もある。通常、飛行場の高度はフィートで表示されるので、我々も高度計を1460フィートに設定した。これは445mに相当する。この後、ねじ込みを解除したポジションまでリュウズを押し込めば、準備は完了だ。
今回のテストには、フィートスケールを搭載したモデルを選んだ。フィートは航空高度を表す際に世界的に使用される単位であり、フィート表示の方がセスナに装備されている高度計とビッグクラウン プロパイロット アルティメーターの表示を比較しやすいからである。もちろん、オリスはメートルスケールを搭載したタイプも提供している。登山者やスキーヤー、また、パイロット以外の愛好家には、メートルスケールのタイプの方が使いやすいだろう。ビッグクラウン プロパイロット アルティメーターは、パイロットウォッチとしての遺伝子を名乗っているだけではなく、パイロットのための計器でもあることをひと目で認識できるモデルなのだ。

オリスのアルティメーターは、コックピット内の計器と見事に調和する。4時位置には高度計の設定用リュウズが追加装備されている。

いよいよプロペラを始動させ、離陸ポジションまでセスナを移動させる。飛行前点検でもう一度、セスナに装備されている高度計と時計の高度計の表示が一致しているかどうか確認する。フルスロットルにするとコックピット内にエンジン音が響き渡り、長さ580mの芝生の滑走路をセスナが疾走し始めた。冬にしては珍しく天候に恵まれ、遠方への眺望も素晴らしく、離陸直後には約100㎞離れたアルプス山脈を一望することができた。我々は高度を5000フィート(約1500m)まで上げた。オリスの高度計は、セスナに装備された高度計よりもやや遅れて実際の高度を表示する。レスポンスの遅れはおそらく、時計の気圧計がセスナのものよりもずっと小さいことによるものだろう。基本的に、作動原理は両者とも同じである。薄いシートメタルでできた密閉ケースが気圧によって圧縮され、その圧力がレバーと歯車を介して針に伝わり、針が動いて高度を表示する仕組みである。
ビッグクラウン プロパイロット アルティメーターの高度計に採用されている技術はもともと、スイス・ヴァルデンブルクの航空機用計器の専門メーカー、トーメン社が開発したものである。ヴァルデンブルクのトーメン社は、ヘルシュタインにあるオリス本社から5㎞しか離れていない。ネジを外して裏蓋を開けると、気圧計を見ることができる。この状態から、高度計を固定する3本のネジごと、高度計を取り出すことができる。高度計を取り外すと自動巻きムーブメントが姿を現す。ムーブメントは、4本のアームでリングに固定されている。アームの1本は、リュウズの真を隠すために幅がやや広くなっている。

9200フィートの上空でふたつの高度計を比較する。2800mの上空でもオリスの高度計はセスナに備え付けの高度計と表示が一致した。

イノベーションの数々
文字盤外周で航空高度を表示する精巧な構造はオリスの特許技術である。だが、この構造にはデメリットもある。それは、高度計が作動している間、時計の防水性が失われ、空気と湿気がムーブメントまで浸入する危険性がある点だ。これを回避するため、オリスはケース内部のリュウズ用の穴の後ろ側に機能性膜を取り付けた。通気性のある防水布と同様、空気を通すが湿気は通さないこの機能性膜も、オリスの特許技術である。リュウズをねじ込んだ状態では、ビッグクラウン プロパイロット アルティメーターは100mの防水性を備えている。
特許を取得しているイノベーションはこれだけではない。高度計に使用されている極めて軽い針もオリスの特許技術である。この針はカーボンファイバー複合材で出来ており、非常に動きやすく設計されているが、振動にはほとんど反応しないのが特徴である。

裏蓋を外すと機械式高度計の気圧計を見ることができる。4時位置の高度計設定用リュウズを引き出すことで、内部の高度計に空気は触れさせても湿気の浸入を阻止するため、オリスはケース内の高度計設定用リュウズの穴の部分に、空気は通すが湿気は通さない機能性膜を採用した。

飛行術ではさまざまな約束事があるが、5000フィート(約1500m)に達した時点で、安全上の理由から、装備されている高度計を大気圧の国際基準である1013ヘクトパスカルに規正しなければならないこともそのひとつである。これ以上の高度になると、複数の航空機の飛行高度を明確に区別するために、フィートではなくフライトレベルで表現される。つまり、標準気圧に切り替えると5000フィートは「フライトレベル50」と表示されるのだ。これは、航空機の衝突事故を防止するための規定である。それぞれの出発地の気圧が極端に異なる場合は離陸前の設定気圧が異なることから、航空機の高度計がそれぞれ異なる高度を示し、フィート表示のままでは2機が誤って同じ高度に滞在する可能性が生じてしまうためだ。フライトレベルは航空機に装備されているトランスポンダーによって伝送され、航空機はこれに応じて他機を回避するか、航空管制官から適切な高度の指示を受ける。

空中での衝突を避けるための対策は他にもある。計器飛行方式で飛行する航空機はフライトレベル60、70等を利用し、有視界飛行方式ではフライトレベル65、75等が利用される。これで、1機が他機の行く手をさえぎる事態が発生しないようになっている。さらに、有視界飛行方式による飛行の場合は、10の位が奇数のフライトレベル(FL55やFL75等)は東、10の位が偶数のフライトレベル(FL65やFL85等)は西、というように飛行方向が定められている。これによって、2機が正面すれすれで遭遇する危険を回避することができ、パイロットの注意力が低下した場合や視界が悪い場合に、2機が超高速で接近し、あわや衝突という事態を防ぐことができるのだ。
というわけで、セスナの高度計と同時にオリスの高度計の設定も切り替えることにしよう。文字盤と外周リングの間の一段、深くなった場所に配されている気圧スケールには鮮やかな赤い三角形があり、フライトレベルを示す「FL」が記されている。これを6時位置の赤い三角形の下まで動かすだけでよい。細くて小さな気圧スケールだが、飛行中に振動があっても、簡単に切り替えることができるのはありがたい。
そうこうしている間に、セスナはうっすらと雪の積もったメミンゲンとケンプテンの上空を越え、アルプス山脈が目前に迫っていた。我々は、フライトレベル105まで高度を上げた。これは、高度約1万500フィートあるいは3200mに相当する。太陽の光がたっぷりと降り注ぐ中、雪に覆われた美しい山頂が手に取るように見える。

高度3200mの世界。アルプス山脈は夏よりも冬の方が美しい。

この時、かなりの高度を飛行していたにもかかわらず、オリスの高度計はセスナの高度計と同じ数値を示した。ただ、スケールが小さいことから、100フィート単位でしか高度を知ることができない。これは、メートルにすると約30mに相当する。
その点、コックピットに装備された高度計は、時針と分針を備えた時計のように2本の針を備えており、高度を20フィート(約6m)単位で正確に読み取ることができる。したがって、不測の事態が発生した際に、ビッグクラウン プロパイロット アルティメーターが航空機に備え付けられた高度計の代役を務めることは、残念ながら不可能である。だが、航空機の高度計は実際、めったに故障しないし、計器飛行方式による飛行が許されている航空機の場合はいずれにしても、予備として高度計を2個、搭載しなければならないことになっている。そのため、機体備え付けの高度計ほどの精度を期待できないとしても、バックアップ的存在としてビッグ クラウン プロパイロット アルティメーターを携行するのは決して無駄ではない。
それに、ビッグクラウン プロパイロット アルティメーターの測定レンジが広範囲に及ぶのは心強い。針が文字盤外周をひと回りすると表示高度は1万フィートに達し、白い目盛りはここで終わる。これ以降、高度1万5000フィート(約4570m)までは黄色い目盛りで高度を読み取ることができる。これ以上の高度表示は必要ない。なぜなら、与圧室を持たないほとんどのプロペラ機は高度1万5000フィートを超えて航行できないからである。
そろそろギュンツブルクの飛行場に引き返す時間になった。コックピットでは時折、操縦桿の周囲が手狭に感じられることがある。有視界飛行方式に切り替え、飛行時に地図等を挟んだニーパッドを使う時には特に狭く感じられる。だからこそ、47㎜という大型ケースであるにもかかわらず、ビッグクラウン プロパイロット アルティメーターが操縦の邪魔にならないのはありがたかった。また、厚さが17・7㎜もある時計だが、装着感も快適で、スリムな手首に着けても仰々しい印象を与えたり、不格好に見えたりしない。とりわけ、レザーの内張りが施されたテキスタイルストラップは、厚みがかなりあるものの非常にしなやかで、良好な装着感に貢献している。クラスプには、ストラップの余った部分を折りたたんで留められるクランプ機構が装備されている。そのため、手首の太さに合わせ、ストラップの長さを素早く無段階で調節することができる。クラスプが、丈夫なストラップを傷める危険はなく、精巧な作りにもかかわらず薄く仕上がっているので、使い心地がよい。ストラップとフォールディングクラスプは航空機のシートベルトを想起させる外観で、時計のコンセプトにもマッチしている。実際、フォールディングクラスプはシートベルトのバックルと同じように機能し、「LIFT」と刻印された部分を持ち上げるだけで簡単に開くことができる。

フォールディングクラスプは、見た目だけでなく、機能も飛行機のシートベルトを踏襲する。

コックピットのデザインを踏襲
セスナから見下ろせば、湖の散在するやや起伏のある風景が広がっていた。大地にはまだ雪が残っている。飛行場に到着するまでまだ数分ある。この時間を利用して、もう一度、時計を観察してみよう。ストラップやクラスプ同様、文字盤とケースもひと目でパイロットウォッチと分かるデザインである。ステンレススティール製ケースは全体的にサテン仕上げが施され、ベゼルにはタービンのような刻み目が付いている。高度計用のリュウズには、コックピットの「Altimeter Setting(高度計規正)」用操作エレメントのように「ALT SET」とエングレービングされ、刻まれた部分には赤い塗料が流し込まれている。ねじ込み式リュウズはふたつとも扱いやすく、操作も簡単である。ストップセコンド機能と日付早送り調整機能が装備されていることから、時刻合わせと日付調整は正確かつ素早く行うことができる。加工品質も高く、加工の痕跡はまったく確認できなかった。
ビッグクラウン プロパイロット アルティメーターは、時刻の視認性が素晴らしく、コックピット内の計器類と見比べると、蓄光塗料を塗布した針やマットブラックの文字盤のデザインがコックピットの雰囲気に溶け込んでいることに気づく。
ビッグクラウン プロパイロット アルティメーターを駆動するのは、セリタSW220をベースとするオリスの自動巻きキャリバー733である。セリタSW200系は、特許権の期限の切れたETA2824の代替ムーブメントで、ETA2824同様、堅固で信頼性の高いムーブメントである。着用時の日差はわずかプラス2秒/日と、納得の高精度。歩度測定機で行ったテストでも結果は優秀で、計算上の平均日差はプラス3・8秒/日であった。最大姿勢差が7秒/日というのも、それほど大きな開きではない。振り角も安定しており、水平姿勢(文字盤上・文字盤下)から垂直姿勢(3時上・3時下・3時左・3時右)に変わる時に若干、振り落ちが観察されたに過ぎない。
セスナはゆっくりと下降の準備を始めた。ビッグクラウン プロパイロット アルティメーターは新しい高度を表示するのに少し時間がかかり、セスナに備え付けられた高度計よりも500フィート分遅れて表示されたが、数秒後にはコックピットの計器と同じ正しい高度を示した。高度計のレスポンスがやや遅いこの時計は、スカイダイビングにはあまり向いていないと言える。

残念ながら、空を飛ぶことは贅沢な遊びである。セスナ182で1時間飛ぶのに会員価格で235ユーロ支払わなければならない。それに比べ、ビッグクラウン プロパイロット アルティメーターは慎ましい。39万円(テキスタイルストラップ)という価格は、高度な技術を要する機械式高度計を搭載した腕時計としては驚きの低価格である。また、オリスの新型パイロットウォッチのエントリーモデル、ビッグクラウン プロパイロット デイトは17万円(テキスタイルストラップ)と、これも極めて手頃な価格である。これに、22万円を追加で支払えば、6㎜大きいケースの中に機械式高度計を載せた自動巻きムーブメントを内包した独創的なパイロットウォッチを入手することができる。

次第に飛行場へと近づき、管制塔に無線で着陸の連絡を入れた。管制塔からは、着陸用滑走路の入り口にいる鳥の群れに注意するよう、指示が届く。カラスが飛び立ち、我々は無事に滑走路に着陸した。セスナから見た美しい眺望と、パイロットのための比類なきコンプリケーションを備えた、フライトのお供にぴったりなパイロットウォッチの印象は、脳裏にまだ鮮明に焼き付いている。

 

アルティメーターのテスト中、セスナのコックピットからの見晴らしは良好であった。手元のビッグクラウン プロパイロット アルティメーターが表示する高度は、タイムラグこそあれ、コックピット備え付けの高度計と同じ値を指し示すことが確認でき、アルティメーターの信頼性は実証された。

技術仕様

オリス/ビッグクラウン プロパイロット アルティメーター

製造者: オリス
Ref.: Ref.733 7705 4134
機能: 時、分、秒(ストップセコンド仕様)、日付表示、機械式高度計
ムーブメント: Oris Cal.733(セリタSW220ベース)、自動巻き、2万8800振動/時、26石、日付早送り調整機能、耐震軸受け(インカブロック使用)、緩急針と偏心ネジによる緩急調整、グリュシデュール製テンワ、パワーリザーブ約38時間、直径25.6mm、厚さ4.6mm
ケース: ステンレススティール製、ドーム型サファイアクリスタル製風防(両面無反射コーティング)、ステンレススティール製ねじ込み式裏蓋、10気圧防水
ブレスレットとクラスプ: テキスタイルストラップ、ステンレススティール製フォールディングクラスプ
サイズ: 直径47mm、厚さ17.7mm、総重量153g
バリエーション:  ステンレススティール製ブレスレット(40万2000円)
価格: 39万円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差  秒/日、振り角)

   平常時         
文字盤上 +6  
文字盤下 +3  
3時上 +5  
3時下 +2  
3時左 0  
3時右 +7  
最大姿勢差: 7  
平均日差: +3.8  
平均振り角:    
水平姿勢 289°  
垂直姿勢 269°  

 

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 9pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 13pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 10pt.
精度安定性(10pt.)  7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 14pt.
合計 80pt.
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