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ノモス/リュクス(1/1) 2014年07月号(No.53)

Nomos Lux

ぜい肉を削ぎ落としたデザインのリーズナブルなマニュファクチュールウォッチ。そのイメージを飛び越えて、ノモスがホワイトゴールドモデルでアッパークラスブランドに勝負を仕掛けてきた。単純に金額だけでは測れない、高級感とは一体何なのだろうか。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
ニック・シェルツェルおよびノモス: 写真 Photographs by Nik Schölzel and Nomos
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa


point
・ケースの仕上げが極上
・ノモスらしさの表れた独自性のあるデザイン
・グラスヒュッテの伝統に則した自社キャリバーを搭載

point
・価格が高額
・装飾研磨が完璧とまでは言えない

時計技法とバウハウス

ンジェントやオリオンなど、全体の出来と価格の釣り合いのよさにかけては他社がなかなか打破できないことに定評があるのがノモスだ。手巻きモデルをメインに展開してきたが、このところ、作り込みの手の掛け具合とともに種類もますます増加してきている。その多様さは、日付表示付き、自動巻き、パワーリザーブ表示付きだけにとどまらず、今やワールドタイム機構をベースキャリバーに組み込んだものもあるほどだ。それに伴い、扱う価格にも変化が表れている。シンプルな手巻きのタンジェントは24万円(直径38㎜、日付表示なし)という、まだ穏やかともいえる値段だが、自動巻きのタンゴマットは34万円(直径38・3㎜、日付表示なし)、チューリッヒシリーズのワールドタイムに至っては63万円(直径39・7㎜)。つまり、ノモスは価格に見合ったモデルを製作するだけでなく、より上の価格帯にもシリーズを拡張してきていることになる。そうなると、次のステップとして無理がないのは、やはり細やかな装飾研磨を施したムーブメントを搭載したゴールドモデルを加えることだろう。かくして昨秋ふたつのゴールドモデルが登場した。パワーリザーブ表示付きラウンド型のラムダと、今回のテストに取り上げたトノー型のリュクスだ。

今回のモデルは、ノモスにしてはかなり思い切ったデザインと言わざるを得ない。なにしろケースの素材はホワイトゴールド、形はトノー。基幹ムーブメントを使用していて、文字盤のサークル外側部分は冴え冴えとしたライトブルーだ。ノモスのプレスリリースには、昔のとあるキッチン用小型クロックを思わせるバージョンと書かれている。これはおそらくバウハウスの伝統的デザインを踏襲したマックス・ビルが、1957年にユンハンス用に考案した卵をさかさまにしたような形状のライトブルーのキッチンタイマー付きクロックを指しているのだろう。
採用されたライトブルーは、極細のバーで幾何学的に構成されたインデックスと針を引き立て、このモデルによく合っている。リュクスはノモスの時計だとひと目で分かるような仕上がりなのだ。文字盤の構成と針は同ブランドのオリオンを思わせ、ケースも生真面目に固まることはなく、少々遊び心が感じられる。極めてコンパクトにまとめつつ、エッジと角の丸みはまさしく手作業ならでは。風防も緩やかに膨らみを持たせている。スリムなワイヤー風ラグも実はバネ棒付きで、ストラップ裏側の小さなレバーを動かすと、工具なしでストラップの交換が可能だ。

手作業のなめしによる高級レザーを使用

ストラップに関して言えば、まったく特異なものというわけではない。色はよくある黒とダークブラウンの2種類、革の素材は馬革だ。しかし、高級靴に使われるほどの耐久性を持つこの革は、シカゴの老舗皮革メーカー、ホーウィンのものが採用されている。毛穴の跡のない、ほどよく脂の乗った馬の臀部の革をなめす作業は多くが手仕事によるものだ。6カ月に及ぶ作業を経て出来上がったなめし革は、独特の匂いも心地よい。シェルコードバンと呼ばれるこの馬革は、ノモスのほかのモデルのストラップにも採用されているが、リュクスでは中に挟むクッションがより多く、他モデルのようにフラットではなく、ふっくらした仕上がりにして高級感を持たせているのだ。
ホワイトゴールド製の尾錠も、リュクス用に新しいものが作られた。尾錠はストラップの端にとどまらずストラップ本体側に向かってせり出し、ツク棒の通ったバーが尾錠の中間にあるスタイル。実用的なディテールは、ワイヤー風ラグともビジュアル的によく合って、とても美しい。ケース同様にごく丁寧に研磨されており、キズ見を通して裏側を見ないと作業の痕跡が分からないほどだ。ケースはサファイアクリスタルのはめられたスナップ式裏蓋を開ける時のために設けられたわずかなスリットで、フライスされたことが分かるという具合。ベゼルとケースの詰まり方からも同じ印象を受ける。仕上げ加工のよさは、これらのことで納得がいくというものだ。

即物的とさえ言えるシンプルなフィールドに、大胆なライトブルーがまぶしい。この遊び心に、バウハウスデザインのウィットが表れている。

グラスヒュッテの伝統を受け継いだムーブメント

しかしなんといっても、力の入れ具合が違うのはムーブメントだ。搭載のムーブメントは、グラスヒュッテの伝統に基づいて構成されている。4分の3プレート、ねじで固定されたゴールドシャトン、スワンネック型緩急針、そしてハンドエングレービングで飾られたテンプ受け。チラネジ付きテンワに並んで、青ネジ、鏡面に磨き上げられたネジ頭の上面、同じく鏡面処理された面取りエッジのパーツなどの装飾的処理にも、時計技法の高さが表れている。丸穴車の表面に旋回状に施されたサンフレア仕上げも、プレート上面に放射状に広がるサンレイ研磨と相まって、美麗かつ細やかに手を掛けられた様子が伝わってくる。キズ見で注意深く観察すると、その下の地板にはペルラージュ仕上げも入れられているのが分かるだろう。それとは対照的に、一見すると装飾的なテンプ受けのエングレービングには、強いメッセージ性があるのが分かる。白鳥の首のごとくカーブしたバネの下で読みづらくはあるが、そこにはドイツ語で〝ミット リーベ ゲフェルティクト イン グラスヒュッテ〟(グラスヒュッテより愛を込めて)と彫られているのだ。ウィンクを投げかけるように遊び心のあるディテールだが、伝えんとするところは至って真面目。緩急調整のプラスとマイナスを表す言葉すらも手で彫るほどの凝りようだ。これらが盛り込まれたムーブメントを搭載し、その姿を裏側から享受できるというのは実に素晴らしい。
23石というルビー数の表記とともに金文字で彫られているのは、キャリバーナンバーの〝DUW2002〟とメーカー名である“DEUTSCHE UHREN-WERKE NOMOS GLASHÜTTE”(ドイチェ・ウーレンヴェルケ・ノモス・グラスヒュッテ)、そしてシリアルナンバーだ。社名も記載することによって、ムーブメントも自社生産するメーカーであることを知らしめるという寸法なのだろう。
シャトンなしでルビーが据えられたふたつの香箱は、パワーリザーブが約84時間と実用的。テストでもその期待通り、作動は3日半持続した。
リュウズは引き出しやすい形状になっているので操作しやすく、ストップセコンド機能があるので針合わせも楽に行える。

ムーブメントこぼれ話

ところで、このムーブメントが最初に搭載されたのはノモス銘の製品ではなく、ドイツの高級時計宝飾店ヴェンペの製品だったというのが興味深い。ヴェンペは2006年からグラスヒュッテ天文台を通じて〝クロノメーターヴェルケ グラスヒュッテ〟銘の手巻き腕時計を展開しており、それに際して使用されたのがノモスのこのキャリバーだったのだ。しかし、リュクスとは異なり、プレートの装飾はコート・ド・ジュネーブ、テンプ受けのエングレービングは、メッセージではなくフラワーモチーフになっていた。すでにヴェンペへのムーブメント供給は終了してしまっているが、この腕時計はまだ販売されている。
ヴェンペがこのモデルをスイスではなくドイツ・グラスヒュッテ独自のクロノメーター試験に掛けていた時期は、ノモスはこのムーブメントを常に6姿勢で調整し、クロノメーターの精度基準に適合させていた。今回、我々のテストにあたって歩度測定機に掛けたところ、その期待を裏切ることのない結果となった。姿勢差はマイナス1秒からプラス5秒。最大姿勢差は6秒ということになる。喜ばしいことに、平均日差はプラス1・7秒に収まった。平置きでの振り角落ちが大きかったのが、唯一残念なところだ。
それから、視認性に関しては完璧とは言い難い。細い針は文字盤に埋没しない程度に目に映るのだが、いかんせん時針と分針の長さに差が乏しい。アワーインデックスも、ミニッツインデックスよりごくわずかに長い程度に抑えられている。
装着性については、好感度が圧倒的に高かった。ストラップは肌当たりがソフトで、尾錠が浮くようなことがなく、時計全体が心地よいほど軽く感じられた。ケースの縁は丸みがあるため、肌に食い込むような不快さもない。難を言えば、腕が細い場合には、ケースが縦長かつ裏側がフラットなために、若干収まりがよくないかもしれない。

ねじで固定されたゴールドシャトンやスワンネック型緩急針をはじめ、グラスヒュッテの伝統手法が盛り込まれたムーブメントは、さながら満艦飾といったところ。テンプ受けには“グラスヒュッテより愛を込めて”と手彫りされている。

アッパークラスの価格帯

このモデルでノモスは、ほとんどパテック フィリップやA.ランゲ&ゾーネに迫るような高価格帯に攻勢を仕掛けている。240万円という金額はブランドとしての一種の声明だ。リュクスはそれに見合うだけのものではあるが、基幹モデルのタンジェントが打破し難いほど価格と出来栄えのバランスのよさをキープしていることを考えると、ブランドイメージをハイエンド一色に塗り変えたいというわけではなさそうだ。リュクスのような価格帯に挑むには、通常はイメージ戦略が大きな役割を持つが、それに関してノモスは一層の努力が必要だろう。ことに残念なのは、先に述べた同じムーブメントが搭載された初めての製品であるヴェンペの〝クロノメーターヴェルケ グラスヒュッテ〟のゴールドモデルが8450ユーロと、リュクスよりもかなり抑えられた価格設定になっていることだ。これには躊躇せざるを得ないだろう。逆説的に言えば、アッパークラスを声高にうたっていないノモスをあえて選ぶということは、確かな審美眼を持つ相当な時計通の選択だとも言える。なぜなら、ノモスならこのモデルのケースをホワイトゴールドではなくステンレススティールで仕立て上げたとしても、上質感が損なわれるようなことはないだろうと思えるからだ。
ノモスは自社の他モデルが持つバウハウスにインスパイアされたデザインスピリットをリュクスにも持たせている。トノー型のフォルムとライトブルーの文字盤の組み合わせは、既存のラインナップからはかけ離れた存在ではあるが、ケースやストラップ、尾錠のノモスらしさは変わらない。重箱の隅をつつくならば、キズ見を通すと磨きに不満足な部分もないではないが、自社開発のムーブメントにはグラスヒュッテの伝統手法が守られている。価格と質のバランスに、基幹モデルのような鮮烈さはないが、まずまず見合ったものにはなっている。バウハウスデザインとダイアルのライトブルーの縁取りが好みに合いさえすれば、よい買物と言えるのではないだろうか。

時計師からひと言

グラスヒュッテの伝統手法を駆使したこのムーブメントは、実に綺麗に仕上がっています。ディテールも、スワンネック型スプリングを留め付けているふたつのネジの間にひと筋のラインを入れるほどの凝りようです。しかしムーブメントの装飾技術は隙がないほど完璧な水準ではなく、それからするとこの価格は野心的でしょう。シンプルな文字盤と伝統的装飾を施したムーブメントの組み合わせは必ずしも一致するものではないと思います。ムーブメントも文字盤に合わせてバウハウススタイルにするか、あるいは文字盤をムーブメントに合わせてクラシックなデザインにするかして、統一感を持たせたほうが、よりしっくりくるのではないでしょうか。

ライナー・メラート
ウルム、ケルナー時計宝飾店オーナー兼マイスター時計師

技術仕様
ノモス/リュクス

製造者: ノモス
Ref.: 920
機能: 時、分、秒(スモールセコンド、ストップセコンド仕様)
ムーブメント: 自社製キャリバーDUW 2002、手巻き、2万1600振動/時、23石、耐震軸受け(インカブロック使用)、チラネジ付きテンワ、スワンネック型緩急針、パワーリザーブ約84時間、縦32.6×横28.8㎜、厚さ3.6㎜
ケース: ホワイトゴールド製、ドーム型サファイアクリスタル風防、サファイアクリスタル製トランスパレントバック、3気圧防水
ストラップと尾錠: 馬革(シェルコードバン)製レザーストラップ、ホワイトゴールド製尾錠
サイズ: 縦40.5×横36㎜、厚さ8.95㎜、重量77g
価格: 240万円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差 秒/日、振り角)

平常時    
文字盤上 +5
文字盤下 -1
3時上 +1
3時下 +3
3時左 +2
3時右 0
最大姿勢差: 6
平均日差: +1.7
平均振り角:
水平姿勢 263°
垂直姿勢 227°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 13pt.
視認性(5pt.) 3pt.
装着性(10pt.) 8pt.
ムーブメント(20pt.) 16pt.
精度安定性(10pt.) 7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 12pt.
合計 81pt.

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