【81点】ノモス/リュクス

FEATUREスペックテスト
2014.06.03

即物的とさえ言えるシンプルなフィールドに、大胆なライトブルーがまぶしい。この遊び心に、バウハウスデザインのウィットが表れている。

グラスヒュッテの伝統を受け継いだムーブメント

しかしなんといっても、力の入れ具合が違うのはムーブメントだ。搭載のムーブメントは、グラスヒュッテの伝統に基づいて構成されている。4分の3プレート、ねじで固定されたゴールドシャトン、スワンネック型緩急針、そしてハンドエングレービングで飾られたテンプ受け。チラネジ付きテンワに並んで、青ネジ、鏡面に磨き上げられたネジ頭の上面、同じく鏡面処理された面取りエッジのパーツなどの装飾的処理にも、時計技法の高さが表れている。丸穴車の表面に旋回状に施されたサンフレア仕上げも、プレート上面に放射状に広がるサンレイ研磨と相まって、美麗かつ細やかに手を掛けられた様子が伝わってくる。キズ見で注意深く観察すると、その下の地板にはペルラージュ仕上げも入れられているのが分かるだろう。それとは対照的に、一見すると装飾的なテンプ受けのエングレービングには、強いメッセージ性があるのが分かる。白鳥の首のごとくカーブしたバネの下で読みづらくはあるが、そこにはドイツ語で〝ミット リーベ ゲフェルティクト イン グラスヒュッテ〟(グラスヒュッテより愛を込めて)と彫られているのだ。ウィンクを投げかけるように遊び心のあるディテールだが、伝えんとするところは至って真面目。緩急調整のプラスとマイナスを表す言葉すらも手で彫るほどの凝りようだ。これらが盛り込まれたムーブメントを搭載し、その姿を裏側から享受できるというのは実に素晴らしい。
23石というルビー数の表記とともに金文字で彫られているのは、キャリバーナンバーの〝DUW2002〟とメーカー名である“DEUTSCHE UHREN-WERKE NOMOS GLASHÜTTE”(ドイチェ・ウーレンヴェルケ・ノモス・グラスヒュッテ)、そしてシリアルナンバーだ。社名も記載することによって、ムーブメントも自社生産するメーカーであることを知らしめるという寸法なのだろう。
シャトンなしでルビーが据えられたふたつの香箱は、パワーリザーブが約84時間と実用的。テストでもその期待通り、作動は3日半持続した。
リュウズは引き出しやすい形状になっているので操作しやすく、ストップセコンド機能があるので針合わせも楽に行える。

ムーブメントこぼれ話

ところで、このムーブメントが最初に搭載されたのはノモス銘の製品ではなく、ドイツの高級時計宝飾店ヴェンペの製品だったというのが興味深い。ヴェンペは2006年からグラスヒュッテ天文台を通じて〝クロノメーターヴェルケ グラスヒュッテ〟銘の手巻き腕時計を展開しており、それに際して使用されたのがノモスのこのキャリバーだったのだ。しかし、リュクスとは異なり、プレートの装飾はコート・ド・ジュネーブ、テンプ受けのエングレービングは、メッセージではなくフラワーモチーフになっていた。すでにヴェンペへのムーブメント供給は終了してしまっているが、この腕時計はまだ販売されている。
ヴェンペがこのモデルをスイスではなくドイツ・グラスヒュッテ独自のクロノメーター試験に掛けていた時期は、ノモスはこのムーブメントを常に6姿勢で調整し、クロノメーターの精度基準に適合させていた。今回、我々のテストにあたって歩度測定機に掛けたところ、その期待を裏切ることのない結果となった。姿勢差はマイナス1秒からプラス5秒。最大姿勢差は6秒ということになる。喜ばしいことに、平均日差はプラス1・7秒に収まった。平置きでの振り角落ちが大きかったのが、唯一残念なところだ。
それから、視認性に関しては完璧とは言い難い。細い針は文字盤に埋没しない程度に目に映るのだが、いかんせん時針と分針の長さに差が乏しい。アワーインデックスも、ミニッツインデックスよりごくわずかに長い程度に抑えられている。
装着性については、好感度が圧倒的に高かった。ストラップは肌当たりがソフトで、尾錠が浮くようなことがなく、時計全体が心地よいほど軽く感じられた。ケースの縁は丸みがあるため、肌に食い込むような不快さもない。難を言えば、腕が細い場合には、ケースが縦長かつ裏側がフラットなために、若干収まりがよくないかもしれない。