【80点】IWC/インヂュニア・オートマティック “AMG ブラックシリーズ・セラミック”

FEATUREスペックテスト
2013.12.03

マニュファクチュール・エンジン。最高出力435kW(591PS)、V型8気筒6.2リッターのAMG製エンジンと、一体型耐衝撃システムを装備し、2万8800振動/時で時を刻むIWCの自動巻きキャリバー80110。

SLS AMG GTでは、1954年に発表されたガルウイングドアを持つメルセデス・ベンツ300SLのデザインが受け継がれている。1954年のクーペ・モデルは1957年にはロードスター・モデル(オープンカー)に移行した。メルセデス・ベンツ300SLが発表された1年後の1955年に登場したIWCのインヂュニアとの類似点は、ここでも見付けることができる。インヂュニア・オートマティック〝AMG ブラックシリーズ・セラミック〟もまた、時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタが手掛けたインヂュニアSLのデザインをしっかりと継承しているのである。1976年に生まれたインヂュニアSLは、スポーティーなラグジュアリーウォッチをコンセプトとして、一体型のメタルブレスレットを備え、ベゼルに開けられた5つの穴が象徴であった。2005年、インヂュニアが再始動した際には、特徴的な数字と、よりエッジの利いたフォルムを持つケースが導入された。リュウズプロテクターは2009年のインヂュニア・オートマティック・ミッション・アースから装備されるようになった。5つの穴の代わりにベゼルに5本のビスが取り付けられているのは、インヂュニア・オートマティック〝AMG ブラックシリーズ・セラミック〟における新しい点である。ベゼルからケースバックまで貫通している5本のビスには、ベゼルとケースバックをミドルケースに留める役割がある。このビスを観察すると、特殊な形状に成形加工されたネジ頭など、加工の秀逸さにも気が付くだろう。レザーのステッチのひとつひとつが丁寧に仕上げられているSLSにも共通するクラフツマンシップである。

高級感とは、とりわけ価格によって具体化されるものである。SLSの購入を検討する際、ネックとなるのは100㎞で13・2リッターという燃費ではなく、どちらかと言えば2750万円という価格の方だろう。今回試乗したモデルにはオプションがいくつか装備されていたので、さらに費用が必要となるが、オプション装備の多くは、実際なくても困らないものばかりである。IWCのインヂュニア・オートマティック〝AMG ブラックシリーズ・セラミック〟の購入を考えるなら、予算に107万5000円を計上しておかなければならない。これは、SLSにAMGカーボンセラミックブレーキをオプション装備したい場合に追加料金として支払わなければならない金額よりも安価だ。こう考えれば、インヂュニアの価格もそれほど高額に感じないかもしれない。だが、これだけの金額を支払うのだから、ムーブメントにはもう少し多くの仕上げや装飾を期待したかった。とは言うものの、クールな時計を身に着けてSLSのようなスーパースポーツカーで外出できる人間にとっては、金額など決して問題にはなるまい。いずれにしても、SLSを手に入れることのできる幸運な愛好家には、AMGカーボンセラミックブレーキをオプション装備するのではなく、セラミックス製のインヂュニアを購入することを強くお薦めしたい。

そろそろSLSを返却する時間である。どんなに別れが辛くても、電動式のルーフを閉め、キーを返さなければならない。そして、エアコンのない古いフォルクスワーゲン・パサートで家路に就きながら、少しずつ現実に戻っていくのだ。それでも、試乗の余韻をまだ楽しむことはできる。少なくとも、インヂュニアだけはまだあと数日間、手首に着けていられるのだから。