MEMBERS SALON

ジン / 144.TI.DIAPAL(1/1) 2010年11月号(No.31)

SINN 144.TI.DIAPAL

ジンはディアパル・テクノロジーによって、オイルフリーの脱進機構を開発した。今回紹介する144.TI.DIAPALにはドライ・テクノロジーも搭載されている。

イェンス・コッホ:文 Text by Jens Koch
ニック・シェルツェル:写真 Photographs by Nik Schölzel
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto

point
・ドライ・テクノロジー
・オイルフリー脱進機
・優れた視認性

point
・バックルが開きづらい

spec120416al670_420c.jpg

ドライ・ムーブメント。テンプの右下で回転するのは、
注油を必要としないコーティングが施された黒いガンギ車である。

当初のオイルフリー化実験では、アンクルのツメ石をダイヤモンド製に換えたが、満足な結果を得ることはできなかった。だが、この実験により、ジンの技術に“ディアパル"という名称が与えられた。

独自のテクノロジーが導いた安全地帯

イルと潤滑剤をまったく必要としない時計を作ることは、あらゆる時計師にとって大きな夢である。適正に注油された時計がどれほど正確に作動したとしても、潤滑性能は時間とともに低下し、特に脱進機では摩擦が発生するようになる。その結果、精度が著しく低下し、場合によっては時計が止まってしまう。フランクフルトを本拠とする時計メーカー、ジンは、完全にオイルフリーの時計こそまだ開発していないものの、オイルフリー脱進機によって、時計の機構で最も重要な部分の注油問題を解決した。

人工ルビー製のアンクルのツメ石とガンギ車のスティール歯の間には、摩擦が発生する。通常、この部分には注油が必要なのだが、ここは特にオイルが乾燥しやすい箇所でもあり、6~7年も経てばテンプの振動幅、すなわち、振り角が半分にまで落ち込んでしまう。これにより、精度が著しく悪化し、メンテナンスが必要になるのだ。

ジンは1995年以来、注油問題の解決に取り組んできた。“ディアパル"という名称は、ツメ石をルビー製からダイヤモンド製に換えて行った初期の実験で生まれた略語である(訳注:Diamantpaletten=ダイヤモンド製ツメ石の短縮形)。この名称は、以後も使われることになる。ダイヤモンドとスティールを組み合わせることで、注油しない状態でも作動特性はかなり改善されたが、注油した脱進機の振り角にはまだ及ばなかった。オイルフリーで、かつ精度の落ちない脱進機の実現には、ガンギ車にナノコーティング技術を応用した今日のディアパル・テクノロジーを待つことになる。この技術を採用することで、アンクルのツメ石には従来と変わらずルビーを使用することができた。こうして完成した脱進機はまず、2001年にブランド創立40周年記念モデルとして発表されたゴールドのファイナンシャルウォッチに搭載された。756および757・DIAPALに続き、今年は103および144シリーズでもオイルフリー脱進機がバリエーションとして採用されている。

144シリーズのディアパル搭載モデルは、ブラックカラーの積算計を装備したチャコールグレーの文字盤によって、ひと目で見分けることができる。曜日の代わりにセカンドタイムゾーンを12時間式で表示するETA7750も、全モデル共通で搭載されたムーブメントである。ムーブメントはトランスパレントバックを通して観賞することができる。よく見れば、コーティングで黒色になったガンギ車も認識できるはずだ。それ以外にも、コート・ド・ジュネーブやペルラージュ、ブルースクリューなどが目を楽しませてくれる。

良好な精度

もちろん、こうした機能的な時計では、ムーブメントの装飾よりも精度が重視される。それを裏付けるように、144・TI・DIAPALはなかなかの精度を見せてくれた。ウィッチ社製の最新式歩度測定器、クロノスコープX1を使用したテストでは、とりわけ力強い振り角が観察され、脱進機の摩擦係数は注油した脱進機に劣らなかった。全姿勢の平均日差はプラス5秒/日と、安全な数値であり、7秒という最大日差も良好な結果である。これらの数値はクロノグラフ作動時にもあまり変化せず、クロノグラフの作動による振り落ちがごくわずかだったのも喜ばしいことである。

spec120416al670_420b.jpg

存在する湿気を吸収しながら、
ゆっくりと青色に変色する。

海水に強い200m防水のチタンケースと、ドライ・テクノロジーの恩恵による曇らない風防。144.TI.DIAPALは海での活動にもふさわしい。セカンドタイムゾーンを表示するGMT針と日付は、リュウズを2段引きにした状態で、それぞれ早送りして容易にセッティングできる。ディアパル・テクノロジー搭載のチタンケースにレザーストラップ仕様のモデルは価格42万円。

ドライ・テクノロジー

長期的な視野に立てば、ジンが独自に開発したドライ・テクノロジーもムーブメントに大きなメリットをもたらす。この技術では、ケースに充填された原子半径の大きいプロテクトガス(訳注:希ガスの一種)により、ケース内に湿気が簡単には入り込まないようになっている。それでも湿気が浸入してしまった場合に備えて、ケースには硫酸銅を封入したドライカプセルが埋め込まれており、ケース内の湿気はここで吸収される。左下のラグにはドライカプセルの点検窓があり、カプセルにまだ湿気の吸収能力が残っている場合は白く、飽和状態で交換が必要になると青色に変色する。

しかし、この技術にはわずかながらもデメリットがある。パーツ交換は言うまでもなく、ムーブメントに手を入れる作業はどんなに些細なものでも、すべてフランクフルトのジン本社で行わなければならないのだ。プロテクトガスが本社でしかケースに再充填できないのが理由である(日本では、ホッタインターナショナルにおいてパーツおよびドライカプセルの交換、プロテクトガスの再充填を行っている)。その代わり、時計内部が乾燥した状態に保たれることでオイルは劣化しにくく、ムーブメントは錆から守られる。しかも、内部には湿気がまったく存在しないため、温度変化が激しい場合でも風防が曇らない。

ケースは200m防水で、純チタンで出来ている。純チタンは、海水などの塩分を含む水に強く、アレルギー体質のユーザーには特に向いており、熱伝導率が低いことから、心地良い温かさが肌に伝わってくる。また、非常に軽い素材のため、装着性の向上にも貢献している。しかし、空気中の酸素と結合することで、表面に濃い色の硬い酸化皮膜が形成されているにもかかわらず、チタンはスティールよりも傷が付きやすい。ケースは全体的にクリーンな作り込みだが、構造そのものはややシンプルである。
傷の付きやすさは、チタンブレスレットや、チタンプレートで出来たセーフティーフォールディングバックルにもかなり当てはまる。フォールディングバックルは一見、堅牢な印象を与えるが、開閉動作を数回行っただけで、はっきりとした使用傷が付いてしまう。それよりも、装着時にバックルを開けるのが非常に困難で、内蔵エクステンションがしばしば不用意に伸張してしまうことのほうが、どちらかと言えば不愉快である。それに引き換え、装着感は抜群で、手首への馴染みも快適だ。
早送り機能を備えた

セカンドタイムゾーン

この時計は操作性も良好である。リュウズを解除するのに、時計を外す必要がないのはうれしい。日付とGMT針の早送り機能、そして、ストップセコンド機能の恩恵により、すべての機能はスムーズに修正でき、時刻合わせも簡単に行うことができる。
操作性以上に秀逸なのは時刻の視認性である。ネオンレッドのクロノグラフ針は、白い時・分・GMT針と明確に区別することができ、白い針は暗色の文字盤からくっきりと浮かび上がる。GMT針は先端がアロー型になっているため、通常の時針とひと目で区別できるが、夜間には時・分・GMT針、インデックス、数字のすべてがかなり明るく輝くため、時針を読み違える危険も否めない。クロノグラフの諸機能は暗所では発光せず、これがかえって視認性の向上に貢献している。

良好な視認性は、一貫して機能を優先させたデザインの産物でもある。144は、当節流行りのオーバーデザインへの対抗機なのだ。やや1980年代を想起させる外観だが、コックピットの計器のように流行に左右されることはなく、黒いインダイアルを載せたチャコールグレーの文字盤によって、全体が引き締まった印象に仕上がっている。パイロットクロノグラフやドライバークロノグラフを思わせる144は、装飾的な要素が一切廃されているからこそ、好感度が高いのだ。ただ、タキメーターとパルスメーターを組み合わせた文字盤リングは必ずしも必要ではなかったかもしれない。もっとも、活用すれば、文字盤外周に配された薄いメタルリングの前半で160から50の脈拍数を、後半では時速190~60km.の速度を測定することができる。

spec120416al670_420d.jpg

確実にロック。
セーフティーフォールディングバックルは、開けるのが困難なほど難攻不落。

テクノロジーの値段

見事なコストパフォーマンスも、ジンのさらなる強みである。
と言っても、予価44万3100円のテストウォッチ(144・TI・DIAPAL)だけを見ていては、コストパフォーマンスの良さをすぐには理解できないかもしれない。しかし、この時計の特殊なスペックを吟味すれば、コストパフォーマンスの高さは一目瞭然だろう。それでもなお、ディアパル・テクノロジーやドライ・テクノロジー、セカンドタイムゾーン、そして、チタンケースといったハイスペックなオプションが必要ないというユーザーのために、シンプルなステンレススティールケースとブレスレットのモデル(144・ST・SA)が29万4000円で用意されている。しかし、このスペックでは“ただの"時計であり、テクノロジー満載の時計とは呼べなくなってしまう。

ドライ・テクノロジーとオイルフリー脱進機のメリットは、機構の性格上、数年経たないと実感することができない。そのため、前述の差額を支払う価値があるかどうかは、ユーザー自身で判断しなければならない。だが、基礎研究を推し進め、機械式時計特有の弱点を克服しようとしたジンの姿勢は、高く評価できる。こうした努力にもかかわらず、価格が支払い可能な範囲に抑えられているのも好ましい。セカンドタイムゾーンを搭載した、極めて堅牢かつ長持ちするクロノグラフで、飛行にも水泳にもふさわしく、(ドライ・テクノロジーによって)風防が曇らないモデルを探すのであれば、144・TI・DIAPALに代わる選択肢を同じ価格帯で見つけることは非常に困難であろう。

技術仕様
ジン/144.TI.DIAPAL

製造者: ジン特殊時計会社
Ref.: 144.TI.DIAPAL
機能: 時、分、秒、日付、セカンドタイムゾーン、12時間・30分・60秒積算計を備えたクロノグラフ
ムーブメント: ETA7750ベース、自動巻き、2万8800振動/時、25石、耐震軸受(インカブロック使用)、グリュシデュール製テンワ、偏心ネジによるエタクロン式緩急調整装置、直径30mm、厚さ7.9mm、パワーリザーブ約46時間
ケース: チタン(グレード2)製、両面無反射コーティングのサファイアガラス、ねじ込み式トランスパレントバック、負圧耐性、20気圧防水
ストラップとバックル: チタン(グレード2)製ブレスレットおよびセーフティーフォールディングバックル
サイズ: 直径41mm、厚さ14.5mm、総重量105g
バリエーション: レザーストラップ仕様
価格: 44万3100円(発売時期未定)

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (日差 秒/日、振り角)

平常時 クロノグラフ作動時
文字盤上 +4 +6
文字盤下 +4 +5
3時上 +6 +8
3時下 +7 +7
3時左 +1 +2
3時右 +8 +9
最大日差: 7 7
平均日差: +5 6.2
平均振り角:
水平姿勢 311° 301°
垂直姿勢 276° 263°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 7pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 8pt.
デザイン(15pt.) 12pt.
視認性(5pt.) 5pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 14pt.
精度安定性(10pt.) 8pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 13pt.
合計 80pt.

>>ジンのモデル一覧はこちら

前の記事

ジャガー・ルクルト/マスター・メモボックス

次の記事

A.ランゲ&ゾーネ / サクソニア・アニュアルカレンダー

おすすめ記事

pick up MODEL

正規時計販売店

正規時計販売店

高級時計を取り扱う全国の正規時計販売店をご紹介。各店が行うフェア情報やニュースもお届けします!

時計ランキング

時計ランキング

その年の新作モデルや、機構、仕上げの完成度など、毎回決められたテーマの中から、優れた10本を時計ジャーナリストたちが選出します。

スペックテスト

スペックテスト

クロノスドイツ版の人気連載「TEST」の翻訳記事。腕時計のデザイン、機能などをポイント性によって評価します!

基礎からの時計用語辞典

基礎からの時計用語辞典

時計の部品、機構、ブランド名など、基礎から専門用語まで、広範囲にわたって解説します。時計の知識を深めるための用語辞典です。

PAGE TOP