【83点】ジャガー・ルクルト/マスター・メモボックス

FEATUREスペックテスト
2010.09.03

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付加機能を備えたシンプルな気品あふれるドレスウォッチ。三角形の蓄光アローを載せた回転ディスクがアラーム時刻を表示する。

マスター・メモボックスは、緻密な加工、賢いムーブメントの設計、
そして理にかなった操作によってポイントが高い。

最高の感性を感じさせるとは言えないまでも、ムーブメントの装飾は魅力的である。コート・ド・ジュネーブが施されたローターには、ブランドロゴがゴールドカラーで彫り込まれ、サンバーストで仕上げられたピンクゴールド製の非常に重たい錘が外周に取り付けられている。ローターブリッジのコート・ド・ジュネーブも、周辺パーツに見られるいくつかの模様彫りと同様にクリーンな仕上がりで、ブルースクリューが良いアクセントになっている。だが、装飾はここまでである。音響上の理由から、ムーブメントはソリッドバックで覆われているため、それ以外の装飾はなく、面取りされ、ポリッシュ仕上げされたエッジも見られない。ただし、裏蓋の内側の下層部にはペルラージュ装飾が施されている。

装飾は、効率重視の堅固なキャリバーに見合ったレベルと言えるものの、ジャガー・ルクルトの以前のテストウォッチに比べて、精度にばらつきが目立ったのには驚かされた。ウィッチ製歩度測定器によれば、姿勢差間の最大日差は8秒と、並の水準であったが、姿勢によってはかなりマイナス寄りの数値だったため、テストウォッチの平均日差は最終的にマイナス2・3秒/日になってしまった。平均日差のマイナス傾向は、着用テストでも観察された。
着用時の印象だが、ゴールド製のソリッドケースをまとい、総重量が140グラムもあるにもかかわらず、手首への馴染みは良好であった。それよりも、着脱時にいささか不便を感じた。ゴールドのダブルフォールディングバックルにいくつか鋭い角があり、フラットでエレガントな外観を優先してセーフティーボタンを廃したことが理由である。

無垢材から削り出し加工したバックルには安定感はあるが、ゴールド製のブリッジをつなぐジョイント部はもう少し太くてもよかったかもしれない。傾けて置いた状態で高い負荷をかけたシミュレーションテストでは、ブリッジが折れてしまった。とは言うものの、時計宝飾店で行ったテストと同じ圧力を実際にかけるには、かなり重たい本を開いたバックルの上に置かなければならない。少なくとも、古いドイツ語で書かれた聖書くらいは必要だろう。あまり信心深いほうではなく、多読博識で、ラグジュアリーウォッチを慎重に扱うことに慣れているユーザーなら、おそらくバックルを壊す心配はないだろう。

バックルの選択肢

むしろ、ジャガー・ルクルトほどのアラームウォッチであれば、尾錠のほうが良い選択だったかもしれない。毎朝、フル音量でアラームを起動させるには、時計をフラットな状態でキャビネットの上に置いておく必要があるからだ。フォールディングバックル付きのタイムピースを通常置くように、リュウズを上にしてマスター・メモボックスを置いたのでは、かなり小さな音しか発生しない。毎晩、ピンを外してバックルからストラップを抜くような手間をかけるユーザーは、まずいないだろう。
フォールディングバックルであっても尾錠であっても、マスター・メモボックスが類稀なるデザインに加え、細部に至る良質な作り込み、そして快適な装着感によって、ユーザーを幸せにするラグジュアリーウォッチであることは間違いない。197万4000円が用意できなければ、スティール製の兄弟モデルを94万5000円で手に入れることができる。どちらのモデルを選んでも、夢見る夜やオフィスでのコーヒーブレイクが、これ以上美しく終わりを告げることはないだろう。

【時計師からひと言】

この時計は非の打ち所がない出来栄えで、極めて秀逸な作り込みです。操作も簡単ですし、賢い設計のアラーム機構を搭載しています。唯一、気になるのは、バックルが堅牢さに欠けることです。テストでは、傾けた状態でバックルに高い負荷をかけると、ゴールド製のブリッジが折れてしまいました。丈夫なジョイントを備え、全体的にもう少し厚さのあるフォールディングバックルのほうが有用だったかもしれません。また、ステンレススティールモデルが94万5000円というのには驚きます。素晴らしいアラーム機構を搭載したムーブメントとしては、非常に良心的な価格設定ではないでしょうか。ゴールドモデルの価格も、納得できる範疇です。
(ライナー・メラート ウルム、ケルナー時計宝飾店オーナー兼マイスター時計師)

技術仕様
ジャガー・ルクルト/マスター・メモボックス

製造者: ジャガー・ルクルト
Ref.: Q1412430
機能: 時、分、秒(ストップセコンド仕様)、日付、アラーム機能
ムーブメント: 自社製キャリバー956、自動巻き、2万8800振動/時、23石、グリュシデュール製テンプの補正ネジによる緩急調整(フリースプラング)、耐震軸受(KIF使用)、パワーリザーブ約45時間、直径30mm、厚さ7.5mm
ケース: 18KPG製、ドーム型サファイアガラス(無反射コーティングなし)、4カ所ネジ留めされた18KPG製裏蓋、50m防水
ストラップとバックル: クロコダイルストラップおよび18KPG製ダブルフォールディングバックル
サイズ: 直径40mm、厚さ14mm、総重量140g
バリエーション: SS製ケース(94万5000円)、手動設定可能なワールドタイムディスク付き“インターナショナル”(18KPG製250本限定:207万9000円、SS製750本限定:105万円)
価格: 197万4000円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (日差 秒/日、振り角)

平常時
文字盤上 -4
文字盤下 -3
3時上 -6
3時下 +2
3時左 0
3時右 -3
最大日差: 8
平均日差: -2.3
平均振り角:
水平姿勢 270°
垂直姿勢 231°

評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 4pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 14pt.
視認性(5pt.) 4pt.
装着性(10pt.) 8pt.
ムーブメント(20pt.) 17pt.
精度安定性(10pt.) 7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 12pt.
合計 83pt.