新しいジン「613 St UTC」は、ダイバーズウォッチ、クロノグラフ、そして第2時間帯表示機能を併せ持つ。実用性と美しさを兼ね備え、多くの強みを備えながらも、ほんのわずかな弱点しかないツールウォッチである。

Text by Rüdiger Bucher
ジン:写真
Photographs by Sinn
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年1月号掲載記事]
1本に3役を担わせたジンらしい合理主義
本格的なツールウォッチを求める人で、期待される以上のものを備え、かつ同時に見た目も良い腕時計を探しているなら、ジンは理想的な選択肢だ。そのことは、今もなお拡大を続ける大きなファン層が証明しているといえるだろう。
ジンの腕時計は、すべてのディテールが徹底的に深く考え抜かれており、そこにラインナップされる腕時計は、ジンでしか見られない技術的特徴を備えている。その最良の例のひとつが、新しいダイバーズクロノグラフ「613 St UTC」だ。ジンに少しでも詳しい人なら、モデル名中の略号が何を意味するのか見当がつくはずだ。「St」はステンレススティール製ケースを、「UTC」は第2時間帯表示が搭載されていることを意味する。ちなみに、UTCと名付けられてはいるが、第2時間帯が指し示す時刻は、国際的な基準時刻であるUTC(協定世界時)である必要は必ずしもない。ビジネスパートナーや家族が滞在しているかもしれない、自分とは別の時間帯の時刻でもよいのだ。

この腕時計の特徴を挙げてみよう。ダイバーズであり、クロノグラフを搭載し、第2時間帯も表示する。このように、実に多くの機能を提供する。加えて、明確にデザインが構成され、文字盤上の機能は色分けによって容易に区別できる工夫がなされているところも大きなポイントだ。
ではどこから語ることにしようか?多くの人にとって、まず目に入るであろう、大きな白いサブダイアルが適切だろうか? しかし、私個人としては第一にベゼルに注目したい。私にとって、本作の魅力の大部分を占めるからだ。まずはここから始めよう。
その理由は、私がこの腕時計を見たとき、ベゼルに何よりも先に注目したからだ。黒く陽極酸化されたアルミニウム製のベゼルインサートには、分単位の目盛りが配されている。これに対応して、1周60クリックを備える。ベゼル上のはっきりとしたアラビア数字は、文字盤上の蓄光が施されたバーインデックスとは対照的だ。
ベゼル外周の縁にはやや大きめの刻みが施されているので、回転時の感覚は良好だ。軽すぎず、重すぎず、ダイバーズウォッチであるため、反時計回りの方向にのみ回転する。ダイビングを開始する際には、白い三角形のマーカーを分針に合わせ、マーカーと現在の分針の距離で何分間潜っているかを読み取ることができる。万が一、ベゼルを誤って動かしてしまっても、潜水時間は短くなることはあっても、長くなることはない。
ケース全体はサンドブラスト加工がなされており、ポリッシュされた部分はない。この処理方法が、この腕時計のツールウォッチ的な性格をいっそう強調している印象を与える。それでいて、このケースは決して単純なものではない。面取りされたラグ、リュウズプロテクション、そしてプッシャー用ガイドのおかげで、多くの要素が視覚的なポイントとなっている。また、これらのディテールの多くは、この腕時計の15mmという厚さを巧みに隠している印象を与えるのだ。
500m防水

500mに達するこの高い防水性に寄与しているのが、ねじ込み式の裏蓋とねじ込み式リュウズである。だが、それだけではない。リュウズとプッシャーは、特に効果的な方法で気密化されている。すなわち、ジン独自の「D3システム」である。D3とは「direct doppelt dichtend」を略した名称で、日本語に訳せば「直接・二重密閉」を意味する。このシステムでは、プッシャーの軸およびリュウズの巻き真がチューブを介さず、極めて精密に加工されたケース側の穴を、そのまま通って導かれる構造となっている。ジンの工夫はそれだけにとどまらない。加えて、ケース内部と外気の間の拡散を極めて抑制し、同時に著しく耐候性・耐経年性に優れた、ふたつの特別なシールを連続して配置する。このため、プッシャーは水中でいつでも使用でき、気密性の問題が生じることはない。
ここで次に、ジンが開発したもうひとつの技術「Arドライテクノロジー」に移る。プロテクトガス充填とドライカプセルによって、腕時計内部を湿気から守る仕組みだ。なお、この技術は、ダイバーズウォッチだけに使われているわけではない。ムーブメント内部の腐食やオイルの劣化といった望ましくない経年変化を防ぐ、もしくは、少なくとも遅らせるうえで有効だからだ。潜水時には、このテクノロジーによる曇り止め効果が、追加の利点ともなる。風防内側に水滴が生じると、視認性が大幅に損なわれてしまうのである。なお、この腕時計ユーザーは、カプセルが湿気を吸収して飽和状態になったことを、白から淡い青への変色で知ることができ、その場合は早めの交換を推奨する。
文字盤を最良の状態で視認させるのが、両面無反射コーティングが施されたサファイアクリスタルである。ここにも、元々はジンがパイロットウォッチのために採用した減圧耐性を備えており、高高度の低圧状態でも外れにくいというものだ。
文字盤上の6本の針

文字盤に注目すると、そこには多くの見るべき点がある。時針、第2時間帯を指し示す針、クロノグラフ用の針など、これらの表示を担う6本の針は、互いを明確に区別できることが望ましい。ジンはこれを色分けによって達成した。白い針は時・分・秒を示す。なお、スモールセコンドは9時位置にある。赤い針はクロノグラフ用で、グレーの針が第2時間帯のためのものだ。後者は同じくグレーの24時間目盛りと結び付いている。
色分けに加え、重要度の順序のデザインが文字盤上には見て取れる。時刻表示、そしてクロノグラフが優先されており、対して第2時間帯は、文字盤の色に近づけられているようだ。最も控えめな配置を強いられているのはスモールセコンドだろう。24時間表示と共存するために目盛りの半分を譲っており、左側は、ほぼ24時間表示の目盛りに占有されている。文字盤上の残りの部分は、主役ともいうべき真っ白な60分積算計に譲られている。
大型60分積算計

今日のクロノグラフのほとんどは30分積算計を備えている。しかしながら、歴史的には45分積算計が採用される例も時折見受けられる。この腕時計に搭載された60分積算計は、明らかに稀少であり、存在するとしても、ジンのように大きなサイズのものばかりではない。しかし、この大きさゆえに、分は非常に読み取りやすい。
この60分積算計という要素は、搭載するセリタ製ムーブメント、Cal.SW535によるところが大きいだろう。このムーブメントはセリタによって製造されているものの、よく知られているジンの、キャリバーSZ02の思想を反映したものだ。このムーブメントは、ETAのCal.7750、後にはコンセプトのCal.C99001をベースにして、ジンが開発したものだ。60分積算計は、30分積算計に比べて経過時間を直感的に読み取りやすい点が特徴的だ。加えて、分ごとにジャンプする構造も特徴といえる。ジンはCal.SZ02をリュウズ左側のクロノグラフに使用していた。本作を含む「613」コレクションでは、リュウズ右側のモデル用に、セリタがジンとの合意のもと製造したCal.SW535が採用された。ただし決定的な違いは、60分積算計が1分ごとにジャンプしないという点にあるだろう。
たとえばCal.SZ02搭載の「EZM 13.1」を所有している人は、この「分の読み取り」に少々慣れが必要になるかもしれない。今回テストした613 St UTCでは赤い積算計針が、しばしば次の目盛りに向けて、ジャンプ式よりも何秒か早く進んでいるからだ。
視認性について

クロノグラフ機能のための針には蓄光塗料が施されていないため、夜間や水中では暗いままだ。しかし、通常の時刻表示のための針は、非常に読み取りやすい。時針、分針、スモールセコンドとインデックスはルミノバが塗布されている。ベゼルの三角形のゼロマーカーも同様であり、潜水時間の経過は常に把握可能だ。
しかし、ひとつだけ残念な点がある。日常使用において、白い時針と分針が、白いサブダイアルの上に重なると、一見したときに、見えなくなってしまう。さらに、グレーのUTC針が至近にあると、一瞬、どの針を読むべきなのか混乱してしまうのだ。少なくとも、私にはそう感じられる。
豊富なストラップの選択肢

ジンは自社ラインナップの腕時計に合わせて、多くの公式ストラップを提供しており、ジンの公式ウェブサイトから購入できる。今回のテストウォッチには、筆者が購入したグレーのキャンバスレザー・ストラップを取り付けた。これはグレージーンズのような趣があり、私には非常に好ましく感じられる。
癖のない見た目のこのストラップは、スポーティーでカジュアルな日常使いに向いており、耐久性が高く、腕には非常によく馴染む。しかしながら、穴を通す部分には、すぐに軽い使用痕が現れてしまう。特に、バックルの突起が当たる部分と、留め具を挿し込む穴の周辺は顕著だ。これは欠点ではなく、このストラップの仕様だ。
私はバックルのピンが曲げただけのものではなく、削り出しであってほしかった。そしてバックル自体の柔らかい丸みのある形状は、ケースの角張った造形とは、正直あまり調和していない。とはいえ、バックルも同じくサンドブラスト仕上げだ。
総じて、613 St UTCは直径41mmという良好なプロポーションで、快適に着用できる実用的なツールウォッチだ。価格は、提供される性能や技術を考えれば極めて良心的ではないだろうか。

ジン「613 St UTC」のスペック

プラスポイント、マイナスポイント
+point
・高いデザイン性
・Arドライテクノロジー搭載
・耐負圧性および耐環境性能が高い
・豊富なストラップバリエーション
・価格競争力の高さ
-point
・視認性の一部に難あり
・姿勢差による精度のばらつき
・バックルが簡素
技術仕様
| 製造: | ジン |
| リファレンスナンバー: | 613 St UTC |
| 機能: | 時、分、スモールセコンド(秒針停止機能付き)、60秒・60分積算計を備えたクロノグラフ、第2時間帯表示 |
| ムーブメント: | Cal.SW535、自動巻き、2万8800振動/時、23石、パワーリザーブ約56時間 |
| ケース: | ステンレススティール製ケース(サンドブラスト仕上げ)、特殊結合方式の逆回転防止ベゼル(アルミニウム製ブラックアルマイト加工リング)、サファイアクリスタル製風防(両面無反射コーティング)、ねじ込み式リュウズおよび裏蓋、Arドライテクノロジー、D3システム、耐磁性能8万A/m、500m防水 |
| 文字盤: | マットブラック、スーパールミノバ塗布のインデックスと時針・分針・秒針、グレーのUTC用針、赤のクロノグラフ針 |
| ストラップ&バックル: | フォールディングバックルを備えた、サンドブラストが施されたステンレススティール製ブレスレット、もしくは尾錠タイプのシリコン製ストラップ |
| サイズ: | 直径41mm、厚さ15mm、ラグからラグまで47mm、ラグ幅20mm、重量111g(実測値) |
| 価格: | ブレスレット仕様は84万1500円(税込み)、シリコン製ストラップ仕様は75万3500円(税込み) |
*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。
精度安定試験
| クロノグラフ非作動時 | クロノグラフ作動時 | |
| 最大姿勢差: | 15秒 | 13秒 |
| 平均日差: | +6秒/日 | +9秒/日 |
| 着用時平均日差: | +7秒/日 | +5秒/日 |
評価
| ストラップ&バックル(最大10pt.) | 7pt. | 別売りのテキスタイルストラップを選んだ場合、快適でスタイリッシュだが、穴は使用による摩耗が発生する。また、ピンバックルがプレス成型である点に改善の余地がある。 |
| 操作性(5pt.) | 5pt. | リュウズ、プッシャー、ベゼルはいずれも確実で快適に操作できる。スタート/ストッププッシャーは適度な抵抗があり、操作に安心感がある。 |
| ケース(10pt.) | 9pt | Arドライテクノロジー、耐負圧性、脱落防止ベゼルなど、ジン独自の技術が凝縮されている。全面サンドブラスト仕上げにより指紋が目立たず、ツールウォッチとしての存在感も強い。 |
| デザイン(15pt.) | 14pt. | 機能性に根差した造形が全体として魅力的なツールデザインに結実している。複雑なケース形状がボリューム感を巧みに抑えている。 |
| 文字盤と針(10pt.) | 10pt. | 各針が機能別に色分けされ、視認性と判別性に優れる。60分積算計の大型サブダイアルがクロノグラフとしての実用性を高めている。 |
| 視認性(5pt.) | 4pt. | 暗所では時刻表示の視認性が非常に高い一方、白い針が白い積算計上に重なる場面では、瞬間的に判読性が低下することがある。 |
| 装着性(5pt.) | 5pt. | ラグ形状とケースサイズのバランスが良く、装着感は快適。キャンバスストラップの肌当たりも良好である。 |
| ムーブメント(20pt.) | 14pt. | セリタ製Cal.SW535はジン仕様の60分積算計を備えた特別設計であり、信頼性が高い。パワーリザーブと技術的特性も優秀。 |
| 精度安定性(10pt.) | 6pt. | 姿勢差誤差が大きく、平均日差は良好ながら、クロノグラフ作動時の進みがやや高めに出る傾向がある。 |
| コストパフォーマンス(10pt.) | 9pt. | 高度な技術と実用性を備えたツールウォッチとして、製品価格は極めて良心的である。 |
| 合計 | 83pt. |



