『ヨーロッパスター』発行人兼編集長のセルジュ・マイラールにインタビュー。「日本の時計産業には3つの大きな特徴がある」

2026.03.25

今や世界的に注目を集める日本の時計産業。その要因は、スイスのいい友人たちのおかげだ。ひとりは大阪大学のピエール=イヴ・ドンゼ教授、そしてもうひとりが『europa star』誌の発行人兼編集長であるセルジュ・マイラールだ。

三田村優:写真
Photograph by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年3月号掲載記事]


日本には品質、信頼性、そして歴史という裏付けがある

セルジュ・マイラール

セルジュ・マイラール
1927年にスイスで創刊された歴史ある時計専門誌『ヨーロッパスター』の発行人兼編集長。同誌は家族経営の独立系メディアであり、セルジュ・マイラール氏は創立者のひ孫に当たる。伝統あるメディアを牽引する彼は、デジタル化を強力に推し進めるだけでなく、循環型社会と中古品に特化したメディアや、ジュエリーとジュエリーウォッチに関するメディアも新たに刊行した。

 創刊から1世紀を経た時計メディアの創業家に生まれた彼は、曾祖父の代から続く、日本との絆を大切にしてきた。

「かつてバーゼルワールド(時計見本市)に日本ブランドの出展が許されていなかった時代でさえ、彼らがスイスに来れば、私たちは手助けをしていました。もちろん、スイスの時計メーカーを愛していますが、私たちの役割は世界中の時計産業のプレイヤー同士をつなぐことにあると考えています。国は関係ありませんからね」。同メディアがしばしば日本特集(しかもその内容は私たちがうらやむほどだ)を組む理由だ。

「今回来日したのは、日本のメーカーに寄るためですね。カシオ、エプソン、ミナセ、シチズンに、もちろんセイコーもです。その後、ドンゼ教授に会いますね。帰国は来週の火曜日です」。そんな彼は、日本の時計産業をどう見ているのだろうか?

『europa star』

『europa star』
創刊1927年の、現存する世界で最古の時計メディアであり、多くの時計関係者にとってのいわばバイブル。創設者のヒューゴ・ブクサーは同誌を通じて、スイスの時計、宝飾品、精密機械の輸出促進を企図した。専門誌でありながらも間口の広さも極めてユニーク。現在、同誌はデジタル化され、すべてのバックナンバーを完全検索できる。

「日本の時計産業には3つの大きな特徴があると思います。スイスは、独占性(稀少価値)を保証するために生産数を抑える傾向にあります。もちろん、スウォッチやティソ、ミドーのように手頃な価格帯で競合するブランドもありますが、スイス時計産業全体としては『価格を上げ、数を減らす』方向に向かっています。これは日本ブランドにとって良いスペースになるでしょう。日本製の時計には、信頼できる品質と価格のバランスという定評があります。1000ドル以下の市場には中国や米国など多くのブランドがありますが、日本には品質、信頼性、そして歴史という裏付けがあります。日本という国自体が、高級で質の高いものを意味しますからね」。そんな彼は、スイスは日本と共存しうると語る。

「例えば、ひとつのブランドだけで、スイス時計産業全体の生産本数(約1600万本弱)よりも多いカシオがありますね。ですが同時に独立時計師やマイクロメゾンによる『超高級路線』がいかに成功しているかも見ています。工業的に大量生産される時計の信頼性と、職人の手仕事による情緒。日本メーカーは歴史的に『工業的なボリューム』に強みがあり、これは大きな競争上の資産です。工業的なルーツを守りつつ、一方で『日本』というブランドイメージを活かして高級時計市場でもシェアを奪う。最近は独立時計師も活躍しており、これは非常に良い兆候だと思います。スイスが高級化して空いた市場を、日本が埋めるチャンスは十分にあると思っていますよ」



Contact info:https://www.europastar.com


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