自らの名を冠したブランド「ビバー」を興して約3年。ジャン-クロード・ビバーはまず55万スイスフランの「カリヨントゥールビヨン」をリリースした後、2024年に「オートマティック」を投入した。デュボア・デプラと共同開発した自動巻きを載せる3針モデルの価格は7万5000スイスフランから。さらにドバイ ウォッチウィーク 2025では、ギヨシェやグラン フー エナメル、天然石文字盤を用いた11もの新バリエーションを追加した。かつて彼が成功を収めた理由には、マーケティングに加えて価格戦略の巧みさがあった。ではなぜ、自分のブランドでは途方もない価格のモデルからスタートしたのか?
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年5月号掲載記事]
名伯楽ビバーがたどり着いた質の追求という永遠

ビバー創業者。1949年、ルクセンブルク生まれ。オーデマ ピゲを経てASUAGグループ(現スウォッチ グループ)入社。82年にブランパンを再興した後、2004年、ウブロCEOに就任。フュージョンをコンセプトに、わずか2年で売り上げを4倍にまで拡大させた。14年、LVMHグループウォッチ部門のプレジデントに就任。22年1月、自身の名を冠したブランド「ビバー」を創業。
「私は販売フローの重要性を過小評価していたかもしれない。年間150万スイスフランの売り上げを作るなら、150万の時計を1本売るより、30万スイスフランで5本売る方がブランドには意味がある」
読み違いを率直に認めるあたりは、いかにもビバーらしい。しかし、と彼は続ける。
「コストは最優先ではなかった。見えない部分まで独自であること、品質において唯一無二であること。ブランドを永遠に導くのが使命だからね」。つまり計算よりも、自らの信念が先に立ったということだろう。
ムーブメントについても聞いた。3針モデルが搭載するJCB-003はデュボア・デプラとの共同開発だ。傑出した仕上がりを持つが、ビバーの価格帯ならば完全自社製造を求める声もあるのではないか?
「ムーブメントは双方が共同で設計したものだ。デュボア・デプラのノウハウと、当社エンジニアのフランソワ・ペレの知見が融合している。そして装飾はすべて当社の工房で施したものだ」。実際、18Kゴールドの地板と受けにクル・ド・パリを手彫りした仕上がりは見事だ。設計の出自より、何をするかが肝要だ、というのが彼のスタンスなのだろう。

ジャン-クロード・ビバーが言うところの「決して“ベーシック”ではない新作」。マイクロローター自動巻きの3針と至ってオーソドックスな構成を持つが、ムーブメントを含む仕上げは圧巻だ。自動巻き(Cal.JCB-003-A)。36石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KRGケース(直径39mm、厚さ10mm)。8気圧防水。8万スイスフラン~。
メーカーとしての歴史は浅いが、傑出した時計を作り上げるビバー。多くの関係者が認める通り、彼の半世紀以上にわたるキャリアが、それを支えているのは間違いない。では、名伯楽ビバーのテイストやDNAを、今後どうやって残すのか?
「私たちは、品質に対するコントロールを決して手放すことはない。私たちの存在理由とブランドの根幹を成す理念は、目に見えない部分でこそ質を極めることにある。その『魂』とは、私たちの創り出すオブジェの最も重要な要素であり、その魂は老いることなく、永遠に存在し続けるよ」
審美眼の継承とは即ち質の継承。かつて「私はプロダクト出身の人間だ」と語ったビバーの行き着いた先とは、果てしなき質の追求だったのである。



