歴史に伝わるアイコニックなジュエリーデザインを継承し、ウォッチメイキングの世界へと昇華したティファニーの新作タイムピース。ジュエラーのビジョンを投影した独創的なウォッチが登場した。

ティファニー ブルーのパイヨン エナメルを、手首の動きとともに回転するアウターリングへと配した「エナメル ウォッチ」。“パイヨン”とは七宝の下地に敷く金属片を意味するフランス語。半透明のエナメルと重ねることで、光を反射し、きらめく質感を導き出す。写真はフルパヴェセッティングのダイヤモンドモデルで、1236石(合計8.38ct)のダイヤモンドがケースおよびブレスレットに配されている。クォーツ。18KWG×ダイヤモンドケース(直径38mm)。4669万5000円(税込み)。
Photographs by Eiichi Okuyama, Yu Mitamura
野上亜紀:文
Text by Aki Nogami
安部毅、細田雄人(クロノス日本版):編集
Edited by Takeshi Abe, Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年5月号掲載記事]
ハイジュエリーと高級時計の交差点を求めて

歴史的な「クロワジヨン バングル」の特徴的なモチーフは、クロワジヨン(十字架)を彷彿させる18Kイエローゴールドのクロスステッチと直線のステッチを交互に配したもの。テキスタイルメーカーの一族にルーツを持つジャン・シュランバージェならではのデザインだ。アウターリングに対し、時分針を配した固定式の文字盤中央には204石のダイヤモンドを雪のようなきらめきを放つスノーセッティングで施した。クォーツ。18KYG×ダイヤモンドケース(直径36mm)。2486万円(税込み)。
ハイジュエリーのイマジネーションをウォッチメイキングの世界へと投影するティファニー。今年の新たなテーマとなったのは、「クロノグラフ」と「エナメル」である。「ジュエラーによるクロノグラフの再解釈」と銘打たれた「ティファニー タイマー」は、ティファニーによるウォッチメイキングの歩みを見つめ直した作品だ。その一方で19世紀からテーブルウェアやクロック、ブローチなどのあらゆるアイテムを彩るために、自社工房でエナメル技術を培ってきた同社の歴史を綴るのが「エナメル ウォッチ」である。1889年のパリ万国博覧会で披露されたポールディング・ファーンハムの「アップル ブロッサム ラペル ウォッチ」など、世界を魅了したティファニーのエナメルウォッチは、今も貴重なアーカイブとして受け継がれている。



今作の源泉となったのはデザイナー、ジャン・シュランバージェが1962年に編み出した「クロワジヨン バングル」だ。クロスステッチの意匠が際立つバングルはかつてジャクリーン・ケネディも愛用していた名品であり、現在も「ジャン シュランバージェ エナメル ブレスレット」として人気を博している。

ジャン・シュランバージェはハイジュエリー製作において積極的にエナメル技術を取り入れており、本作のティファニー ブルーモデルにおいてはシュランバージェが殊に好んだというパイヨン エナメルの技術が採用された。クロスステッチが可動式のアウターリングに施され、パイヨン エナメルが動くことで光を反射し、その輝きを一層増すという仕掛けも心憎い。

エタニティリングを彷彿させる12種類のカットのダイヤモンド(ラウンド ブリリアント、バゲット、クッション、ティファニー トゥルー®、マーキース、アッシャー、ハート、ペア、オーバル、エメラルド、トライアングル、プリンセス)を配した「ティファニー エタニティ」から、バゲットカットの宝石をベゼルに配したモデルが登場。自動巻き(Cal.LTM 2100)。2万5200振動/時。パワーリザーブ約38時間。18KWG×ダイヤモンド×トパーズ×エメラルド×サファイアケース(直径36mm)。2832万5000円(税込み)。

グラデーションカラーが見事な時計の一方で、こちらはバゲットカットダイヤモンドの透明感あふれる輝きをベゼルに配した。インデックスには新たにアクアマリンを採用。リュウズにはティファニー セッティング®のエンゲージメント リングから着想した、6本爪の意匠が取り入れられている。スイス製の自動巻きムーブメントを搭載。自動巻き(Cal.LTM 2100)。2万5200振動/時。パワーリザーブ約38時間。18KWG×ダイヤモンド×アクアマリンケース(直径36mm)。3602万5000円(税込み)。
ティファニー オルロジュリー シニア ヴァイス プレジデントを務めるニコラ・ボーは同作を「単なるジュエリーのミニチュア版ではない」と語る。バングルを彩ってきたパイヨン エナメルの技術を時計製造へと応用し、同様の審美性を達成するためには製作プロセスを根本から見直す必要があったからだ。


1959年に発表された、ジャン・シュランバージェによるジュエリーコレクション「16 ストーン」から誕生したモデル。シュランバージェのルーツであるアルザス地方のテキスタイル文化から着想を得たポリッシュ仕上げのクロスステッチを取り付け、ダイヤモンドセッティングを施したアウターリングの製作には、合計25時間が要される。新作にはマザー・オブ・パール文字盤が採用された。ケースにはスノーセッティングを施して。クォーツ。18KWGケース(直径36mm)。2194万5000円(税込み)。
時計とジュエリーは一見親和性の高いカテゴリー同士だが、両者を融合させるためには、プロポーションや機能性をはじめとする時計の制約の中で、いかにしてジュエリーのクリエイティビティを落とし込むかという想像力と技術力、そして経験値とが求められる。それゆえニコラ・ボーは、ティファニー ウォッチにおける創作の本質は単なる再現にとどまることなく、装飾的なルーツをつぶさに検証し、再解釈することにあると語る。ティファニーが誇る歴代の名品がいかにして時計の世界へと昇華されるのか ── そのさらなる発展を、これらのタイムピースは予感させるに違いない。

ティファニー初のストップウォッチ「ティファニー タイマー」の誕生160周年を記念するモデル。ハイジュエラーの証しとしてプラチナ素材をケースに採用。プッシャーが織り成す丸みのあるフォルムも独創的だ。ティファニー用にカスタマイズされたゼニスの自動巻きクロノグラフムーブメント「エル・プリメロ」を搭載。自動巻き(Cal.エル・プリメロ400)。31石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約42時間。Ptケース(直径40mm)。10気圧防水。世界限定60本。885万5000円(税込み)。




