ミドルレンジの価格帯をリードし続けるロンジン。2025年に同社のCEOとして就任したのが、パトリック・アウンだ。長らく、中東やインドといった難しい地域で責任者を務めていた彼は、先のCEOの辞任に伴い、現職に大抜擢された。
Photograph by Keita Takahashi
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年5月号掲載記事]
消費者たちは価格の上昇を望んではいないのです

ロンジンCEO。レバノン生まれ。化粧品メーカーを経て2005年にスウォッチ グループに入社。ラドーの中東地域のブランドマネージャーを務めた後、07年にロンジンに移籍。中東で同ブランドのブランド構築を主導したほか、インドでのスウォッチグループの全体のビジネスを拡大させた。25年6月から現職。販売畑出身だが、プロダクトも十分に知悉する地に足の付いたCEOだ。
「私はロンジンで働いて約20年になります。このブランドの強みとは、一貫性があること、そしてバリューがあることですね。伝統、パフォーマンス、エレガンスが共鳴すること、価値観とつながること。タイムレスなデザイン、クラシックだがオールドファッションではないこと、正確であることなどね」。そんな彼が重視するのは、ハイエック・シニアの言葉だという。
「ハイエック・シニアには、ロンジンは5000スイスフラン(約100万円)以下の価格帯でリーダーになるべきと言われたんですよ。現在、多くのブランドは価格のセグメントを超えてしまった。安価なものもあれば、高価なものも作る。しかし、ロンジンは5000スイスフランを決して超えません。クライアントの期待に応えないといけませんからね。幸いにもロンジンは巨大なスウォッチ グループに属しています。それはファンタスティックなことですよ」。ロンジンが価格を抑え、良質な時計を作っていることは多くの人々の知るところだ。しかし、スイスフランは高騰している。今後ロンジンは、どのように対処するのだろうか?
「確かにスイスフランは高騰していますね。でも今は価格の上昇を吸収できている。理由は、生産本数が多いから。消費者の皆さんは、価格の上昇を求めていないでしょうから、仮に値段を上げるにしても、数%が限界でしょうね。他社のように10%とか15%上げることはありませんよ。例えば女性用のロンジン ドルチェビータ。これはまだ2300スイスフラン(日本での展開は20万円台から)なのですよ。でも価格を維持するには、より大きなボリュームを獲得しなければならないのです」。彼が挙げたロンジンの強みは、伝統に加えて多様性である。

ロンジンのヒット作に追加された3針モデル。日付表示が省かれたほか、ケースのディテールにも手が入れられ、装着感もいっそう改善された。上質な内外装と、クロノメーター規格が保証する高精度、そして5年保証という内容を考えれば、価格は極めて戦略的だ。自動巻き(Cal.888.4)。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径39mm、厚さ11.5mm)。10気圧防水。37万1800円(税込み)。
「幸い、ロンジンはモノプロダクトに依存していません。ドルチェビータ、ヘリテージ、コンクエストなど、どれも強い。多様性がロンジンの強みなのですね。ですから、スポーツウォッチもドレスウォッチもレディースウォッチも、私たちにとっては重要な柱なのです」。ボリュームと多様性を重視する同氏。では今後のプロダクトはどのように展開していくのだろうか?
「多くのコレクションを持つ気はないですが、ボリュームは欲しいですね。20はいらないけれど、ボリュームは必要です」
ロンジンに勤めて約20年。マーケットとプロダクトを知悉し、価格を抑えようとする彼の手腕に期待するところ大だ。



