薄型ムーブメントを得意とするピアジェが2012年に発表した「Cal.1200S」。マイクロローター自動巻きの「Cal.1200P」をベースとしたスケルトンムーブメントで、「ピアジェ ポロ スケルトン」に搭載されて以降は、モダンな印象を一層強めた。しかしCal.1200Sに盛り込まれた“抜き”の手法は、古典の定石に則ったものだ。それがなぜ、モダンに映るのか? デザイン面から考察してみたい。

ケースの刷新により、防水性が高められた新しいスケルトンウォッチ。ワンタッチでの着脱を可能にするシングルタッチのインターチェンジャブル機構に変更され、ストラップの交換がさらに容易になった。付属するブルーのラバーストラップには、フォールディングバックルが備えられる。自動巻き(Cal.1200S1)。25石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約44時間。SSケース(直径42mm、厚さ6.5mm)。5気圧防水。514万8000円(税込み)。
Photographs by Eiichi Okuyama
鈴木裕之:文
Text by Hiroyuki Suzuki
Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2026年11月号掲載記事]
実用性の向上にも力が注がれた、スリムスケルトンの最進化形
既存のムーブメントをスケルトナイズする場合、その造形はベース機の意匠に大きく左右される。分かりやすいのはブリッジ(受け)が配されるケースバック側だろう。パーツが細かく分割されているため、そのアウトラインが必ず残るからだ。一方、ダイアル側に配置されるベースプレート(地板)は、1枚板の上に輪列を載せるための部品だ。歯車を収めるための窪みと、ホゾを支えるための穴石。つまり構成要素は円と点である。ここから構造体としての剛性を確保しつつ、いかに不要な箇所を削ぎ落とし、残された部分に新しい審美性を生み出すかがスケルトナイズの勘どころだ。
これは筆者の持論だが、香箱やテンワといったラウンドパーツの周囲に“円”の縁取りを残しつつ、点と点を無理なく繋いでゆけば、クラシカルな造形が完成する。この際、点と点を繋ぐ“線”は、細ければ細いほど古典的になる。一方、輪列の流れを無視して、直線的に“線”の造形を残せばモダナイズされた印象になりやすい。モダンスケルトンが幾何学的、または直線的な印象を生み出しやすいのは、そもそも地板の直径が大きく、輪列配置の自由度が高いからという理由もあるだろう。この論に従うなら、ピアジェが2012年に発表したマイクロローター自動巻きのCal.1200Sは、古式に則ったモダンスケルトンと呼べそうだ。


1200Sの原型は、10年に登場した1200Pである。これは手巻きの430Pから主要なコンポーネントを流用しつつ、輪列との同一レイヤーにマイクロローターを配したもの。これを実現させるために、地板の直径は20.5mmから29.9mmにまで拡大された。これをリーニュ換算すれば、430Pの9リーニュに対し、1200Pは13.25リーニュとなり、輪列を共有する兄弟機としては、かなりの大径化がなされたことになる。1200Pというベース機は、そもそもスケルトナイズを受け入れる余地が大きかったとも言えるだろう。

しかし実際には、1200Pにスケルトナイズを施すのは極めて難しかった。ムーブメントの厚さが2.35mmしかない超薄型機だったからだ。1200Sの厚さは2.40mmで、0.05mmだけ厚くなってはいるのだが、それでも地板はかなり薄いはずだ。さて、1200Sに施されたスケルトナイズのパターンは、前述の例で言えば古典寄りの手法で間違いない。香箱やマイクロローター、テンワなどの外周に円形の縁取りを残し、穴石や軸受けが織り成す点を自然に繋いだものだ。しかし、もしも地板に相応の厚みがあったなら、点と点を繋いだ線をもっと細く絞り込んだはずだ。実際、往年のスケルトナイズ機では、地板の厚さよりも細く仕上げた例はいくつも存在する。しかし1200Pにその手法をそのまま使ったら、線は糸のように細くなって、完全に剛性を失ってしまう。だからこそ1200Sでは、線の部分をかなり幅広に残した。古式に則ったはずの1200Sがモダンに見えるのは、縁や線が幅広だからである。決してCVDによるブルーコーティングだけが、モダナイズされた印象を醸し出している理由ではないのだ。
もっともこの幅広な線は、ピアジェらしい副産物も生み出した。その幅を活かして、ジェムセッティングを施したのだ。地板の素材を14Kホワイトゴールドに改めた1200D1がそれで、石によってさまざまなバリエーションがあるが、合計303個のプレシャスストーンがセッティングされている。
技術力の結集が叶えた限定「アルティプラノ」の優艶な佇まい

自動巻き(Cal.1200D1)。25石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約44時間。18KWGケース(直径38mm、厚さ6mm)。3気圧防水。世界限定28本。2640万円(税込み)。
Cal.1200S1の基本設計をそのまま活かして、ジェムセッティングを施したプレシャスムーブメントがCal.1200D1。地板や受けの素材が14KWGに変更され、厚み自体も2.45mmから3mmに増えている。これは石自体のサイズもあるが、光を採り込むために彫りの深さが必要だったためだろう。写真の「アルティプラノ プレシャススケルトン」ではムーブメントだけで、ラウンドブリリアントカットのダイヤモンドが58個、カボションカットのサファイアが11個、ラウンドブリリアントカットのサファイアが234個セッティングされている。発表当時のCal.1200Sと、現行モデルであるCal.1200S1の違いは主に脱進機の仕様で、耐磁性がさらに高められているようだ。




